鬼を治めるよーじ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《きじとよーじっ》

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 鬼治丸と桃葉が家に帰ると先に家に帰っていた葉治と葉治の母である小枝こえだがにこっと上品に微笑んでいた。その顔つきは葉治にそっくりだなと鬼治丸はふと感じる。小枝はそのまま自己紹介をするのだ。
「あなたが鬼治丸ちゃんね。こんにちは、百済 小枝って言います。小枝ママで良いわよ。よろしくね」
「えっと……小枝、ママ?」
「……かわいい」
「えっ――?」
 すると小枝は幼げな鬼治丸を見て顔を赤らめたかと思えば鬼治丸を強く抱きしめていた。「かわいい~! もうっ、葉治のちっちゃい頃を見ているみたいっ!」などと大声を出しては赤子肌の鬼治丸へ頬ずりをしている。するとそこへ助けるように葉治がやってきて小枝と鬼治丸を引きはがした。「こら、母さん。鬼治丸が困ってるからやめな」
「え~、いいじゃないっ! こ~んな可愛い子がもう一人増えたんだからぁ」
「そうは言ってもなぁ……」
 やれやれと言った具合で葉治は鬼治丸を見やる。鬼治丸は少し顔を俯かせていたが、室内に香るスパイシーな異質な香りが気になって葉治に問いかける。
「この匂いが、カレー、ライスという奴なのか? かいへーの軍人が食べた、……日本の進化したご飯なのか?」
 鬼治丸の問いかけるような言葉に葉治は桃葉の顔を一瞬だけ見たかと思えば得心を得たようににこっと笑う。「あぁ。軍人が食べていたカレーかな。でも、お前は甘口な。俺や睦月は中辛だけど」
 甘口という言葉を紡いで鬼治丸は嬉しそうな表情を見せる。そこへ着物を着ていた姿とは違い、シャツを着たモヒカンの金髪が駆け寄ってきた。
「兄貴~っ、とっ。これは鬼治丸様! 先ほどは失礼しましたっ。俺の過ちがあったにも関わらず生かしてくださり感謝申し上げます!」
「えっと、お前は……あの、カラス天狗の」
「睦月と言います。兄貴のおかげで更生できました。どうぞこれからはよろしくお願いしますっ」
 そう言って深くお辞儀をする睦月に鬼治丸は戸惑いを抱きつつも「どうも……」などと告げる。するとそこへ小枝が鬼治丸と桃葉に呼びかけた。
「さぁさぁっ、お父さんに”きじ”くんっ。早く靴を脱いで玄関を上がってくださいなっ」
「なっ、ちょっと小枝さん! 鬼治丸様になんて口をっ」
「良いじゃないですか~、そっちの方が親しみがあるでしょう? ねぇ、”よーじ”?」
 よーじと呼ばれた葉治は確かに、などと告げて深く頷いた。「俺もきじって呼ぶか。きじの方が親しみやすいし、堅苦しくないな」
「えっ、そ、そうか? 堅苦しかったか?」
 少し自分の名前をなぞって「堅苦しさを感じさせてしまったか?」と罪悪感に苛まれた鬼治丸へ葉治は訂正するように手を振る。それから言葉を紡いだ。
「堅苦しいのが悪いわけではないけれど、親しみがあった方が良いだろう?」
 葉治の言葉に鬼治丸は「きじ……。きじ、か……」そう自分の言葉をなぞっては嬉しそうな顔をする。自分が親しくなれた存在になったのを噛み締めるように鬼治丸は、いや、きじは大輪の花のような笑みを浮かべたのだ。
「おらはきじだっ! きじって呼んでくれ、――よーじっっ!」
 きじの興奮した声に呼応するように葉治は、いや、よーじも笑みを見せて言い放つ。「あぁ、俺はよーじだ。よろしくな、きじっ!」
 よーじときじが手を取ってにこっと笑い合う。そこへよーじの母の小枝が「はいはい。じゃあ、カレーライスとサラダが待っているからねっ」などと話して皆を促した。”きじ”と呼ばれるようになった鬼治丸は、自分が嫌われ者ではない親しみのある存在となれたことが心底嬉しくて堪らずにいたのであったとさ。
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