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ルフェールへの道中11
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「ん…」
完全な暗闇の中に陥っていた意識が、徐々に形を取り戻していく。
嗅覚…森の匂いがする。
聴覚…パチパチという、焚き木の燃える音。
触覚…なんだか、柔らかい膨らみに左右から挟み込まれている。いや、頭だけではない。全身が何かに包まれているようだ。
ルカはゆっくりと瞳を開く。視界が明るい。もう朝になっているようだ。目の前には焚火。
体を起こそうとする。が、起き上がる事ができない。
「あれ…?」
どうやら、何者かに後ろから抱きしめられ…その上からさらに、寝袋で覆われているようだ。その事が分かり振り向いた。すると、そこには凛とした佇まいの女性の顔があった。その人物と目が合う。アレクシアだ。
「良かった。起きたんだね」
アレクシアは微笑んだ。
「え、アレクシアさん?僕は、どうして…?」
いつの間にか、アレクシアに抱きしめられながら焚火の前で横になっていたようだ。
「覚えているかい?君が魔術でゴーレムを撃退した事を」
「…はい」
そこまではルカにも記憶がある。自分自身でも想定外だった高威力の魔術によってミドルマッドゴーレムを粉砕し…そして、魔力切れによって失神してしまったのだ。
「あの後、君の体温が急激に低下してね。温めるためにこうやって焚火の前で君の体を抱きしめていたという訳さ」
「そうだったんですか…」
魔力切れを起こすと体温調節機能がうまく働かなくなると聞いた事がある。おそらく、そのせいで急激に体温が低下してしまったのだろう。
「…!そ、そういえば、ジムケさんやデボラさん…みんなは!?」
「ここにいるわ」
そう声がして、後方にいたらしいデボラがルカ達の前まで歩いてきた。
「あたしも、他のみんなも全員無事よ。あのあと魔物が襲ってくる事もなかったわ」
「よかった…」
はぁ…と安堵のため息を漏らす。
「坊やには助けられたわね。あんな凄い魔術が使えるなんて」
「いえ、あれはなんというか…たまたまです。それに、ほとんどの魔物を倒したのはアレクシアさんで…僕は大した事はしてませんよ」
「そうそう、てめえがいなくても何とかなってたんだ」
そう言って姿を現したのはドナルドだ。
「今回は運良く敵を撃退できたかもしんねえが、あんまり調子に…」
へらへらとした口調で喋るドナルド。そんな彼に、デボラが歩み寄った。
――パン、と乾いた音が響いた。デボラがドナルドの頬を平手で叩いたのだ。
「な、何すんだてめえ!」
「あんた!いい加減にしなさいよ!そもそもの話、あんたが夜警の最中に酒なんて飲んで居眠りしなかったらこんな事にはなんなかったのよ!」
「なっ…お、俺が悪いってのかよ…!」
「どう考えてもそうでしょ!?アレクシアちゃんとルカ君がいなかったらあたし達は全滅してた。この子はね、あんたの尻拭いしてくれたのよ。分かってる!?」
「ぐっ…」
ドナルドがたじろいだ。
「ルカ君にきちんと謝りなさい!」
「なんで俺が…!」
「この子はね、自分を囮にして…自分の命を捨ててまで、あたし達を助けようとしてくれたのよ!?あんたにそれが出来る!?」
「お、俺だってそれくらい…」
「いいえ、断言するわ。あなたには絶対に無理よ」
その言葉に、ドナルドの瞳が大きく見開かれた。デボラにここまでの事を言われるのは初めての経験なのかもしれない。
「もしどうしてもこの子に謝らないってなら…離婚するわ」
「なっ…な、何言ってんだよ!」
「あたしは本気よ!謝るの?謝らないの!?」
何か言い返そうとするドナルドだったが、デボラの剣幕に気圧されてしまう。
「う…ぐ…」
と小さく唸り、ルカとデボラ、二人の顔を交互に見比べた。
そして何かを決心したようにルカの前まで来て…膝を折った。
「…悪かった」
呟くように、ぽつりと言った。
「悪かっただけじゃ分からないわ。何が悪かったの!?」
デボラが叫ぶ。
「…さ、酒を飲んで…居眠りして、商隊を危険な目にあわせちまった」
「それだけじゃないでしょ。今までのルカくんに対する言動も謝りなさい」
「い、今までも…何かとつらく当たって…すまなかった」
「頭が高い!」
デボラがドナルドの頭を地面に向かって押し付ける。ドナルドはそれに抵抗しようとはしなかった。地に頭を付けたまま言葉を続ける。
「本当に、すまなかったと思ってる」
ドナルドの声は震えていた。
「…お、俺だって…本当は分かってる。お、お前がいなかったら…俺は死んでたかもしれねえ。俺だけじゃねえ、デボラもだ。…助けてくれて、本当に…感謝してる」
「気にしないでください」
ルカは静かに答えた。ドナルドの頭からデボラの手が離される。
