9 / 35
《チューリップ》
しおりを挟む
木の香りに触れ、花々が咲き乱れている植物園にて、ウツギは茫漠としていた。――昨日の行為が頭から離れないのだ。
楠からは「もう気にするな。俺が悪かったから」などと謝罪をされたが、ウツギはそれどころではない。単純に苦しかったけれど気持ちが良くて、自分を曝け出せそうなそんな感じがした。――悦に委ねるなんて言葉を知ったのはこの行為からだ。
「……気持ち良かったな。あの感覚」
あの瞬間、あの時の楠さん、普段よりもかっこよくて色気があって――俺の物にして欲しいと思った。
そんなウツギではあるが、当の本人は大学へと馳せ参じている。
「――よしっ! 頑張るか」
植物園の手入れや雑草などを刈り、ゴミ袋にまとめて一息吐く。もっと頑張ればあの行為をもっとしてくれるだろう。そう思うと胸が高鳴って、余計に力が入り込む。(早く大学へ行きたいな……)
ウツギは嬉々として掃除をひたすらに頑張るのだ。
掃除を終え、シャワーを浴びて着替えたウツギは大学へ向かった。クラスメートにそこそこ挨拶をしたのだが、そのなかで「合コンに行かないか?」なんていう誘いもあった。……恥ずかしながら合コンという言葉がわからなかった。
「男女で集まって食事会やったりカラオケしたりするんだよ。阿部君もどう?」
「結構楽しいよ。……私、阿部君と行きたいな~」
露出度の高い女性が腕を胸に寄せてくっつく姿は、ウツギは混乱して瞳を青くさせる。――楠が通った。
「先生! あの、この前の件で――」
「ちょっと待った! ここで言うなよ!!」
勘違いをさせている楠はウツギを連れて「悪い借りるわ」冷や汗を垂らしていた。……ウツギは積極的な積極的過ぎる女性よりも自分のために考えて合わせて話してくれる楠の方が好きだった。どういう好きなのかはわからぬが。
あとからこの前の件というのは嘘で、あの場から離れたかったと瞳を濃淡な青にして語るウツギに楠は頭を撫で「断る時はちゃんと断れ」そう言ってどこか安堵したような、だが貴重な機会を奪ってしまったなといった顔をしていた。
――第三植物研究室。入室してみると植物探偵団のメンバー、目木と黒鉄、そして百日紅が机に向かって考え込んでいる。
どうしたものかと尋ねると「チューリップがな……」黒鉄が息を吐いて大きな茶黒で栗のような物体を見せてきた。
「クロくん。それ、なに?」
「チューリップの球根。まぁ、あんまり見たことはないか」
「今回はその謎についての話だよ~」
間延びした様子で目木は二つの球根を片方ずつ見せてきた。
「片方は普通に育てればちゃんと花が咲くチューリップ。でももう片方がどうやっても咲かずに終わってしまうチューリップなんだ。どうしてそんな違いが出るのかをディベートしているっていう感じかな」
「ディベートって?」
「話し合い、議論って意味」
目木がウツギに話していくと「そもそも……」と言って百日紅が片眉を上げている。
「室内の温度に問題があったんじゃねぇの? チューリップって日当たりの問題があるだろう」
「いや、日当たりはちゃんとしていたようだ。さっちゃんの読みは外れだよ」
黒鉄の言葉に舌打ちを打とうした時、ウツギと目が合った。ウツギがびくりとして目木の背後に隠れようとする。
すると百日紅は頭をがしがしさせて「……気分転換に植物園にでも行ってくる」行ってしまったのだ。
百日紅がパタンと扉を閉ざしてほっとさせる白い片目のウツギの姿に……目木が動いた。ウツギの頭に触れたかと思えば、こめかみをぐりぐりしてきたのだ。
「うーちゃ~ん??? さっちゃんが怖いのはわかるけれどちゃんと仲良くするの。っね?」
「うぅ~、ちょっと嫌です~……」
「わざと痛くしているの。クロも言ってやってよ? これじゃあ謎に挑めないじゃんん」
今度はウツギの柔らかな頬を両手で押して文句を言わぬようにするウツギへ、黒鉄が息を吐く。
「まぁそうだな……。百日紅が圧倒的に悪いが、うーちゃん。お前もそんなに怖がるな。さっちゃんは結構良い奴だぜ?」
「で、でも。なんか、その……変な視線を感じるというか」
「うーちゃんがこの目白大のなかで男の割に華奢だし可愛いからだよね~、クロもそう思うよね」
黒鉄がまぁまぁと頷いた。……つまり下心というものがあるのか。
ウツギは友人として接したいようだが百日紅は違うらしい。確かに初めて出会った時は「姫!」なんて言われ鼻息を荒くさせていた。
もしも不意を突かれて押し倒されるかと思うとぞっとする。……でもそれは楠とは違う感情だ。楠だったら押し倒されてキスしてその後にされても良いと思ってしまう。
……この違いはなに?
