3 / 3
百年戦争とニーズヘッグ
フォルツの遺産
しおりを挟む「はぁ........びっくりした。こんな寂しい工房に人が来ることなんてなかったもん。しかも怪我人」
私は思い切り伸びをすると、爆発で煤けた壁をぺちぺち叩いた。手のひらが少しだけ黒くなる。
「寂しい工房で悪かったね」
....いちいちカンに触る奴。私の方には見向きもせずに、まだ目を覚まさない男の傷口を包帯で縛り上げていた。それなりに重傷のようだ。床には血を拭き取った布が何枚も重なっている。焼いた方が早かったのに、と私が言うと、やっぱり馬鹿だねとだけ返ってきた。どうも機嫌が悪いらしい。
「それにしても、」
まだ微妙に怒気を孕んだ声でアレスが呟いた。
「ここまで深く裂けてるのに何で歩けてたんだ?頭も打ってたみたいだけど....“遺産”レベルの魔術が作用したとしか思えない」
「なに?そんなにたくさんあるもんなの、『フォルツの遺産』って」
フォルツの遺産。たった一度だけ不可能を可能にする大規模な魔術と、その鍵になる記憶の塊。確か10年前に十数回目の継承式があって、私はそのとき母親から受け継いだ。偉大な錬金術師が何世代もかけて大成したものだから、きっと何かしらの功績を残すだろう。私も、他の継承者も、みんなそういう風に期待を背負っていた。素質があるとして王様から直々に指名を受けたんだから。
実際にそれを手にして奇跡を起こした人はたくさんいる。アレスのお兄さんもその1人だ。フォルツ家の血を引いた者は例外なく早死にするという昔からの呪いを消し去って、次に生まれたアレスを残して事故で死んでしまったという。工房にいるときは家族の話はしない、と彼が決めたのもそのせいだった。
「継承式に呼ばれたのはせいぜい数人だよ?この人はいた覚えない」
「陛下が持っていることだってありえるよ。国を統治するんだから、保険としてとっておくのも──」
「陛下?なんで今そんな話になるの?」
アレスが勢いよく振り向く。
「....もしかして知らない?」
私が首をかしげるのとほぼ同時に、寝台で休んでいた男が起き上がった。大怪我を負った割に冷めた表情は、やはり誰かに似ている気がして。
「手間をかけてすまない。世話になった」
「グランツ卿、まだ動かない方が。傷が開きます」
「大丈夫だ。お前は....アルベルトの弟か」
アレスが黙り込む。私はその後ろで大人しくしている他なかった、が。
「“遺産”は継がなかったらしいな。なら、そこにいるのは妹」
「違います」
即答だった。むしろ食い気味。逆に怪しくないかとも思ったが言わないでおこう、多分話がややこしくなる。しかしグランツ卿と言えば、聖戦で王様と戦ったとかいう人と名前が同じだ。結局負けて、それからどうなったんだっけ。
なにやら目の前の2人には積もる話があるようだ。お茶でも淹れようかな、と私は席を立った。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
それは思い出せない思い出
あんど もあ
ファンタジー
俺には、食べた事の無いケーキの記憶がある。
丸くて白くて赤いのが載ってて、切ると三角になる、甘いケーキ。自分であのケーキを作れるようになろうとケーキ屋で働くことにした俺は、無意識に周りの人を幸せにしていく。
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる