鬼を治めるよーじ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《百済宗の末裔》

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「これは……、一体?」
 夜空の前に顕現したのは水のように透明な長刀だ。しかも軽いらしく片手で軽々と振るって夜空は首を傾げる。すると狼煙がははっと笑う。
「夜空、そいつは魔を祓えるが祓いすぎるんだ。神のみ使いはともかく、小さな神ごと祓ってしまうから気を付けな。お前さんの運まで尽きるぞ?」
「えっ、えぇっっ!!! じゃ、じゃあ仕舞いますっ。えーとどうしたら……」
 すると狼煙は手と手を合わせてぱたんと閉じた。その動作を真似しようとするがさすがに刃に自分の手を突き刺すには恐怖心がある。それでも、やれというように狼煙は顎で指さした。
 もうどうにでもなれっ、というように夜空は水が固まって氷のような剣の刃を撫でて両手でぐっと閉じた。するとなんと言うことか。剣は水のように弾けて夜空の親指に戻っていくのだ。「……痛く、ない?」
「痛いわけないさ。だって、夜空を守るクシナの長刀なんだからな」
 狼煙がははっと笑うと夜空は自分の指輪を眺める。それから愛しげに親指に嵌めるのだ。「……ありがとう。クシナさん」
 クシナの優しさを噛み締めている夜空ではあるが狼煙の隣に座っているきじが羽織を引っ張る。そして言葉を紡ぐのだ。
「次はよーじの話だ。よーじが兄者の御朱印帳っていうのは知っている。でもそれだけじゃないはずだ」
「まったく……。坊ちゃんはせっかちですねぇ。夜空が持つ余雫剣あましずくのつるぎがこの話の味噌なんですよ」
「……どういうことだ?」
 きじやよーじ、睦月や夜空が首を傾げていると狼煙は説明を続けた。
「よーじはいわばあやかしに好かれやすい人間だな。というよりも、この百済宗の人間は神のみ使いもろとも好かれやすいんだ。本来であれば坊ちゃんや鬼道丸様の祠が荒らされなければ神々に好かれていただろう。でも、坊ちゃんたち双子の封印は解かれた」
 そう言って瞬間、襖が開いた。現れたのは桃葉だ。桃葉は土瓶を持って皆に茶を注いでいく。狼煙は「悪いな、当主。俺が喉渇いたから気を利かせてくれたんだろう?」すると桃葉はにこっと笑う。
「それもありますが、ここからは百済宗のことでもあります。餓鬼畜生を、いや。あやかしを納めて、噴出させてしまった我々にも責任があるのですよ」
 よーじは桃葉の話に耳を傾けた。「どういうことだよ、じいちゃん。きじや鬼道丸の祠が荒らされたのは俺たちのせいじゃないだろう?」
「きじじゃなくて鬼治丸様だし、鬼道丸様だ。まぁ、それはいい。わしらが宗派として扱っている百済宗は餓鬼畜生といったあやかしたちを治める宗派だ。そして逸話もある。――その両者の祠にある餓鬼畜生を宿らせると、莫大な力と巨万の富が生まれるというものだ」
 そんなことなど聞いたことがなかったのでよーじも夜空もかなり驚いていた。しかしそれはきじもだ。きじもそんな覚えはないという様子である。
 しかし狼煙はそのことを周知のようだ。茶を啜ってから桃葉の代わりに話をする。
「そう。それは鬼道丸様が鬼を倒すたびに町民やお偉いさん方から捧げられていた宝物だ。そしてその宝物にはあやかしが住まっている」
 桃葉以外の皆が生唾を飲んだ。狼煙は話を進めたのだ。「よーじ、お前さん。坊ちゃんや神のみ使いに憑依できるのは、百済宗の末裔だからだ。夜空はよーじに干渉していたからだろう。でもその前に使命がある。……それはどこかへ転生した鬼道丸様の怒りを鎮め、飛び出したあやかしたちを封じることだ」
「鬼道丸の怒りを鎮めて、あやかしを……封じる?」
「そう。それを当主が今まで行っていたことだった。しかし、心に闇が巣食う者は神によってあだなされる。そして、――最悪は死ぬ」
 よーじが息を呑んだ。それから動悸がする鼓動を治める為に茶を飲む。ぬるくなった茶に浮かぶのは祠で事故にあって亡くなった父親の姿であった。
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