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第一章 美少女、蘇生しました

第十二話 プライドを貫き通す

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 戦況は一刻を争う。俺たちD組はもっとクレバーに立ち回るべきだったな。前方では『防御学部』とD組の二手に別れた仲間(主にガンス)がインファイト。

「オラァ! テメェら『ヒール』使うなや! アイツ、何回ボコされんねん!」

 彼らのアイデンティティである盾も捨てて殴り合ってる。もちろん相手はガンス。あいつも杖をほっぽり投げて、なぜかファイティングポーズをとっている。何かストリートファイトを彷彿とさせる光景だった。

「うるせぇ! 俺達は『ヒール』してなんぼやろがい! ゾンビアタックの師匠がコッチにはいんだよ!」

師匠とかじゃないです。

「『ゾンビマン』とか言われてる、あのヒョロっちい男だろ? そうやったら、俺が稽古つけてやるよ。ほら、早くかかってこい!」

「バーカ! お前みたいなマヌケはアストに殴り殺されっからな!」

 あんま適当なこと言わんで下さいよガンスくん。ほんの僅か数名、正気を保っているであろう防御学部の生徒が俺を睨んでいる。

「バカはお前だよ! 先にバカって言った方がバカなんだよバーカ!」

「バーカ! バカは言った回数でバカが決まるんだよバーカ! バーカ!」

 争いは同じレベルで起きる。故にコイツらは一生仲良く喧嘩してると思うので、俺はそれ以上の介入はしない。

向こうは互角のようで、安心して攻撃学部の奴らに集中できる。しかし、この状況は好転しない。俺達には最終兵器があると言っても、まだチャージ(笑)が終わっていなければただの少女同然だ。

 エレナ、仮称『最終兵器』は俺の背中ですやすやと気絶している。あんなモロにカウンターを食らった割には元気なんだが、この瞬間においては起きていて欲しかった。

「エレナさーん。早く起きないと、D組は一網打尽ですよー」

 ユサユサと背中越しにエレナをゆすっても、弛むのは慎ましげな胸だけ。女子の体とはそういうものだ。

──ヒュンヒュン!

 攻撃を回避しつつ、俺は様子を伺う。なんと、現状は最悪。

 追ってきたB組の魔法使いどもは既に停止しており、その総数は約10名。残りの奴らは剣を携えて進軍を続け、数秒後には切り掛かってこれる距離──

「アストさんそこ危ない!」ユイちゃんの声が聞こえて俺は反射的に動く。

──ピチュン!

