異世界日記

メラン

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5日目(1)

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『起きて!』
「ん~。もうちょっとだけ....。」
『ダメ!お腹すいた!』
「グフッ!」
お腹の上に何かが落ちてきたような衝撃を感じて見てみると狼が俺のお腹の上に前足を置いていた。
「....もうちょっと優しく起こしてくれよ。」
『起きないのが悪い。それよお腹すいた!』
「はいはい。確かギルドに行く途中に色々と屋台が出てたからそこで買って訓練場で食べるか。」
『それでいいから早く~。』
「はいはい。じゃあ外に出るから影の中に入って。」
『はーい。』
狼はそう言って素直に俺の影の中へと入って行った。
その様子は相変わらずちょっと不気味だ。
まあ、ずっと続けていれば慣れてくるだろう。
それよりも今は朝ごはんだ。
狼には屋台で買うといったけど俺にはアデラさんが用意してくれた朝食もある。
あまり遅くなって小言を言われるのも嫌なので俺はサッと用意を済ませて下へと降りた。
「おはよう。今日はトーストとシチューだよ。」
アデラは俺に気付いてすぐに朝食を用意してくれる。
商売とはいえ毎朝こうやって朝食を用意してくれるのは本当に頭が上がる。
自分一人だったら絶対に朝起きるのがめんどくさくて朝は食べない。
そしてこの生活を守るためにはお金が必要だ。
薬草採取は外に出る依頼の中でも比較的安全度は高いけどその分報酬もそれなりだ。
一応生活はできる程度にはもらえるけどもしもの時のための蓄えが必要なことを考えれば心もとない。
それと比べて討伐依頼は危険度が高い分報酬も若干ではあるけど高めに設定されていた。
それに報酬以外にも討伐した生物の素材なんかもお金になる。
これに関しては解体の技術が俺にはないのでどうにもならないけど。
でもウサギぐらいの小さな生物ならば解体せずにそのまま持って帰ることができる。
そうこの魔法鞄があれば!
俺は昨日手に入れた魔法鞄に手を触れる。
持っていた財産のほぼ全てを注ぎ込んで手に入れた代物だ。
存分に役に立ってもらわなければ。
一番の問題は俺が討伐依頼をこなせるかどうかだけど...そこは配下になった狼に頼るとしよう。
それに、運が良ければ昨日みたいにジェーンさんがついてきてくれるかもしれない。
昨日の狼の群れとの戦闘を見る限り余程の相手でない限りジェーンさんがいれば問題はない。
「ごちそうさまでした!ちょっとギルドに行ってきます!」
「はいよ!ウチに金を落とせるようにガンガン稼いできな!」
そんなアデルさんの激励を受けながら俺は宿を後にして道中の屋台で狼が好きそうな肉系の物を買いつつギルドへと向かった。
そしてギルドの訓練場。
ジェーンさんはまだ来ていなかったので端っこの方で狼に屋台で買った食べ物をあげつつ時間を潰す。
「この子が昨日言っていた配下の子なんですね。」
何故かミルアさんと一緒に。
「なんでいるんですか?」
「配下になったというのがどんな存在なのか気になったので。闇魔法で作ったとおっしゃっていたのでもっとおどろおどろしい存在なのかと思っていましたけど実際に見てみると可愛いですね。」
ミルアさんはそう言って狼の背中を撫でる。
狼もそれが気持ちいいのか特に抵抗せずにされるがままだ。
その姿は昨日まで野生で生活していたとは思えないほど飼いならされている感がある。
『ナンデギルドノ職員ガココニイル?何カ問題デモ起コッタノカ?』
そんなこんなで時間をミルアさん入れて2人と1匹で時間を潰しているとジェーンさんが来たようでミルアさんをみて若干警戒している様子を見せる。
「いえ、特に問題が起きたわけではありません。ただ、闇魔法で配下を作ったとお聞きしたので様子を見に来たんです。教育の進み具合を確認するのも私の仕事なので。」
仕事という言葉に反応してミルアさんの方を二度見したのは悪くないと思う。
夢中で狼を撫でる姿は仕事というよりも個人的に楽しんでいるように見えたのだ。
だからそんなに睨まないで欲しい。
「ゴホン。そういわけなので私の仕事は終わりましたので失礼させていただきます。本当なら訓練をしている様子の方も実際に確認させていただきたいところなのですが.....。」
『出来レバ遠慮シテモライタイ。』
「わかりました。では失礼させていただきます。」
ミルアさんはそう言って名残惜しそうに狼を一撫でしてから訓練場を後にした。
ミルアさんが訓練場を後にしたのを確認してジェーンさんがこちらに向き直る。
『部外者モ居ナクナッタ。早速訓練ヲ始メルトスルカ。』
「部外者って流石に酷くないですか?ミルアさんはいい人ですよ?闇魔法のことを知られたくないのは分かりますけど....。」
『人間ナンテ何ガキッカケデ裏切ルカ分カッタモノデハナイ。タトエソレガイイ人デアロウト....ナ。』
ジェーンさんはそう言って少しだけ顔を伏せた。
仮面越しでも今のジェーンさんが悲しそうな表情を浮かべていることが分かる。
一体この人の過去に何があったのだろう。
まあ、何があったにせよこの様子だとユナに闇魔法のことをバラすと言うのは厳しそうだと言うことは分かった。
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