そして兄は猫になる

Ete

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キ・セ・キ 軌跡そして奇跡

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兄が事故に遭った日の事。

兄は仕事が休みだった。

その日は
義姉を『送ってやる』と言って職場まで運転。
夕方迎えに来るからと約束をして帰って行った。

『自分と義姉の車2台がピカピカに洗車してあった』
『家の中も綺麗に掃除がしてあった』…と
後に義姉から聞いた。

逝く前に身の回りのものを綺麗にしたようだ。
これもまた、死の予感があったのかな。


兄の亡くなった数日後、

昔お世話になっていた小児科・内科医院の女医さんから 私宛に電話が入った。
キリスト教を信仰されている、心穏やかなドクターだ。
兄に「こんな病院があるよ」と紹介したことがきっかけで、兄の行きつけにもなっていた。

先生は
『実はその日、うちに受診に来てくれてたのよ。いつものように採血をして、普通に話をして、特に変わった様子もなかったんだけど。『ありがとうございました』とお辞儀して帰って行かれて。そしたらその夕方に事故で亡くなったって聞いて‼︎来てくれたのは偶然なの⁉︎って職員皆んなビックリで…』と
その日の様子を教えてくださった。


どうやら兄は、お世話になった病院にも挨拶に行ったらしい。


あんなに散らかす人が、色々整理して回ったんだなぁ。


亡くなって約1ヶ月後。

事故の原因や相手がいたのか?とか
兄は事故直後どうだったのかなど、全く情報がなく、家族の思いは迷走していた。
アスファルトに少しだがタイヤの跡が残っていて、電柱にも黒い傷が残っていた。
分かっているのはその程度。
消防も警察も、話を聞いてみたが 何かと守秘義務があるらしく、詳しくは教えてくれなかった。

ある日、
夫と事故現場近くのスーパーに行った時のこと。

帰りに事故現場を見ていたら、60歳前後の男性が 夫に声をかけてきた。
以前 職場が一緒だったらしい。

「ここでバイクの事故があったが?あれは酷かったなぁ。ガードレールでもあったら助かってたかもしれないなぁ」と話し始めた。

《もしかして この人何か知ってる⁉︎》

「その事故 見たんですか⁉︎」
私はもっと教えてと頼んだ。

「いや、たまたまそこに居合わせてねぇ。何で事故になったかは知らないよ?バイクは電柱にぶつかったみたいで、その人は電柱の横の畑に飛ばされたんだよ。近くに行ったら必死に起きようとするし、ヘルメットを外そうとするから外してあげて。助けが来るから動かない方がいいよって言ったんだ。喋りはせんかったけど、あれは痛そうだった。後は救急車が来て運ばれて行った」と。


事故直後、兄は生きていた⁉︎
兄は生きていたんだ⁉︎
事故直後のことを 初めて知った瞬間だった。


「それ、私の兄なんです‼︎」


私が答えると、その男性も「えええ⁉︎」とびっくりされていた。

こんな偶然ってあるんだろうか?
あんなに知りたかったことが、こんな形で分かるなんて!
この日、この場所、この時間に居なければ、この人に会うこともなくて。
夫と知り合いでなかったら、ただの通りすがりの人で終わりだったかもしれないのに。
何という幸運。
何という奇跡‼︎

話を聞いた後、夫と2人助けて頂いた事に感謝し、深々と頭を下げてお礼を言った。
またその近所の人に、兄が落ちた畑の持ち主様を聞いて回り、その家に菓子折りを持って迷惑をかけた事を謝罪に行った。
誰もが「大変だったね」と声をかけてくださった。

内容はほんの一部だけど、兄が即死ではなかったことを知ることができた。
残念な結果ではあったけど、兄の様子が分かって とてもありがたかった。

兄は意識があったんだ。
痛くて動けないのに、自力で起き上がろうとしてたんだ。

お兄が引き合わせてくれたのかなぁ…。

あれこれ考えてばかりで、答えに行きつかない私達がもどかしくて、
ここに行くように仕向けたのかも。
何となくそう思えた。


兄が亡くなった日の
朝から事故までの足取りが何となく繋がった。
原因は分からないけど、兄はあれこれ片付けて、旅の準備をして、最後に母に会いに行き そして旅立った。
大事な人たちに会いに行ってたんだね。
それだけでも十分。


それからしばらくして

兄が落ちた場所にはガードレールが付けられた。
それを見るたび思い出す。

『ガードレールでもあったら助かったかもしれないなぁ…』

あの人の言葉が心に響く。

もしかしたら今頃
「あんな事故もしたよね」って笑って言えるような
そんな『奇跡』が期待できていたかもしれない。
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