だがウツギの思考など知らない二人は、見合わせてからあることを下したのだ。
「うーちゃん。今から植物園に行ってさっちゃんと和解しなさい」
「え、なんでですか?」
目木の目つきが怖くなる。
「これ以上、俺たちの仲間割れは良くないってことだよ。さっちゃんも悪いけれど、あからさまに怖がっているうーちゃんも悪い。俺たちが行ったら邪魔になるから、行ってきなさい」
そんなぁ~と涙目になって瞳を紺色にさせるウツギに目木はとどめを。
「和解しなかったらチューリップの謎はお預け。楠先生に褒められることはないね」
「!!!?」
それは困る。それはなんとしてでも解き明かしたい謎だ。――腹は括った。楠に褒めてキスしてもらうのだとウツギは決意した。
「わかりました。――行ってきます」
「え、あ、うん」
目木が困惑するなかでウツギは和解のために歩き出す。ドアがガチャリと開いて静かに閉まった。
「な、なんか……先生の力、絶大じゃない?」
「もしかして、いや……ないよな?」
目木と黒鉄が見合わせ、「ははは……」空笑いを浮かべたのだ。
楠からは「もう気にするな。俺が悪かったから」などと謝罪をされたが、ウツギはそれどころではない。単純に苦しかったけれど気持ちが良くて、自分を曝け出せそうなそんな感じがした。――悦に委ねるなんて言葉を知ったのはこの行為からだ。
「……気持ち良かったな。あの感覚」
あの瞬間、あの時の楠さん、普段よりもかっこよくて色気があって――俺の物にして欲しいと思った。
そんなウツギではあるが、当の本人は大学へと馳せ参じている。
「――よしっ! 頑張るか」
植物園の手入れや雑草などを刈り、ゴミ袋にまとめて一息吐く。もっと頑張ればあの行為をもっとしてくれるだろう。そう思うと胸が高鳴って、余計に力が入り込む。(早く大学へ行きたいな……)
ウツギは嬉々として掃除をひたすらに頑張るのだ。
掃除を終え、シャワーを浴びて着替えたウツギは大学へ向かった。クラスメートにそこそこ挨拶をしたのだが、そのなかで「合コンに行かないか?」なんていう誘いもあった。……恥ずかしながら合コンという言葉がわからなかった。
「男女で集まって食事会やったりカラオケしたりするんだよ。阿部君もどう?」
「結構楽しいよ。……私、阿部君と行きたいな~」
露出度の高い女性が腕を胸に寄せてくっつく姿は、ウツギは混乱して瞳を青くさせる。――楠が通った。
「先生! あの、この前の件で――」
「ちょっと待った! ここで言うなよ!!」
勘違いをさせている楠はウツギを連れて「悪い借りるわ」冷や汗を垂らしていた。……ウツギは積極的な積極的過ぎる女性よりも自分のために考えて合わせて話してくれる楠の方が好きだった。どういう好きなのかはわからぬが。
あとからこの前の件というのは嘘で、あの場から離れたかったと瞳を濃淡な青にして語るウツギに楠は頭を撫で「断る時はちゃんと断れ」そう言ってどこか安堵したような、だが貴重な機会を奪ってしまったなといった顔をしていた。
――第三植物研究室。入室してみると植物探偵団のメンバー、目木と黒鉄、そして百日紅が机に向かって考え込んでいる。
どうしたものかと尋ねると「チューリップがな……」黒鉄が息を吐いて大きな茶黒で栗のような物体を見せてきた。
「クロくん。それ、なに?」
「チューリップの球根。まぁ、あんまり見たことはないか」
