そして兄は猫になる

Ete

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兄は風になりました

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兄は歳と共に少し性格が丸くなっていった。
体も一緒に丸くなっていった(笑)

そう言えば顔も丸顔だったな。
母親似だと皆んなから言われていた。

私は父親似だとしきりに言われた。
言われるとムキになって「母似です!」と言い返していたけど…

面長で眉毛や目の辺り…
先祖の遺影を見ると、祖父母も父も もちろん私も みんな同じ顔をしている‼︎
特に眉毛!
完全に遺伝子を引き継いでしまってるじゃないか⁉︎
間違いなく父の子だ。

母に似なかったのが悔しい。
幼少時から父が嫌いだったので、母親似と言われた兄が羨ましくてたまらなかった。
でも大人になって、歳をとった母の顔を見て、丸顔より面長の方がいいなと思うようになったのはちょっと内緒。

顔の事は置いといて、

丸くなったと言えば
兄は私の息子が学校を卒業して就職した時に、
「お祝いに何か買ってやる」と言ってきた。

ケチな兄からそんなこと聞いた事がない。
ずっと一緒にいた私にさえ言ってくれた事がないのに。
何かくれるとしたら、人から貰って自分には不要な物ぐらいか?

その兄が買ってやるって~?
これは気が変わらないうちにお願いしなければ‼︎

息子自体は特に欲しいものはなく、「何でもいいよ」と欲がない。
せっかく買ってもらえるのに…。

私はふと思いつく。
就職すると冠婚葬祭のお付き合いも増えるのに、まだ礼服を用意してやっていなかった!
「そうだ!礼服買ってもらったら?」と提案する。
「いいよ。じゃあ買いに行こう」
やった!やりました!
息子は兄と共に礼服を買いに出かけた。

「新しい礼服着て見せて!」私もドキドキ!

さすが兄貴!

…ブカブカじゃん…?(笑)

一体どんなサイズをチョイスをしたんだ。
仕方ない。ここは文句を言わずに、ありがとうとお礼を言う。


そして、その礼服の出番がやってきた!
その袖を一番最初に通すことになった冠婚葬祭ってやつが!

《まさか兄の葬式だったと言う結末…。》

買ってなんて言わなきゃよかった…。


さて、いよいよお墓に向かう時が来た。
空は秋空。綺麗に晴れていた。

父は骨壺を、母は位牌、私は遺影を持たせてもらった。
義姉はアロハ袋に入れたお骨を大事そうに抱えている。

お墓までは5分とかからないが、少し坂道を歩かなければならない。
ちょっと息が上がる。
近所に家は3軒しかないので、とても静かで 辺りは畑と山と青い空が見えるだけ。
昔はタバコの葉がいっぱい作ってあったなぁ。
お兄たちと、半ズボンとランニング、ノースリーブで走り回ったっけ。
いつも通る道なのに、今日は何だか違って見えた。

懐かしさと共に スゥ~っと顔の横を 秋の風が吹き抜けていった。


お墓に着くとお経が始まる。
これから先祖代々に兄が加わることになる。
みんなバンドさせられるんじゃないか?
お墓の中はドンチャカ賑やかになることだろう。
覗いたことはないが、勝手な想像。

墓にも色々あって、
従兄弟の所は 墓石の下を開けると石で囲まれたちょっとした空間があって、骨壺が何個か入るようになっていた。
誰の骨か分かるし、なるほど簡単でシンプル。見た目も綺麗。

うちの場合は、開けると土混じりの砂地になっていて とにかく『骨だけ』を入れるようになっている。
なので青い骨壺の役目は必然的にここまでだ。

結構な人数の親族に囲まれて、兄のお骨が父に手によって骨壺からお墓に移された。

これからはここがお兄の新しいお家だね。
実家もよく見えるし いい場所だ。
みんなが次々とお菓子を供えて線香を立てる。
兄の好きなコーヒーやコーラ、例の三色団子は勿論のこと、パンだの菓子だの…
いくら好きだからって ちょっと置き過ぎな気がする…。

私は少し離れた場所からその光景を見守っていた。
お兄 あっちでも間違いなく太るよね…

横の方で和尚さんが姉の持っているお骨の入った袋を指している。
義姉は骨が入っていることを説明しているようだった。
和尚さんはその骨もお墓に入れなさいと促している。
ここまで来て何やってんの⁇と思った。

義姉は袋ごと入れたかったのか?
それとも持ち帰りたかったのか?
しばらく拒否していたようだが、最後は渋々承諾した様子。

和尚さんは

『人は土に戻るんだ。骨は微生物らによって分解されて、少しずつ大地に還っていくんだよ。そこからまた新しい芽が出て 命は繰り返されていくんだ』
と教えてくださった。

ちょっといい話。

お兄も生えて来るのかな?(笑)


義姉はアロハで作られた巾着から、仕方なく兄のお骨を出してお墓の中に入れた。
袋をパタパタと振りながら。

その時

白いものが 空に向かってふわぁ~っと昇っていくのが見えた。
それは雲のように太く長く密集していて 義姉の頭上を 高く高く舞い上がっていく。
まるでランプの精みたいな感じだった。

何あれ⁉︎
びっくりして思わずボーっと見入ってしまった。

これ兄の骨粉⁉︎
にしては多すぎるでしょ?

誰も気が付いていないみたい。

もしかしてお兄はお墓から抜け出した?

狭いとこは嫌だったのかな。
手助けしたのはもしや義姉⁉︎
魂が自由を求めて旅に出たか~⁉︎

お兄ならやりそうだ(笑)

携帯持っていたのに、突然の出来事にその光景を写真を撮らなかったのが非常に残念(泣)
あれは絶対お兄に間違いない。
愛しの義姉のおかげか、アロハ効果か?

それとも風が誘ったのかな。
先祖が押し出したのかもしれない。

「お前にそこは早すぎる」なんて言って。

『千の風になって』まさしくその通りだ。

兄はお墓にいません。

訪ねて行っても
「ただいま不在にしております」の看板が出てると思う。
変顔の写真とか横に貼り付けて(笑)


兄は風になった。
風になったんだと私は思う。

これから いつでも 何処でも 
好きな時に 好きな場所へ
飛んでいける風になった。

まだまだやりたい事がいっぱいあるって予定も立てていたみたいだし。
兄は永遠の自由を手に入れたのだ。

と、私は思った。






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