しかし、しばらくの間ドナルドが頭を上げる事はなかった。
完全な暗闇の中に陥っていた意識が、徐々に形を取り戻していく。
嗅覚…森の匂いがする。
聴覚…パチパチという、焚き木の燃える音。
触覚…なんだか、柔らかい膨らみに左右から挟み込まれている。いや、頭だけではない。全身が何かに包まれているようだ。
ルカはゆっくりと瞳を開く。視界が明るい。もう朝になっているようだ。目の前には焚火。
体を起こそうとする。が、起き上がる事ができない。
「あれ…?」
どうやら、何者かに後ろから抱きしめられ…その上からさらに、寝袋で覆われているようだ。その事が分かり振り向いた。すると、そこには凛とした佇まいの女性の顔があった。その人物と目が合う。アレクシアだ。
「良かった。起きたんだね」
アレクシアは微笑んだ。
「え、アレクシアさん?僕は、どうして…?」
いつの間にか、アレクシアに抱きしめられながら焚火の前で横になっていたようだ。
「覚えているかい?君が魔術でゴーレムを撃退した事を」
「…はい」
そこまではルカにも記憶がある。自分自身でも想定外だった高威力の魔術によってミドルマッドゴーレムを粉砕し…そして、魔力切れによって失神してしまったのだ。
「あの後、君の体温が急激に低下してね。温めるためにこうやって焚火の前で君の体を抱きしめていたという訳さ」
「そうだったんですか…」
魔力切れを起こすと体温調節機能がうまく働かなくなると聞いた事がある。おそらく、そのせいで急激に体温が低下してしまったのだろう。
「…!そ、そういえば、ジムケさんやデボラさん…みんなは!?」
「ここにいるわ」
そう声がして、後方にいたらしいデボラがルカ達の前まで歩いてきた。
「あたしも、他のみんなも全員無事よ。あのあと魔物が襲ってくる事もなかったわ」
「よかった…」
はぁ…と安堵のため息を漏らす。
「坊やには助けられたわね。あんな凄い魔術が使えるなんて」
「いえ、あれはなんというか…たまたまです。それに、ほとんどの魔物を倒したのはアレクシアさんで…僕は大した事はしてませんよ」
「そうそう、てめえがいなくても何とかなってたんだ」
そう言って姿を現したのはドナルドだ。
「今回は運良く敵を撃退できたかもしんねえが、あんまり調子に…」
へらへらとした口調で喋るドナルド。そんな彼に、デボラが歩み寄った。
――パン、と乾いた音が響いた。デボラがドナルドの頬を平手で叩いたのだ。
「な、何すんだてめえ!」
「あんた!いい加減にしなさいよ!そもそもの話、あんたが夜警の最中に酒なんて飲んで居眠りしなかったらこんな事にはなんなかったのよ!」
「なっ…お、俺が悪いってのかよ…!」
「どう考えてもそうでしょ!?アレクシアちゃんとルカ君がいなかったらあたし達は全滅してた。この子はね、あんたの尻拭いしてくれたのよ。分かってる!?」
「ぐっ…」
ドナルドがたじろいだ。
「ルカ君にきちんと謝りなさい!」
「なんで俺が…!」
「この子はね、自分を囮にして…自分の命を捨ててまで、あたし達を助けようとしてくれたのよ!?あんたにそれが出来る!?」
「お、俺だってそれくらい…」
「いいえ、断言するわ。あなたには絶対に無理よ」
その言葉に、ドナルドの瞳が大きく見開かれた。デボラにここまでの事を言われるのは初めての経験なのかもしれない。
「もしどうしてもこの子に謝らないってなら…離婚するわ」
「なっ…な、何言ってんだよ!」
「あたしは本気よ!謝るの?謝らないの!?」
何か言い返そうとするドナルドだったが、デボラの剣幕に気圧されてしまう。
「う…ぐ…」
と小さく唸り、ルカとデボラ、二人の顔を交互に見比べた。
そして何かを決心したようにルカの前まで来て…膝を折った。
「…悪かった」
呟くように、ぽつりと言った。
「悪かっただけじゃ分からないわ。何が悪かったの!?」
デボラが叫ぶ。
「…さ、酒を飲んで…居眠りして、商隊を危険な目にあわせちまった」
「それだけじゃないでしょ。今までのルカくんに対する言動も謝りなさい」
「い、今までも…何かとつらく当たって…すまなかった」
「頭が高い!」
デボラがドナルドの頭を地面に向かって押し付ける。ドナルドはそれに抵抗しようとはしなかった。地に頭を付けたまま言葉を続ける。
「本当に、すまなかったと思ってる」
ドナルドの声は震えていた。
「…お、俺だって…本当は分かってる。お、お前がいなかったら…俺は死んでたかもしれねえ。俺だけじゃねえ、デボラもだ。…助けてくれて、本当に…感謝してる」
「気にしないでください」
ルカは静かに答えた。ドナルドの頭からデボラの手が離される。
しかし、しばらくの間ドナルドが頭を上げる事はなかった。
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