追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

散士

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魔術師の少女3

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 ルカが宿泊しているのは、繁華街の外れにある安宿だ。部屋の中にはベッドがひとつと、ちょっとした書き物が出来る程度の机と椅子がひと揃え。あとは身の回りの荷物を置けばいっぱいになってしまう。とはいえ、独り身の冒険者にとっては充分な広さだ。

 先ほど助けた少女…クラリスは椅子の上に。ルカはベッドの上に腰をかけ向かい合った。

「改めてお礼を申し上げます。先ほどは本当に…ありがとうございました」

 椅子に腰かけたまま、クラリスは深々と頭を下げる。

「いえ、いいんです。たまたま通りかかっただけだし…そもそも、僕なんていなくても何とかなったような気もするし…」

 ルカは、先ほどクラリスが放った魔術を思い出していた。初伝レベル1魔術『ウィンド・ショック』、本来なら人が吹き飛ぶような高威力の魔術ではないはずだ。

「あんな強いウィンド・ショックなんて、はじめて見ました。実はクラリスさんって、高位の魔術師なんじゃないですか?修伝レベル3とか、皆伝レベル4とか…」

「そ、そんな、とんでもない!」

 クラリスは慌てて手を振った。

「私はただの初伝レベル1魔術師です。私の魔術が他の人よりちょっとだけ強いのは天資スキルのおかげなんです」

天資スキル…クラリスさんはスキル持ちスキルホルダーなんですか?」

 ルカは目を丸くする。

 天資スキル。それは、個々人が持つ特別な力。固有の能力。

 武術や魔術であれば、努力次第で後天的に習得する事ができる(もっとも、そこにも個人の才能による格差はあるが)。しかし、天資スキルは違う。天資スキルを後天的に習得する事はできない…まさしく『天から与えられた資質』だ。

「はい、私の天資スキル魔術増強マジック・ブースト。私は、魔術を発動する際に魔力を込めれば込めるほどその威力を高める事ができるという能力を持っています」

魔術増幅マジック・ブースト…!」

 極めて単純な天資スキル。しかし、それ故に極めて有用なものである事はルカにも分かった。

 基本的に、魔術はそのレベルに比例して威力が上がる。初伝魔術レベル1マジックよりも中伝魔術レベル2マジック中伝魔術レベル2マジックよりも修伝魔術レベル3マジックの方が威力は高い。しかし同時に、魔力消費が増え詠唱時間が長くなるという欠点がある。

 だが、もしも魔術増幅マジック・ブーストで威力を底上げできるのならば…例えば、初伝魔術レベル1マジック修伝魔術レベル3マジックと同程度の威力が出せるのであれば、短い詠唱時間で高威力の魔術を放てるという事になる。

「でも、魔術師としてはあくまで初伝レベル1でしかありません。まだまだ、ヒヨッコです。ルカさんに助けて貰わなかったらどうなっていたか…。だから、本当に感謝しているんですよ」

 そう言ってクラリスは微笑んだ後、少し申し訳なさそうな表情になる。

「それに、助けていただいただけじゃなくて宿にまで上がり込んでしまって…お邪魔じゃありませんでしたか?冒険者さんなんですよね?ひょっとしたら、買い出しとか、依頼の最中とかだったりしたんじゃないですか?」

「…いえ、大丈夫です」

 そう答えるルカの声は沈んでいた。自分では平然と振舞ったつもりだったのだが…無意識のうちに、沈んでしまっていた。自分がパーティから追放されたという現実を思い出したのだ。

「本当に大丈夫ですか?やっぱり、お邪魔だったんじゃ…」

 クラリスは身を乗り出した。ルカの沈んだ声の原因は、自分が彼の邪魔をしたからではないかと勘違いしているようだ。

「暇だから大丈夫ですよ。その…僕、パーティを…追放、されたんです。…だから、どうせ…ずっと、暇、なんで…」

 ルカとしては、おどけたつもりだった。「いや~、実はパーティを追放されたばかりなんです、だから暇なんですよ。えへへ」といった口調で話をするはずだった。だが…その声は、内から込み上げる悲しみに震えてしまっていた。

 自分の全てが否定された事を思い出し、涙が溢れてくる。ルカは俯いた。

「どうせ、僕なんて何の役にも立てない…ですから」

 黙っていると涙が零れ落ちてしまいそうで、そんな事を言ってしまう。自虐地味だが、ルカの本音でもあった。自分は、何の役にも立てない。誰の力にもなれない。

「…自分の事をそんな風に言わないでください」

 温かな手が、ルカの頬をそっと撫でた。顔を上げると、クラリスが椅子から立ち上がり、片膝をついてルカの目の前にまで近付いていた。

「私は、あなたに助けていただきました。…助けていただいて、とても嬉しかったです。本当に、心から感謝しています。何の役にも立てないなんて事、ありませんよ」

「そんな事…」

 ルカは、クラリスから視線を逸らした。彼女が善人だという事はルカにも分かる。分かるからこそ…彼女の言葉が信じられなかった。自分を励まそうとして、こんな事を言っているのだと思った。

「…信じて貰えませんか?」

 クラリスはルカの顔を覗き込む。

「しょうがないですね、それじゃあ…」

 そう言って、ルカの顎にそっと手を添えた。少年の口角が上がる。そして――ちゅ、と軽い水音が響いた。

「え…?」

 ルカは少しの間、自分が何をされたのか分からなかった。自分がキスをされたのだと気が付いたのは…少女の顔が離れた後だった。

「お、お礼の…つもり、です」

 クラリスの頬は赤かった。それを見て、ルカの顔も火が付いたように真っ赤に染まる。

「え、え…?」

 初めてのキス。それが、こんなに唐突に訪れるとは思っていもいなかった。バクバクと心臓が跳ね、唇が震える。手が震える。いや、全身が震えていた。

「あ、あの…出過ぎた真似でしたか?そのっ…ごめんなさい!突然、突拍子もない事しちゃって…でも、私の気持ちが本当だと信じていただくにはこれしか思いつかなくて…あっ、でも、そのっ…お礼の証ってだけじゃなくって、心の底からあなたとキスをしたいという気持ちも…やっ、な、何言ってるんだろ私。とっ、とにかく、ごめんなさい!」

「や、あの、その…あ、謝ってもらう必要は…ない、です。い、嫌じゃ、ない…ですし。そのっ…嬉し…嬉しっ…かった…で、です…」

 しばらくの間、二人の間に沈黙が流れた。その間、両者は赤面したままだ。しかし、それはルカにとって不快な時間ではなかった。なんだかむずがゆいけれど…心が温かかった。
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