鬼を治めるよーじ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《カラス天狗》

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 葉治は薄暗い意識下に居た。先ほどまで視界がはっきりとしていたのに、遮断されるように現実との境目が付かなくなっている。しかし、声だけは聞こえた。少年の声。――鬼治丸の声だ。
「兄ちゃん、聞こえるかっ?」
「え、えっと……、鬼治丸か?」
「あぁ、そうだ。それさえわかればそれでいい。今は目が見えなくても、おらを扱えれば、弥生さえ扱うことができれば視界だって次第に見えるさ」
 はじめは何を言っているのだろうかと思った。しかし、耳を澄ますと薄暗い光の中で音が聞こえた。軍勢の鳥たちが飛び立つような大群の音だ。しかも相当の数で葉治は震えあがってしまう。すると声が聞こえた。
 「大丈夫だ、兄ちゃん。おらが付いている」どこかで鬼治丸が励ましてくれる声が聞こえる。
 だから葉治は会ったばかりだというのに、その少年へ、鬼治丸に身を委ねた。委ねられた鬼治丸は葉治に溶け込んで一つとなる。
 そして現実世界では、黒く艶やかな長い髪に染まりパーカーにジーンズを履いた青年が白い短刀を持って黒の大群へ突進をしていた。黒の大群は阿鼻叫喚な声を上げ、青年へ、いや葉治が持つ短刀へ切り裂かれては儚いほどに消失をする。
 憑依された葉治はひれ伏すこともなく果敢に挑んでは四方八方に駆け巡り、切り裂いていった。黒の異質はあやかしではない。なんとカラスだったのだ。
「カラスか……。じゃあ、兄者のみ使いの者か」
 葉治は、いや葉治に憑依をしている鬼治丸は消失したカラスを見てふっと唇を綻ばせる。それから空を見上げ自分を呪う。「おらの身体が弱くなるたびに、……兄ちゃんは強くなれるのか。それが鍵だな」
「なにを言っている人の子。貴様、鬼道丸様の軍勢を切り裂いてなにをしている?」
 声を掛けてきたのは鋭い目つきをした金色のモヒカンの髪形のヤンキーな風貌をした青年であった。しかし青年の背中には黒い羽根を生やしている。人間のように見えるが、いや、人間ではないだろう。「……カラス天狗か。兄者の御霊を守っていたカラスの長だったんだな」鬼治丸はそこまで驚かず肩をふっと下ろした。カラス天狗は鬼治丸の頭からつま先まで見た。
「ふーん。そこまで驚かないんだな、お前。人間たちは俺を見てひどく驚いて崇めたものだからな。んで、人間に憑依をしているとなると……。お前もあやかしか?」
 すると青年は髪の毛が長く、そして女の子のような顔をしている葉治の姿を見て嘲笑した。葉治は鬼治丸に憑依される前から女の子のような顔立ちをしていたのである。
 しかし嘲るカラス天狗に鬼治丸は短刀をすらりと構えて向かって行った。それから突進した。鬼治丸にカラス天狗は叫んだ。「このあやかし風情がっ!」
 カラス天狗は自慢の漆黒の羽を手裏剣のように鬼治丸へ向けて放つ。だが、鬼治丸は避けるか弥生で対処してカラス天狗へ向かった。
 カラス天狗が持っている刀で対応する。打ち合う二人に端でこっそりと見ていた桃葉は巻物を手にして呟いた。「まるで鬼治丸様の兄、鬼道丸様の戦いのようだ。……鬼道丸様が鬼治丸様を失って亡くしてからおこなった、……化け物退治だ」
 二人は境内を駆けずり回りながら刀で打ち合っていた。しかし、鬼治丸の方が刀身は短いので不利ではあるが、室内である境内では刀身の長いカラス天狗の方が圧倒的に不利である。
 なぜならば、振りかざすたびに刀が境内の柱に入って邪魔をするから。そこを見逃さなかった鬼治丸は短刀で切り裂く前に回し蹴りを叩き込んだ。「うぐぅっあぁっ!???」
 なだれ込むカラス天狗を小さな身体で抑える前に床に伏せたカラス天狗へ短刀で刀を弾いた。弾いた刀は桃葉が回収する。
「や、やめろ……! 俺はまだ、やりたいことが……」
「失せろ、ハイカラ野郎。お前は兄者のみ使いとして生きるんだ」
 カラス天狗の首を落とそうとした鬼治丸であったが、異変は起こった。いきなり呻いたのだ。呻いて身体をばたつかせたかと思えば、長かった髪は短くなって怒りで燃え上がる瞳は冷静な黒に戻る。
 鬼治丸の憑依が解けた瞬間をカラス天狗はこの目で見たのだ。
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