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《青い瞳とジャガイモ》
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……気持ちが良かったなぁ~。
梅雨が明けた晴れ間に茫漠としていたウツギは、樟の手入れをしたり雑草を抜いたりと忙しい。しかも雑草や落ち葉の量が多いとゴミが多くなって持ち帰るのも大変なのだ。
また以前、百日紅に教わった三要素のおかげで栄養素の配分や水の量も少しわかり、最近では任されるようになった。大変ではあるがやりがいのある仕事である。
「ふぅ、水回りも完了っと!」
水分の手配をして大きく伸びをした。――おとといの楠の行為は気持ちが良かった。
(でも、楠さん。どうしてトイレに行ったんだろう?)
尿を催したと本人は言っているがなんとなく違う気がする。なんとなくだが。
だがとりあえず大学に行かなければとウツギは思い立った。新しい謎も産まれたそうだし……なんて考えて、シャワーを浴びに行こうかと思ったのだ。
「あ、うーちゃんだ。やっほ~!」
「あれ、メギくん? どうしたの急に?」
「いやなんとなくうーちゃんに会いたくてね。今すぐに」
背格好は楠と似ているが、楠とは違った意味で色気が漂う目木にウツギはドキリと全身で感じた。ウツギの瞳が白から青に変わっていく最中で――目木が動いた。
目木は突然、ウツギに抱き着いたのだ。
「わぷっ!」
「ふふっ、うーちゃんのスケベ。なにか考えていたでしょう?」
「か、考えていないよ! メギ君のスケベ!」
「……言ったなぁ~?」
するとあろうことかウツギの身体を弄ってこちょこちょとしだしたのだ。笑いが込み上げて「やめてよ~!」可愛らしく訴える様は百日紅が居たら顔を紅潮させていたかもしれない。――だが、目木は違う。
「ははっ、可愛いねうーちゃん。――俺の”セフレ”にならない?」
「……セフレ?」
なにそれという前に目木はウツギの肩に手を置いて熱い視線を送る。雑草を抜いて土塗れの手の自分になにを言っているのかと、ウツギは思うのだが。
「セフレってさ、気持ちいいことすんだよ。先生みたいなじれったい思いさせないからさ」
「メギ君?」
急に引き込まれそうになる。目木は色男だし楠にかなり似ているからかもしれない。だが、その手のひらは男とは思えないほど美しかった。
――指が細くて奇麗で、でも冷たかった。
「俺のセフレにならない? ――最高に良くしてあげるからさ」
「あの、メギ君……?」
軍手を取られ、困惑をして瞳を紺色にさせるウツギの軍手を外し、引き寄せキスをしようとした時であった。――ゴツンと音がして、目の前には笑いながらも怒っているという不思議な楠が立ちはだかっていた。
「楠さん!」駆け寄って抱き締めるウツギは楠にとってなんと可愛らしいことか。
「いてて……」
「なにやってんだてめぇは。変なこと吹き込みやがって……」
「だって、うーちゃんの瞳が変わるのも知りたかったし~。あー痛い」
「またお前は……。ウツギ口説く余裕があるなら新たな謎に挑むか、課題やれ。――わかったか?」
「はいはい」
楠にすり寄ってにこにこしているウツギの色は白潤であった。
……そういえば、外に咲いているアベリアも白い花だったな。
ふと過らせつつも関係ないかと思って、目木は天然爆発生物に謝罪をするのだ。
ウツギがシャワーを浴び終わるまで、目木は居座り、なぜか楠も居座っていた。そしてシャワーを浴び終えて髪を乾かそうとするウツギを見て「俺、やってあげる」なんて目木が言っていたのだが、ドライヤーは楠が持っていたので楠がウツギの茶色の髪を乾かしていた。
どうして二人がこんな状態になっているのかは知らぬが、ウツギは楠に髪の毛を乾かしてくれたのが純粋に嬉しくて頬を染めた。――目木はその姿を見つめていた。
第三植物研究室へと向かうウツギとわざとくっつく目木に……楠が奪うようにウツギを引き寄せている。目木が顔をしかめた。
「なんで先生が俺の邪魔をするわけ~? 意味わかんないだけど?」
「俺はお前の方が意味わかんねぇな。俺はウツギの保護者だからな」
「ただの保護者でしょ? 関係ないじゃん、ねぇ~うーちゃん?」
「……は、はぁ」
