異世界日記

メラン

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4日目(10)

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結局、今だけという言葉に惑わされて魔法鞄の方を買ってしまった。
後悔はしてない...と言えば嘘になるけど無駄な買い物だったとは思っていない。
これさえ有れば今回みたいに不意の遭遇で何かに襲われても素材を無駄にしなくて済む。
まあ、その前に解体方法を覚えるのが先だけど。
閑話休題
結構な時間悩んでいたようで魔道具屋を出ると既に日が暮れ始めていた。
若干早い気もするけど今日は外に出て汗もかいたし一回宿に帰って銭湯に行こう。
思い立ったが吉日だ。
俺は宿に戻って荷物を置き、代わりに銭湯で使う道具一式を持って銭湯へと向かった。
「どうも。」
「はいどうも。」
銭湯に入ると昨日と同じように正面にある受付のところにやる気がなさそうなおじさんが座っていたのでおじさんに銅貨5枚を払って中に入る。
「っ!」
昨日今日で制度が変わるなんて言うことはなく、目に入ってくる女性の姿にできるだけ目を向けないようにしつつ昨日と同じく逃げるように服を脱いで浴室に入った。
そして体を洗って湯舟へと体を沈める。
「ふぅ~。」
暖かい湯が疲れを溶かしてくれているかのようだ。
そういえば何も考えずに風呂に入ってしまったけど、配下になった狼は大丈夫だろうか?
あの子が入って行った影は今は湯舟の底。
もし、影が水の中に入ったことで中まで浸水していて次に出てきてもらった時には変わり果てた姿に...。なんて洒落にならない!
『呼んだ?出ていいの?』
慌てて立ち上がろうとしたところで不意に頭の中に嬉しそうな声が響いてきた。
「だいじょ...。」
脳内に響いてきた声に答えようとしたところで自分がどこにいるのかを思い出して慌てて口を閉じて周りを見る。
突然立ち上がって独り言を話し始めた俺に降り注ぐ訝し気な視線。
俺はその視線から隠れるようにまたその場に座りなおして身を小さくする。
確かジェーンさん声に出さなくても意思の疎通はできるとか言ってたよな?
『あー、テステス。問題なく聞こえてるか?』
『てす?聞こえてるよ?出ていいの?』
『ダメだ。待て!』
『えー。ならなんで呼んだの?』
脳内に響く声は明らかに不満そうなものへと変化した。
街に帰ってきてからはずっと影の中にいたから不満がたまっているのだろう。
可哀そうではあるけど、こんな公共の場で出て来られたら大騒ぎになることは必至。
そしてこの子のことがバレてしまえば芋づる式に闇魔法が使えることもバレてしまう。
俺としてはバレることにそれほど抵抗はないけど、ジェーンさんに迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
『いや、ちょっと今風呂に入っててな。影の中に何か変な影響がないか心配になったんだよ。大丈夫そうか?』
『大丈夫だよ。でも、外に出たい。ずっとここにいたら退屈で仕方ないだもん。』
『わかった。宿に帰ったら一回外に出してあげるからそれまでは我慢してくれ。』
『本当に?』
『本当に。』
『絶対だからね。もし出してくれなかったら絶交だからね?』
『わかったから。絶対に約束は守る。』
そこまで行ってようやく納得してくれたようで頭の中に響く声はなくなった。
「はぁ。なんか子供を相手にしてる気分。」
「子供って誰のこと?」
「わぁ!」
慌てて振り向くとそこには不思議そうな表情を浮かべるユナの姿があった。
「ユナか。驚かせないでくれよ。」
「ずっと傍にいたのに気づかない方が悪い。」
「それは...ごめん。ちょっと別のことに集中してて。」
声に出さなくても喋れるのは便利だけど慣れるまでは気を付けないと。
「それで、子供を相手にしてるみたいって言うのは結局誰のこと?まさか私?」
「違う違う。えっと、依頼を受けた先で知り合った相手のことだよ。」
「依頼で知り合った?それって仮面を被った人のこと?なんか新しく来た迷い人がやばい奴と絡んでるって噂になってるけど?」
「そう!その人のことだよ!」
咄嗟に肯定してしまったけど、魔力を放出するときに気絶する可能性があることを言わなかったり、狼を配下にするときも細かい方法を伝えてくれなかったり。
多分あれは俺の反応を楽しんでるからジェーンさんが子供っぽいというのは嘘ではない。
というか俺がジェーンさんと一緒にいることが噂になってるのね。
まあ、あれだけ目立つ人と一緒にいれば無理もないか。
「実際はどういう関係なの?ギルドで一緒に行動してるって話だからやましい関係ではないんだろうけど....。」
「えーと、あの人にしかない特殊な技術を教えて貰ってるんだ。」
「特殊な技術ね?」
特殊な技術というのが何なのか。
滅茶苦茶気になるという表情をしてるけど、俺が誤魔化したから無理に聞いてくることはなかった。
なんか秘密にしてることが心苦しい。
特にユナは悪魔というある意味では闇魔法が使える人間と似たような境遇だけになおさらだ。
でも、俺の一存でバラしてしまうわけにはいかないのだ。
また、明日にでもジェーンさんにユナに闇魔法のことを教えてもいいか聞いてみよう。
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