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百年戦争とニーズヘッグ
来訪者
しおりを挟むここは私の世界。
白くてふわふわで甘くて、優しい。
だけど崩れていく。もうすぐこの幸せな世界はばらばらになって、蕩けて──
「....サ、リサ。聞いてる?........リサ=マルベリー!」
「あっ!?はい!」
あーあ、消えちゃった。私の夢の世界。眠たい目を擦って声のした方を見ると、病的に白い手が視界に入った。白衣の袖と手首の隙間がぽっかり空いている。
「相変わらずほっそいなぁアレス....」
「聞いてないだろ君。ほら、こっち。もう少しで焦げるところだったよ」
がしがしと不機嫌そうに頭を掻く彼はアレイスター=フォルツ。私はアレスと呼んでいる。この工房を分捕る──もとい拝借する前までの住民で、同じ調合士だ。著名な錬金術師の家系だったはずが、何を血迷ったのか反対を押し切って薬草学に手をつけたらしい。お前は錬金術師にはなれっこないから調合士にでもなれ、と言われた私とは正反対。悪い奴ではないけど、嫌味っぽいくせに頭はいいし、あまり好きにはなれない。
アレスが指した先の薬草を皿から摘み上げてフラスコへ移す。既に入っていた薄緑の液体の中でかき混ぜて、また火にかけ....
「馬鹿!」
少し離れた場所から怒声が聞こえてきた時には遅かった。
ガラス越しに加熱された薬品は煙を上げて爆発。備品が吹っ飛び窓が割れ、工房の中は瞬く間に大惨事になった。
「けほっ、こういうことは先に言ってよアレス!分かるでしょ!?」
「事前に順番調べてから調合しろって話は前からしてたよね!?さっきのは薬液を加熱した後に入れるのが正解だろ!」
「うーるーさーいー!!私が入れる前に忠告してくれたら爆発なんかしなかった!」
「なっ....あのね、だいたい君は“遺産”の──」
床に倒れていたアレスが言い返そうとした瞬間、工房のドアがノックされた。目で促され渋々鍵を開ける。
「取り込み中だったか?」
扉口に立っていたのはどこかで見たような背の高い男だった。ボロボロになったローブの下で金色の鋭い目がこちらを捉えている。鉄の籠手を着けた左手は反対側の脇腹を押さえつけていて、そこから赤いものが滲んでいた。アレスもそれに気付いていたのか、中へ来るよう促す。
助かる、と呟くと男は危うい足取りで工房へ入り、何があったか聞く前にその場に倒れ込んでしまった。
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