追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

散士

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ルフェールへの道中8

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「くっ…!猛る炎よ、燃え盛れ…」

 ルカが走り出すと同時に、デボラが詠唱を開始した。

(よし…!)

 ルカは内心で安堵する。ひょっとしたら連携がうまくいかないかもしれないと思っていたが、デボラもDランク冒険者。ルカに合わせてきた。

「…我らが敵を焼き焦がせ『フレイムスロウラー!』」

 中伝レベル2魔術、『フレイムスロウラー』。デボラの掌から生じた火炎がボグリザードの群れを襲った。慌てて飛びのいたボグリザードたちだったが、逃げ遅れた一匹は顔にもろに火を浴びる。

「ゲウッ」

 と短い呻き声をあげて、ボグリザードは地に倒れ伏した。ボグリザードの全身は鱗に覆われている。そのために物理、魔術に対する防御力は高い。しかし、鱗に覆われていない部分…目や鼻といった感覚器官は炎に弱いという性質を持っている。そこに炎を受けると、一瞬で失神してしまうのだ。

 ルカもまたボグリザードに近付きつつ呪文を詠唱する。

「炎よ、我がたなごろこの上に『ハンド・フレイム』」

 ルカの掌から炎が立ち昇る。それをボグリザードに向けて突き出した。

「グ…!」

 ボグリザードが飛びのいた。

(駄目か…!)

 ボグリザードの感覚器官は炎に弱い。だが、ボグリザードとてただ突っ立っている訳ではない。炎が近付いてくればそれを避ける。当然の話だ。

(やっぱり、初伝レベル1魔術じゃ射程も速度も足りない…!)

 予想していた事だが、ボグリザードの弱点を突くには最低でも中伝レベル2魔術が必要なようだ。ルカは素早く剣を抜く。

「あああああ!」

 叫びながら、ボグリザードの群れに斬りかかる。声をあげたのはボグリザードの注意を引き付けるためだ。ボグリザードはルカの攻撃をひらりとかわす。そして、

「グゥーッルルル」

 と喉を鳴らし声をあげた。たちまちルカの周囲に十匹を越えるボグリザードが集まった。

(みんなは…!?)

 デボラたちに視線を向ける。彼女らはルカとは反対の方向へ駆け出していた。二、三匹のボグリザードがその後を追ったが、デボラの魔術とドナルドの剣術で撃退されている。

(よし…)

 ボグリザードたちの多くはこちらに引き付けられ、デボラやジムケたちはこの包囲を脱出できそうだ。一度距離を取れば逃げ切れる可能性は高い。ただひとりこの場に残されたルカを除いて。

 自分を残して逃げたデボラたちを薄情だとは思わない。ルカ自身がそれを望んだのだ。むしろ下手にルカを助けようと逃げてくれて良かったと思っている。そうなれば、囮となった自分の行動が無駄になってしまうからだ。

(これで…いい)

 だが、それはそれとして…死が恐ろしくないかと言えば、そんな事はなかった。

 周囲にはDランク魔物モンスターの群れ。それを打ち倒すすべをルカは持っていない。ボグリザードの爪に体を引き裂かれ、あぎとに嚙み砕かれる自身の姿を想像し…恐怖のあまり吐き気すら込み上げた。だか、構えは解かない。目の前の魔物モンスターたちを睨みつける。一秒でも長く敵を引き付け、一筋でも多く敵に損傷を与える。それがデボラたちの逃走の助けになるはずだ。

「グァッ!」

 ルカの右手側にいたボグリザードが飛び掛かってきた。鋭利な爪を備えた前足を突き出してくる。体に触れれば、皮を裂き肉を抉る一撃だ。ルカは剣でそれを受け止め…受け流す。初伝剣技『捌き受け』。

 ボグリザードは前へつんのめる。そこに反撃の一撃。斜めに剣を振り下ろす初伝剣技『はす斬り落とし』。刃はボグリザードの肩に食い込み…そこで止まった。

(剣も駄目だ…!)

 ルカは剣を引く。ボグリザードの体表は固い鱗に覆われているうえ、その下の肉も強固だ。ルカの剣技ではある程度の損傷を与える事はできても、致命傷を負わせる事まではできない。

 魔術も剣術も通じない。だが、それは分かっていた事だ。分かっていて死地に飛び込んだ。後悔はない。いや――

(クラリスさんとの約束、果たせなかったな…)

 冒険者の最高位…達人位マスターランクになるという約束。それを果たせなかったのが、心残りだった。

 ルカの左手側からボグリザードが襲い来る。と同時に、前方からも。ルカには、二匹同時にこの魔物モンスターの相手をする能力はない。少年は死を覚悟した。

 その時、ヒュン――と、空気を切り裂く鋭い音が耳に響いた。次の瞬間…目の前のボグリザードの首がその胴体から離れ、地面に落ちる。

「え…?」

 続けて、左手側のボグリザードの首もドサリと地面に落ちた。何者かが一瞬で二匹のボグリザードを葬ったのだ。

「大丈夫かい?」

 凛とした声が響く。そちらを向けば、ローブのような布を纏った長身の女性が立っていた。手に持った両刃剣から立ち昇る密度の高い練気プネウマ。それだけで自分とはステージの違う剣士である事がはっきると分かる。

 二体のボグリザード瞬く間に葬ったのは、アレクシアだった。
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