異世界日記

メラン

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2日目(5)

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建物の2階、奥まった場所にある他と比べて豪華な造りの扉を受付の人がノックすると中から「入っていいぞ。」とい野太い男の声が聞こえてきた。
「失礼します。」
「し、失礼します。」
受付の人の後に続いて部屋に入るとそこは扉に違わぬ豪華な造りをした広い部屋だった。
大企業の社長の執務室と言えばわかりやすいだろうか。
奥にある机には大量の書類が積まれており、そこで40代くらいのおじさんが書類を眺めながら何やら作業をしている。
「その少年は誰だね?今日は誰かと会う約束はなかったはずだが?」
「ギルド員の一人が救助依頼にて保護してきました。彼は迷い人だそうです。」
「ふむ。迷い人か。確かに珍しい。珍しいがわざわざ報告しに来るほどではあるまい。何があった?」
「彼の資質を確認したところ闇魔法の資質があることが分かりました。」
受付の人が闇魔法と言った瞬間、今まで書類に目を向けたままだったおじさんが顔を上げた。
というか、闇魔法の資質ってどういうことだろう?
俺には魔法を使う資質がなかったんじゃないのか?
「名前を聞いてもいいかな?」
「あ、藤村拓人と言います。」
「拓斗君だな。私はカルヴィンだ。不本意ながらこの街のギルドマスターを務めさせてもらっている。それで、君は闇魔法の資質があるということだが、君はどうしたい?」
「どうしたいって言われても...。そもそも俺には魔法を使う資質があったんですか?詳しい話は全く聞いてないんですけど。」
カルヴィンさんと二人で受付の人の方に視線をやると受付の人は特に悪びれた様子もなく口を開いた。
「闇魔法が危険であるということは把握しています。しかし、具体的に何ができるのか?どう危険なのか?ということは把握できていません。ですのでギルドマスターから直接説明された方が良いと判断した次第です。」
「そうじゃな。では、改めて私から説明させてもらおう。」
カルヴィンさんはそう言って色々と説明をしてくれた。
まず最初に、実は俺には闇魔法の資質があった。
ただ、この闇魔法というものが曲者で洗脳や幻覚を見せるなど、主に精神に作用する効果をもたらす魔法らしい。
そんな魔法を個人が扱えばどうなるか?
犯罪に走るか、本人にその気がなくとも犯罪に巻き込まれるのは火を見るよりも明らか。
だからこそ闇魔法の資質がある者は何処に所属するにせよ国に申請が必要になってくるそうだ。
それで最初の「どうしたい?」という質問が出てきたわけだ。
「もし商人になりたいと考えているら諦めた方がいい。理由は分かるな?」
「信用第一みたいな職種の人間がそんな物騒な魔法を使えるなんて体裁が悪いってことですよね?」
「そうだ。商人だけではなく信用が重要視される職は基本的に厳しいと思ってくれ。」
「それってほぼ全部な気がするんですけど.....。」
「そうなるな。」
カルヴィンさんは事もなげに言うけど、俺にとっては大問題だ。
資質の所為で職に就けないなんてこの先どうすればいいんだろう。
この先のことを考えて絶望する俺に対してすくいの手を差し伸べたのはまさかの俺を絶望に叩き落した本人であるカルヴィンさんだった。
「冒険者になる気はないか?」
「....いいんですか?」
「正直に言うと危険因子は手元の置いておきたいというのが本音だ。此処であれば闇魔法に対抗するための物もあるから何かあっても対処のしようがある。冒険者にならないのであれば何処かに所属するまで常に監視が付くことになる。」
「監視ってそんな大げさな。」
「大げさではない。それほどまでに闇魔法というのは危険視されているんだ。」
そう言うカルヴィンさんはとても冗談を言っているようには見えない。
おそらく本当のことを言っているのだろう。
とはいえそんなに危険な魔法の資質が俺にあるなんて全く実感が湧かない。
「冒険者っていうのは具体的にどんな仕事なんですか?」
「街の掃除から危険な魔物の討伐、護衛など依頼があればどんなことでもこなす。君には何でも屋と言えばわかりやすいかな?まあ、闇魔法の資質があるという性質上君には魔物の討伐や素材の採取なんかの人と関わらなくて済む仕事を主にしてもらうことになる。」
「俺は魔物なんていう危険な生物が存在しない戦いとは無縁な世界から来ました。そんな人間が魔物の討伐なんてできるとは思えません。」
「その点は心配ない。慣れるまでは我々ギルド員がサポートしよう。何なら闇魔法の使い方も教えよう。迷い人にとって魔法を学べる機会というのは喉から手が出るほど欲しいものだと思うがどうだ?」
「魔法の使い方を教えてくれるんですか?!だったらなります!」
カルヴィンさんが変わり身の早さに困惑しているけど、そんなこと知ったことではない。
せっかく異世界に来たのだから魔法を使える機会は何よりも優先されるのだ。
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