クスノキとアベリア

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《解明と入団》

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 しっとりとした雨が降る季節になった。
 アジサイの謎についてありとあらゆる本を借りて読んでみたのだが、決定的なことは掴めない。アジサイで人殺しが判明した本があると聞いたので借りてみたが、資料のせいで読めずにいた。……というよりも、読書というものはあまり興味ないのだ。たとえそこに答えが書かれていたとしても、自分の力で解き明かしたかった。
「ふぅ……、気晴らしにアジサイをよく観察してみようかな」
 あと三日だ。三日でケリをつけないと、自分の謎の左目を解剖されるかもしれない……なんて想起して、それでもいいかもなとも思うウツギが居たのであった。
 シトシトと雨が降る植物園にはあまり人はいないが、アジサイ畑は見事であった。青や赤の色彩に富んだアジサイと種類に恵まれて訪れる人々の心を癒していく。
 少し青臭さの残る香りもまた一興だななんて思ってしまうほどだ。
 左目がきらりと青くなる。――待てよ。青と赤のアジサイがあるというのはアルカリ性と酸性の土壌があるからだ。
 日本の土の多くは酸性。……アジサイは青くなる。だったらもしも、死体のせいで色が変わったら?
「そっか、――謎が解けた」
 ウツギはアジサイに礼をして研究室の奥にある自室に行く。楠が手配してくれたのだ。机にレポート用紙を広げ、シャーペンと購入したマーカーで重要なところを線引きし……満足げな顔をするのだ。

「で、謎が解けたからここに来たってわけね」
「はい。謎は解けました」
 第三植物研究室にて、挑発的な視線を送る目木ではあるが内心では楽しそうだ。ほかの二人もそうであろう。楠もパソコンで作業をしながらウツギの謎解きを心待ちにしていた。
 誰もが楽しみと期待が込められた世界で、レポート用紙を携えて緊張気味な探偵は咳払いをしてから話し出す。
「死体のそばにアジサイが咲いていたと仮定しましょう。日本の土壌は一般的に酸性なので初めに咲くとしたら青い花のアジサイを咲きます。それはアジサイになかに含まれるアルミニウムにも作用しているからです。――しかし、ここで邪魔をするなにかが居たらどうなるでしょう。アルミニウムが作用しなくなり、アルカリ性土壌となって土が変化をしたら?」
 ウツギは息を呑んだ。
「つまり、人体には土を変えさせるだけの要素が含まれているのです。つまり普段なら青く咲く、もしくは赤く咲く花弁が人体の影響で変化をした。――だからそこに死体が埋まっているとわかったんじゃないですか?」
 ウツギの見解に皆は呆気に取られていたかと思えば、目木を筆頭に軽く拍手をしていた。どういうことなのかわからずにいるウツギに目木は「合格だ」肩に手を置いたのだ。
「驚いたよ。スマホがあったら一週間以内で調べられるけれど、先生から聞いた限りほぼ植物に関して初心者のうーちゃんがね~。……本当にスマホで調べていないよね?」
 疑いの視線を向けられるもののウツギは依然とした態度で「していませんよ」はっっきりと告げた。
 瞳の色は透き通った白潤で染まっているので、目木は一瞬にしてウツギが嘘を吐いていないことを悟る。
「じゃあ嘘は吐いてないってことね……。クロもさっちゃんも、うーちゃんが入るのに拒否はないよね」
「ないな」
「まったくもってない!!!」
 二人も異論などないようなので、目木は悪戯に笑うのだ。
「それではようこそ。我が植物探偵団へ。――うーちゃんを歓迎するよ」
「えっと、あの……。ありがとう、ございます?」
 どういった反応をすれば良いのかわからなかったので瞳を淡い水色にして会釈をしてみせれば、目木と黒鉄がそれぞれまた自己紹介をした。メギくんとクロくんと呼ばせてもらうことになったのだが、一番は荒く息をして目がハートマークになっている百日紅であった。
「じゃ、じゃあ、俺も! さっちゃんで良いからね!!!」
「あ、えっと……、その……」
「さっちゃん、がっつぐなよ~。怖がっているじゃん」
「お前本当にサルみたいだぞ?」
 目木と黒鉄が鼻息を荒くしている彼を抑え込もうとしているのだが、それでも怖がっているウツギに息を吐いて……楠が助けに来た。
「百日紅。ウツギが怖がっているから、それ以上嫌われたくなかったら一旦押さえろ」
「な、なんすか急に!? お、俺はその……姫に出会えたし」
「その姫ってなんだ。ウツギは男だぞ? いくら華奢だからってな~」
「先生はモテるから良いじゃないすかっ!?? 俺は姫と出会って世界が変わったんす!!!」
 怒鳴り口調で話しまう金髪顎ひげヤンキーにウツギは身体をビクつかせて、楠の元へ駆け寄り背後に回る。――深く青い瞳は不安感に苛まれていた。
「あの……、楠さんをいじめるのなら俺は許せないです。――おサルさん」
 ――おサルさん。
 それは百日紅が最も言われたくなかった名前の一つであった。
 彼の顔が強張ったかと思えば涙を流しそうになる。目木と黒鉄が「やば……」顔を見合わせた頃には「姫に嫌われたーーーー!!!!」泣き出して去ってしまった。
 バタン!!! ……けたたましい音が鳴り響いてシンと閉じるドアを尻目に、目木と黒鉄は今でも怯えて楠から離れないウツギへ息を吐く。
「こりゃあ新メンバーは良いけれど前途多難だね~」
「さっちゃんも好きな相手ほど空回りするからな」
 遠い目をしている目木と冷静に分析をする黒鉄を傍目に、ウツギは楠の耳元に駆け寄る。
「頑張ったからご褒美ください。――キスしてください」
「……はぁ?」
 また突拍子もないことを言いだすウツギの天然さに、楠は頭を抱えた。
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