鬼を治めるよーじ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《カラス天狗の名前》

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 鬼治丸の憑依を自力で解いた葉治はふらつきながらも立ち上がる。そして白く冷たく輝いていた短刀の弥生を元の白兎の姿に戻した。
 鬼治丸はとどめを刺さなかった葉治に激高するように叫んだ。「なんでおらを元の姿に戻したっ!? こいつにとどめを刺さないと、兄者の魂は浮かばれないんだっ!」
「でも、お前はこいつを殺そうとした時にひどく悲しげな瞳をしていた。それはどうしてだ?」
 葉治が聞き返すような反応をするので鬼治丸は虚を突かれた表情を浮かべる。それからバツが悪そうな顔をした。そんな鬼治丸に葉治はそれでも聞き返した。
「この化け物を殺せばお前の兄ちゃんはうかばれるとは思う。でも、お前はどうなんだ? 俺は、薄暗い意識の中で聞こえたぞ。おらが弱くなっていく中で、俺が強くなれるかどうかって。どういう意味だよ?」
 鬼治丸は自分の失言を恥じる。それから小さな拳を握ったかと思えば、白兎の弥生を手元へ引き寄せて言い放った。
「……それは、兄ちゃんには関係ない。おらは早く兄者の元へ逝きたいんだっ。このっ、兄ちゃんのうつけ者っ! 馬鹿者っ」
「待ってくださいっ、鬼治丸様!」
 そう言って鬼治丸は走り去ってどこかへ行ってしまった。それを桃葉が追いかける。残されたカラス天狗と葉治であったが、葉治は重症のカラス天狗を担いでいった。「今、手当てしてやる。でもこれだけは約束しろ。……鬼治丸は悪くない。あいつは自分の兄さんを助けたいだけなんだ」そんな鬼治丸を庇う様子にカラス天狗は首を捻った。
「……あんたは、いったいどっちの味方なんだ。俺を殺せば、鬼道丸様の魂がうかばれたんだ。でもあんたはその邪魔をした。それは、……なぜ?」
 すると葉治はどうしてだろう、などと言いながら空を見上げていた。空は先ほどの曇天の天気ではなく、夕日に染まっていた。「……あいつが寂しそうな顔をしていたから、かな。あんたが居なくなったらそれはそれで良かったかもしれなかったけれど、鬼治丸は本当は嫌がっていたのかなって」
 どこか憂いだ顔を見せる葉治の姿が眩しくて、カラス天狗は見惚れてしまう。そしてつい言ってしまった。
「……兄貴。兄貴って呼んでも良いっすか?」
「はい?」
「ちなみに俺、睦月むつきって言いますっ。よろしくお願いします、兄貴っ!」
 敬礼するように顔を赤らめている睦月へ葉治は困った顔をしていたのであった。

 一方、とぼとぼと歩いていた鬼治丸は一心不乱に走ってしまったせいで自分がどこに居るのかがわからずにいた。夕日に染まった茜色の空に輝く謎の物体が赤や黄色、そして緑に点灯する。そして緑に点灯すると人々が歩いたり走ったりしていた。それに倣って鬼治丸も渡ろうとするが、大きな物体が横切ろうとしてきたのだ。鬼治丸は弥生を短刀に変化させぶった斬ろうとする。そこへ待ったがかかった。
「待ってください、鬼治丸様っ。斬ってしまっては家に帰られないですよ?」
「お前は、えっと……」
「この老体ですからじいちゃんと呼んでも構いません。名前は桃葉でありますが」
 桃葉は白兎に戻った弥生を抱いている鬼治丸へ手を差し伸べた。「さぁ、戻りましょう」そう優しく諭すように言うものの、鬼治丸は首を縦に振らない。
「嫌だ。兄ちゃんはおらのことが嫌いになってる。おらはどうせ嫌われ者なんだっ。おらなんていなくなれば良かったんだっ!」
 ふて腐れている様子の鬼治丸にそれでも桃葉は優しく笑んだ。そして鬼治丸の手を握る。「帰りましょう。今日はママさんが作ってくれたカレーライスというものですよ?」
「カレーライス? うまいのか、それは?」
「えぇ。日本で海兵だった軍人さんが食べていたとっても美味しい食べ物です」
「海兵……。日本は進化したんだなぁ」
「えぇ。そうですよ。さぁ、手を」
 新しくできたひ孫のように桃葉は鬼治丸の手を握って家路に着くのだ。
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