「あっぶねぇ……。助かった!ありがとう!」間一髪で魔法を回避した。

 コンマ数秒前までいた地面に魔法が着弾。砂埃が引いて見えた箇所は、雑草が焼け朽ちて、茶色い土が露出している。もし直撃していたら……考えるのはやめておこう。

「うわぉ! 俺っちが一番乗りだー!」

既にすぐ近くで声が聞こえる。どうやらもう追いつかれてしまったらしい。

「へーい! D組のウサギちゃんがこーんなに集まってるぜ!」

 ロン毛、クセ毛、顎ひげ、そこにサングラスを付けた野郎がしゃしゃり出てきた。体はほんのりと小麦色で、海を背景にしたら『ナンパ野郎』としていい写真が撮れそうだ。

「なんだアイツ。属性を盛るのは魔法だけじゃないのか?」俺の眉毛は八の字。

 さっきから垣間見えていたことだが、アイツは妙に足が速いらしくB組の最前線を走っていた。遠くからでも分かるチャラさを持ち合わせた俺とは対照的な人類だ。

「キミがゾンビマン? 思ってたよりも普通なんだねぇ! 個性は大事だよー!」

「お前もそこそこいるだろ、海の家とかに」正論パンチ、俺の最大火力をお見舞いする。

しかし相手は狼狽えるどころか、嬉しそうに懐から短剣を2本取り出す。

「ザンネーン! ほら、オレっちはこっから更に『唯一無二』になるんだぜ!」

 アイツがそう宣言した後、短剣はそれぞれ赤色と青色に光る。どう解釈したって、『二刀流で別々のエレメントを操りますよ』と自己紹介しているような小細工だ。

「凄いけどさぁ、お前キャラに囚われてない? どうすんの? そのバイブスで女の子とデートすんの?」

「当然さ! これがオレっちの『こ・せ・い』だから!」

「囚われちゃって……。お前、裏で変なあだ名ついてそうだよな」

「ねーよ! あっ、いや、オレっちは『ジャンゴ』って呼ばれてるぜ! 呼び名も唯一無二のナイスガイさ!」

 ボロがポロッと出てきたが、すぐに軌道修正。彼のキャラを貫く精神は尊敬に値する。

ついでに俺は、『ジャンゴ』という彼の名前を俺は脳内辞書に登録しておいた。

「まだか? くっそ……」ジャンゴに聞こえぬような小さい声で俺は呟いた。

 ここまで適当な会話をしているのには意味がある。俺はこの会話中、ずっとエレナの太ももをつねっていた。これは犯罪でも、変態でもありません。下心もありませんし、正当な勝利を挙げるために仕方なくやっています。

エレナの起床をどうにか早めるための作戦という事です。

「なんで戦ってねぇんだよ! さっさと片付けるって言って飛び出したんだろうが!」後方から追いついた男に、ジャンゴは頭を叩かれた。

「イテッ。分かってるよ! じゃあサクッと倒すから邪魔しないでねー!」

 後方からB組の生徒がゾロゾロと追いついて、でもエレナは起きないし実質の作戦失敗。こちらはD組4名、相手は魔法使い分を差し引いても15名。

しかも全員がエリートなんだよなぁ。

 勝利条件は相変わらず『脱落しないこと』だとしても、この人数相手じゃあせいぜい数分が限界だろう。で? どうして勝つ必要があるんだっけか。

 記憶を辿って考えると、『いい教師』のためとか話し合っていたか。これも推測だし、もう少し動機が欲しいなぁ。活躍したらモテるとか言ってくれたら絶対頑張るのに。

「いや待てよ?」

 このテスト、少なくとも参加者の動向を探っている人間はいるはずだ。そうでなければやるメリットがないし、ここまで大規模な魔法を使うこともない。
この件はユイちゃんにでも聞けばいいのかな?

「ユイちゃん、俺達って映像とか撮られてない?魔力の流れ的にはどうなの?」

「はい!撮られていることはこの空間に飛ばされてから確認済みです!」

「やっぱりか!教えてくれて助かる!」

 なぜそれを早く言わない。つまり、俺が活躍すればするほど女の子からのアプローチが増えるってことだ。草食系男子には朗報すぎる。

これはいい交渉材料を手に入れた。

「おい! 朗報だジャンゴ! 活躍すればモテるらしいぞ!」

 俺はジャンゴに甘い誘惑を言い放つ。これで多少は会話を続けやすくなった。

「ビックニュースじゃないか! オレっちの人気もドラゴン登りってか!」

 やっぱり食いついた。あの感じは腹立つけど、もう少し話を続けられそうだな。作戦は良好、勝てるヴィジョンもうっすら見えてきし、後は遂行するだけ。

「俺とお前の直接対決なんてカッコよくね? これで勝ったら、明日からラブレターの嵐だと思うなぁ」

「ナイスアイデア!オレっちがエレガントに勝ってみせるさ!」

 乗り気な返答をジャンゴが返したところで、俺はジャンゴに擦り寄って耳打ちをする。ボソッと、近くにいる他の奴らに聞こえないように。

「ギリギリ、本当にギリギリの勝負をしないか? もし条件を飲んでくれるなら……」俺はエレナのスカートを少し、僅かに、犯罪にならない程度にめくる。

「オイッ、そんなこと、エッチなのはダメだ……」

「大丈夫だ、俺が上手くやる。こういうのには慣れててね……」

 ジャンゴのサングラスの向こう、可愛い瞳は揺れている。後一押しだぞ、と目が語っているのと同義。俺は再びエレナのスカートを捲る。

「これは偶然だ。たまたま風が吹いて、たまたまスカートが捲れてしまう。そこに悪は存在しないだろう?」

 少し間が空いた後、「……ああ」とジャンゴは首を縦に振り、彼の喉からゴクリと肩唾を飲み込む音がした。

俺とジャンゴは少し離れて向かい合う。

さて、試合開始としますか。
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