鬼を治めるよーじ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《御朱印帳》

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 よーじは夢の中に居た。それは白い髪をした少女が自分を覗き込んでいる夢であった。きじと同じ真紅の瞳の長い髪をした少女はよーじを覗き込んだかと思えば「大丈夫ですか?」などと話しかけている。
「う……、うぅ……?」
「おーい、大丈夫ですか?」
 それからよーじの顔をぺちぺちと叩いた。それから気が付かないよーじへ今度はビンタをするが如く叩いていく白髪の少女へさすがのよーじもブチ切れる。
「おいっ、さすがにやりすぎだろっ!」
「ひぃっっ、びっくりしたよぉ~! よーじ、起きてたんじゃん!」
 「なんだぁ~っ」などと真っ白の少女は笑いかけると少女はよーじの顔を見て少し真剣な表情をした。それから自分の真っ白な着物に、胸に手を置いたかと思えばなにかを引っ張り出した。
 それは白と真紅が入り交ざった数珠のようなものであった。「これをよーじにあげる。ただこれは、よーじを本来の道から逸らすものだ」
 白い少女は首を傾げているよーじへ数珠を差し出した。よーじはなにもわからないといった様子ではあるが受け取る。すると急に胸が熱くなった。胸というよりも魂の炎が熱くなったかのように思えた。「これは……なん、だ……?」
 白髪の少女は少し顔をいびつにさせたかと思えば苦笑を浮かべる。「それは”弥生”の、鬼治様が捧げた魂だよ。朱印だ」
「朱印? なんだよ、それ……?」
 どういうことかわからずにいるよーじではあるが、白髪の少女は徐々に消えていく。どういうことなのか説明を求めたかった。しかし少女はそれでも柔らかく、悔いのない笑みを見せていた。
「それは、よーじを、助けて、くれた、のろ……し、が――」
 それから急に意識が吹き飛んであの少女は何だったのだろうかと、とっさに手を伸ばしていた。しかし伸ばしていたのは白髪の少女ではない。……小枝であった。
「母さん……、どうしてここに?」
「どうしてじゃないわよ。まったく、きじちゃんと狼煙くんが運ばれていなかったらどうなっていたんだが……」
 小枝はどこか涙ぐんだ顔をしていた。それからよーじを強く抱きしめたのだ。「おかえり、よーじ。無事に帰ってきてくれてありがとう……」
「お、おぅ……。ていうか、どういうことだ?」
 帰ってきたなんてどういうことだと思っているよーじではあるが、きじとしなやかな身体つきで羽織にジャージを着た男がきじの傍に居た。
 特にきじは涙ぐんだ顔をしている。それを羽織にジャージを着た男が慰めている様子であった。「どうしたんだ? いったいなにが――」
 するとよーじは自分の胸が熱かったのを感じた。今は夏ではない。どうして熱いのだろうかと思って胸をはだけさせて見やると、そこには印字がされていた。
 『弥生』と達筆に印字された左胸によーじは、はっと気が付いた。あの白髪の少女が弥生であったのだ。そして弥生は自分に取り込まれたのだと言うのを初めて知ったのだ。そして、その事実をきじがわかっているということ。受け止めきれずにいることをよーじは察する。
「きじ、俺に、いったい何が……?」
 するとジャージの男は少し悲しげに微笑んで挨拶をした。「こんばんは、鬼治丸様の宿り主で朱印を司る者。俺はその一体の狼煙と言います」
「狼煙……。煙が上がるあの狼煙、か?」
「はい。物事の始まりを告げる、とも言いますね。……それが弥生でした」
 狼煙はよーじの胸に刻まれた朱印をなぞっては息を吐く。よーじは訳が分からずにいる。それでも狼煙は言葉を紡いだ。
「あなたはいわゆる百済宗の御朱印帳です。鬼道様と鬼治丸様の治める台紙となるんです」
 よーじが混乱はしたもののわかったことがある。それはきじが弥生を失って悲しみに暮れていたことであった。
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