二人に抱き寄せられ楠には手を繋がれているウツギは混乱する。どうして目木が自分に目を付けたのかもわからなかったし、どうして楠も対抗するように普段よりも積極的なのかは理解できなかった。
ただ、楠が普段よりも自分に関心を抱いてくれていて、見てくれるのが嬉しかった。瞳が白く透明になった。
第三植物研究室へ向かうと目木が離れてドアを開けた。「よう、来たか」黒鉄がパソコンを打ちながら片手を上げている。……しかしソファには死にかけの百日紅が横たわっていたのだ。
「さっちゃん、どうしたの!? 大丈夫!??」
「あ……姫、――俺の癒し……が」
涙ぐんでしまう百日紅の肩に手を置いて心配げな様子のウツギに黒鉄はふと笑う。――そしてあわよくばウツギの手を握ろうとする百日紅を邪魔するように、歩み寄り薬を差し出した。
「なにうーちゃんに手を出そうとしてんだ、馬鹿さっちゃんは。――ほら、胃薬」
「なんだよ~クロ。俺にも癒しの姫の加護をさ……」
「被害者がなに言ってんだ、とにかく胃薬飲んどけ」
「――被害者ってどういうことですか?」
ウツギの問いかけに楠も唸っていると目木が前に出た。
「今回の被害者はさっちゃんだよ。さっちゃんはジャガイモのポタージュを作ろうとして、胃が悪くなったんだ。作ろうとしただけなのにね」
そう言って頷く百日紅は「皮もちゃんと剥いて試食したら急に胃が悪くなって……」
百日紅の言動を黒鉄がパソコンにすぐさま打ち込む。
(じゃがいもで食中毒っ奴か……)
――どうして?
答えが出ないウツギに楠が頭を捻り「初歩的なことを聞いてもいいか?」百日紅に尋ねてきた。
「ちゃんと芽は取ったよな、百日紅?」
「……芽ってなんすか?」
――周囲がシンと静まる。ウツギが慌てるほどに。
だがそれは一気に笑いになって「それはミステリーとは言わないよ~」目木がけたたましく笑っていた。ウツギは気の毒に思って「そんな笑わなくても……」なんてすぼめて言うのだが、楠はため息を吐いて「いや、これは百日紅が悪い」とてもつもなく嘆いていた。
黒鉄がコップに水を入れて差し出し薬を飲ませるものの「これはソラニンとチャコニンのせいだな」ともぼやいている。
「ソラニンとチャコニン? なにそれ?」
すると目木が鋭い顔つきになったのだ。
「グリコアルカロイド性を含む”毒”だよ」
――毒という単語にウツギは戦慄した。
梅雨が明けた晴れ間に茫漠としていたウツギは、樟の手入れをしたり雑草を抜いたりと忙しい。しかも雑草や落ち葉の量が多いとゴミが多くなって持ち帰るのも大変なのだ。
また以前、百日紅に教わった三要素のおかげで栄養素の配分や水の量も少しわかり、最近では任されるようになった。大変ではあるがやりがいのある仕事である。
「ふぅ、水回りも完了っと!」
水分の手配をして大きく伸びをした。――おとといの楠の行為は気持ちが良かった。
(でも、楠さん。どうしてトイレに行ったんだろう?)
尿を催したと本人は言っているがなんとなく違う気がする。なんとなくだが。
だがとりあえず大学に行かなければとウツギは思い立った。新しい謎も産まれたそうだし……なんて考えて、シャワーを浴びに行こうかと思ったのだ。
「あ、うーちゃんだ。やっほ~!」
「あれ、メギくん? どうしたの急に?」
「いやなんとなくうーちゃんに会いたくてね。今すぐに」
背格好は楠と似ているが、楠とは違った意味で色気が漂う目木にウツギはドキリと全身で感じた。ウツギの瞳が白から青に変わっていく最中で――目木が動いた。
目木は突然、ウツギに抱き着いたのだ。
「わぷっ!」
「ふふっ、うーちゃんのスケベ。なにか考えていたでしょう?」
「か、考えていないよ! メギ君のスケベ!」
「……言ったなぁ~?」
するとあろうことかウツギの身体を弄ってこちょこちょとしだしたのだ。笑いが込み上げて「やめてよ~!」可愛らしく訴える様は百日紅が居たら顔を紅潮させていたかもしれない。――だが、目木は違う。
「ははっ、可愛いねうーちゃん。――俺の”セフレ”にならない?」
「……セフレ?」
なにそれという前に目木はウツギの肩に手を置いて熱い視線を送る。雑草を抜いて土塗れの手の自分になにを言っているのかと、ウツギは思うのだが。
「セフレってさ、気持ちいいことすんだよ。先生みたいなじれったい思いさせないからさ」
「メギ君?」