「今回はその謎についての話だよ~」
間延びした様子で目木は二つの球根を片方ずつ見せてきた。
「片方は普通に育てればちゃんと花が咲くチューリップ。でももう片方がどうやっても咲かずに終わってしまうチューリップなんだ。どうしてそんな違いが出るのかをディベートしているっていう感じかな」
「ディベートって?」
「話し合い、議論って意味」
目木がウツギに話していくと「そもそも……」と言って百日紅が片眉を上げている。
「室内の温度に問題があったんじゃねぇの? チューリップって日当たりの問題があるだろう」
「いや、日当たりはちゃんとしていたようだ。さっちゃんの読みは外れだよ」
黒鉄の言葉に舌打ちを打とうした時、ウツギと目が合った。ウツギがびくりとして目木の背後に隠れようとする。
すると百日紅は頭をがしがしさせて「……気分転換に植物園にでも行ってくる」行ってしまったのだ。
百日紅がパタンと扉を閉ざしてほっとさせる白い片目のウツギの姿に……目木が動いた。ウツギの頭に触れたかと思えば、こめかみをぐりぐりしてきたのだ。
「うーちゃ~ん??? さっちゃんが怖いのはわかるけれどちゃんと仲良くするの。っね?」
「うぅ~、ちょっと嫌です~……」
「わざと痛くしているの。クロも言ってやってよ? これじゃあ謎に挑めないじゃんん」
今度はウツギの柔らかな頬を両手で押して文句を言わぬようにするウツギへ、黒鉄が息を吐く。
「まぁそうだな……。百日紅が圧倒的に悪いが、うーちゃん。お前もそんなに怖がるな。さっちゃんは結構良い奴だぜ?」
「で、でも。なんか、その……変な視線を感じるというか」
「うーちゃんがこの目白大のなかで男の割に華奢だし可愛いからだよね~、クロもそう思うよね」
黒鉄がまぁまぁと頷いた。……つまり下心というものがあるのか。
ウツギは友人として接したいようだが百日紅は違うらしい。確かに初めて出会った時は「姫!」なんて言われ鼻息を荒くさせていた。
もしも不意を突かれて押し倒されるかと思うとぞっとする。……でもそれは楠とは違う感情だ。楠だったら押し倒されてキスしてその後にされても良いと思ってしまう。
……この違いはなに?
だがウツギの思考など知らない二人は、見合わせてからあることを下したのだ。
「うーちゃん。今から植物園に行ってさっちゃんと和解しなさい」
「え、なんでですか?」
目木の目つきが怖くなる。
「これ以上、俺たちの仲間割れは良くないってことだよ。さっちゃんも悪いけれど、あからさまに怖がっているうーちゃんも悪い。俺たちが行ったら邪魔になるから、行ってきなさい」
そんなぁ~と涙目になって瞳を紺色にさせるウツギに目木はとどめを。
「和解しなかったらチューリップの謎はお預け。楠先生に褒められることはないね」
「!!!?」
それは困る。それはなんとしてでも解き明かしたい謎だ。――腹は括った。楠に褒めてキスしてもらうのだとウツギは決意した。
「わかりました。――行ってきます」
「え、あ、うん」
目木が困惑するなかでウツギは和解のために歩き出す。ドアがガチャリと開いて静かに閉まった。
「な、なんか……先生の力、絶大じゃない?」
「もしかして、いや……ないよな?」
目木と黒鉄が見合わせ、「ははは……」空笑いを浮かべたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる