『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯

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第7話 見破りたい

「えー!? 部活行かないのー!?」海野の声は放課後の教室に反響する。

 彼女は一軍のシュシュを付けて、俺の前の席に座っている。俺の方を向き、身を乗り出している。

「違うって。テストが近いから、それが終わるまで行かないってこと」

「えっ?テストって……。その、もうそんな時期?」

 海野は頬をポリポリとかきながら、俺から視線を逸らす。テストが嫌いなことは、その様子からなんとなく察した。

 もうすぐ行われるのは、旧学年の復習テスト。まぁ、一年生の時にちゃんとやっていれば、赤点なんて取らないが……。

「分かってるとは思うがこの学校、赤点者には補修が終わるまで部活動させないぞ? ……おい、大丈夫か?」俺は海野の目を見て聞いた。

 海野はモジモジと、俺の様子を伺う。彼女は上目遣いを使用しつつ、申し訳なさそうに言ってきた。

「……補修が終わるまで、ウチを待ってくれたり──」

「しないな」食い気味に答えると、海野の顔がみるみる青ざめる。

 人を見た目で判断するなとは言われるが、コイツは勉強出来なさそうだ。なんだろう、そういうオーラが見える。

てか、定期テストじゃあるまいし、そこまで難しくもないだろうに。

「てか!」海野は立ち上がり、俺を指差す。「そういうアマミーは勉強、あっ、大丈夫……か」しかし、彼女はすぐに座ってしまう。

「学年1位の雨宮さんに、赤点の心配をするのか?」机に頬杖をついてニヤリと、わざとそんなことを言ってみる。

 赤点など、入学してから今までずっと1位を死守している俺には無関係な話だった。まぁ、学年1位に居座り続けないと、俺アレルギーの性質が厄介になるからという理由もあるが。

 『1位を逃した』という情報が、俺アレルギーを強くしてしまうのだ。だから俺は、最初のテストで1位になってしまったことをかなり後悔している。

「えっと、ウチの頭脳だったら、これから始めて……」

 窓から差し込んでくる夕日に、海野の難しい表情が照らされる。サラサラとした金髪が揺れて、いい香りがしてきそうだった。

「じゃあさ、一緒に勉強しようぜ?」

 俺の発言で少しだけ海野の動きが止まる。彼女の大きな瞳が揺れて、驚いているのが分かった。

「……アマミーって、なんでモテないの?」

「うるせぇ、」





 で、こんな出来事がありまして、俺と海野は勉強会をするようになった。

 前の監視役の件と重なって、俺は海野の家で寝泊まりすることも多くなった。だって家に帰ると、お婿に貰われちゃうかもしれないからね。

 四葉は勉強が忙しいらしく、最近顔を合わせていない。まぁ、アイツのことだし、『今回は優くんに勝つ!』とか言ってんだろうな。

 毎回のテストで2位に輝いている四葉さんは、テストの時期になると極端に会わなくなる。





──海野と勉強をするようになってから数日後

「あん? 四葉から?」俺は昇降口でスマホを見ていた。

海野が靴を履き替えているのを横目にラーインを開く。

『優くん聞いて!』
『今日エレベーターが点検なんだって!』
『とにかく私、教室にいるからお願いね!』

そんな4件の連絡があった。

「……めんどくせぇ」そう言ってスマホから視線を外す。

 エレベーター点検の日。それは突然やってきて、俺に重労働を押し付けてくる最悪の日。
 その日は四葉の車椅子を持って1階に降りて、今度は四葉を背負って同じことをしなければいけない日。

「んー? アマミーどうしたー?」海野が不思議そうに近づいてくる。

「ごめん、先帰ってて」俺はスマホの画面を海野に見せる。「四葉から連絡あって、ちょっと時間かかるから──」

「それ、嘘だよ?」海野は笑顔で画面を指差す。

 その時の表情や声のトーンに、少しだけ違和感を感じた。なんというか、貼り付けられた笑顔のように見えた。

「なんでそんなことが?」首を傾げる。

 昇降口には帰宅を急ぐ生徒も数名いる。だが、彼らが奏でる雑音は俺の耳には入ってこなかった。海野と俺しか、この世にいないような感覚だった。

 海野は「だってさ」と言って、推理じみている考えを語った。背筋を伸ばし、右手の人差し指をピンと立てて俺の前をウロウロしている。

「エレベーターの点検なら、朝からやってないとおかしいでしょ? でも、アマミーは点検のことを今知ったよね。ってことは、四葉ちゃんの言ってることが嘘ってことになる」

まるで探偵みたいに推理を披露する海野。充実した表情をしていた。

「あー、そうか。朝も四葉を運んでないとおかしいって話だな」

 俺はスマホの画面を見てつぶやく。たしかにその通りかもしれない。それに、急に昼から点検が始まったとも考えにくい。

「じゃあ、なんで四葉はこんなこと?」

 俺は画面を適当に操作しながら、浮かんでくる疑問を言った。長年一緒にいるが、四葉のこんな行動は初めてだった。

「うーん、アマミーに構って欲しかったんじゃない?」

「……そういうもんか?」

 女心はよく分からんし、四葉の行動も全て分かるわけではない。名探偵の海野さんでも、動機までは分からないらしい。

「女の子にもいろいろあるんだよー」なんて適当なことを言っている。「そんなことよりアマミー。今日も勉強会しよーね?」

 海野は俺の手を握って、強引に引っ張ってゆく。昇降口を出て、校門が道の奥に見える。相変わらず海野は手を離さない。

「海野ー、一応、エレベーターだけ確認しないか? 四葉の言ってることが本当かもしれないし──」

 俺の一言で海野が立ち止まった。夕日に正面から照らされた彼女の背中は、ゾッとするほど冷たく感じる。彼女は掴んでいた手を離す。

「ウチより、四葉ちゃんを信じるのー?」海野は笑顔で振り返った。

 いつもの声、いつもの笑顔。だけど、目の前にいる女の子が誰かと聞かれたら、海野葵と答えられる自信はない。

 なんだか、言葉を間違えてしまった瞬間に刺されてしまうそうなほど。メチャクチャ怖い。

「……勉強会だな」小さく呟く。

 重圧に負けて、校舎に戻ることを諦めた。そのあとの俺はただ、海野に左手を握られて、彼女の家まで行く人形になってしまった。

「アマミー、今日は数学? それとも国語かなー? ウチ、めっちゃヤル気出てきたかもー!」海野の声が俺の脳内に響く。

ごめんな四葉、あとで埋め合わせするから、と心の中で謝る。

「アマミー?」

「よし、今日は数学からだなー」と返事をした。






同日同刻の、とある教室。木之下 四葉は1人、窓の外の景色を観察していた。


「葵ちゃん。もしかして名探偵?」私は教室の中で呟く。

 窓の外を眺めてたら、校門に続く道を優くんと葵ちゃんが歩いているのが見えた。2人は手を繋いじゃってる。

 膝の上に置いたスマホの画面には、既読だけついたラーインのメッセージが映っている。

「あーあ、葵ちゃんと仲良くさせたの失敗だったー!」両手を上げて、背筋を伸ばす。

 優くんに友達が増えれば、私のことも意識してくれるかなーって思ってたんだけどなー。このまま行くと、優くんが奪われちゃう。

 というか、優くんがカッコ良すぎるのがいけない。たった何日かで、女の子を落とせるのが悪い。

私は悪くない!

「17年も我慢してる私、めっちゃ偉い! あんなの襲うなって、それはただの拷問だよー」

 誰もいないからなんでも言い放題。普段思ってることが沢山言葉になって出ていってしまう。

「優くんカッコいい! あーー、めっちゃ好き!」やばっ、これいいかも。

 ……ふと、私の足が動くのならどうなっちゃうのかが頭をよぎる。そして、1つの結論に落ち着いた。

「……優くんに甘えられないの?」そんな言葉を思わず呟いた。

 優くんに甘えられないって、そんなの死ぬのと一緒。そう考えると、あの事故が愛おしく思えるかも?

 足が動かなくなって、車椅子にずっと座ってて、それでも、生きる意味を失わなかったのは優くんのおかげだ。

 でも、葵ちゃんが恋敵かー。手強い相手になりそうだけど、負ける気はしないよね。

……明日は普通に誘おーっと。

私は机の上に置いた鞄を取って、車椅子の車輪を回す。
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