急に引き込まれそうになる。目木は色男だし楠にかなり似ているからかもしれない。だが、その手のひらは男とは思えないほど美しかった。
――指が細くて奇麗で、でも冷たかった。
「俺のセフレにならない? ――最高に良くしてあげるからさ」
「あの、メギ君……?」
軍手を取られ、困惑をして瞳を紺色にさせるウツギの軍手を外し、引き寄せキスをしようとした時であった。――ゴツンと音がして、目の前には笑いながらも怒っているという不思議な楠が立ちはだかっていた。
「楠さん!」駆け寄って抱き締めるウツギは楠にとってなんと可愛らしいことか。
「いてて……」
「なにやってんだてめぇは。変なこと吹き込みやがって……」
「だって、うーちゃんの瞳が変わるのも知りたかったし~。あー痛い」
「またお前は……。ウツギ口説く余裕があるなら新たな謎に挑むか、課題やれ。――わかったか?」
「はいはい」
楠にすり寄ってにこにこしているウツギの色は白潤であった。
……そういえば、外に咲いているアベリアも白い花だったな。
ふと過らせつつも関係ないかと思って、目木は天然爆発生物に謝罪をするのだ。
ウツギがシャワーを浴び終わるまで、目木は居座り、なぜか楠も居座っていた。そしてシャワーを浴び終えて髪を乾かそうとするウツギを見て「俺、やってあげる」なんて目木が言っていたのだが、ドライヤーは楠が持っていたので楠がウツギの茶色の髪を乾かしていた。
どうして二人がこんな状態になっているのかは知らぬが、ウツギは楠に髪の毛を乾かしてくれたのが純粋に嬉しくて頬を染めた。――目木はその姿を見つめていた。
第三植物研究室へと向かうウツギとわざとくっつく目木に……楠が奪うようにウツギを引き寄せている。目木が顔をしかめた。
「なんで先生が俺の邪魔をするわけ~? 意味わかんないだけど?」
「俺はお前の方が意味わかんねぇな。俺はウツギの保護者だからな」
「ただの保護者でしょ? 関係ないじゃん、ねぇ~うーちゃん?」
「……は、はぁ」
二人に抱き寄せられ楠には手を繋がれているウツギは混乱する。どうして目木が自分に目を付けたのかもわからなかったし、どうして楠も対抗するように普段よりも積極的なのかは理解できなかった。
ただ、楠が普段よりも自分に関心を抱いてくれていて、見てくれるのが嬉しかった。瞳が白く透明になった。
第三植物研究室へ向かうと目木が離れてドアを開けた。「よう、来たか」黒鉄がパソコンを打ちながら片手を上げている。……しかしソファには死にかけの百日紅が横たわっていたのだ。
「さっちゃん、どうしたの!? 大丈夫!??」
「あ……姫、――俺の癒し……が」
涙ぐんでしまう百日紅の肩に手を置いて心配げな様子のウツギに黒鉄はふと笑う。――そしてあわよくばウツギの手を握ろうとする百日紅を邪魔するように、歩み寄り薬を差し出した。
「なにうーちゃんに手を出そうとしてんだ、馬鹿さっちゃんは。――ほら、胃薬」
「なんだよ~クロ。俺にも癒しの姫の加護をさ……」
「被害者がなに言ってんだ、とにかく胃薬飲んどけ」
「――被害者ってどういうことですか?」
ウツギの問いかけに楠も唸っていると目木が前に出た。
「今回の被害者はさっちゃんだよ。さっちゃんはジャガイモのポタージュを作ろうとして、胃が悪くなったんだ。作ろうとしただけなのにね」
そう言って頷く百日紅は「皮もちゃんと剥いて試食したら急に胃が悪くなって……」
百日紅の言動を黒鉄がパソコンにすぐさま打ち込む。
(じゃがいもで食中毒っ奴か……)
――どうして?
答えが出ないウツギに楠が頭を捻り「初歩的なことを聞いてもいいか?」百日紅に尋ねてきた。
「ちゃんと芽は取ったよな、百日紅?」
「……芽ってなんすか?」
――周囲がシンと静まる。ウツギが慌てるほどに。
だがそれは一気に笑いになって「それはミステリーとは言わないよ~」目木がけたたましく笑っていた。ウツギは気の毒に思って「そんな笑わなくても……」なんてすぼめて言うのだが、楠はため息を吐いて「いや、これは百日紅が悪い」とてもつもなく嘆いていた。
黒鉄がコップに水を入れて差し出し薬を飲ませるものの「これはソラニンとチャコニンのせいだな」ともぼやいている。
「ソラニンとチャコニン? なにそれ?」
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