1 / 19
高校2年の春
しおりを挟む
あいつ――日枝奏汰を初めて見たのは、高校1年の入学式のときだった。
同じクラスで、ひとつ前の出席番号。
第一印象は体育館に並んだときの、広い背中だ。
整った顔。背が高くてぱっと目を引く容姿なのに、服装はだらしなくシャツがズボンからはみ出している。明るい髪色とチャラそうな見た目。そのわりに、体格のせいか、態度のせいなのか、どことなく威圧感があって話しかけにくい感じがする。
性格は明るくやんちゃで、物怖じしなくて、何でも器用にこなすタイプ。
クラスでも誰かとトラブっているのは見たことがないし、誰の懐にもすっと入っていってしまうような不思議な魅力がある。
同性からも異性からも人気があって、モテていて、要領のいい男……。
自然体で楽しそうに高校生活を送っている――そんな彼のことが、僕は心の底から嫌いだった。
* * * * *
校舎前に植わった桜が満開を迎えた、始業式の朝。
玄関を抜けた先にある昇降口には人だかりができていて、すでにガヤガヤとにぎやかだった。
「やったな! 2年も同じクラスじゃん、姫川っ」
僕の両肩をこれでもかと揺さぶっているのは高校1年のときのクラスメイトであり、友人でもある小木晴馬だ。僕の所属する生徒会の役員仲間でもあり、真面目ないい奴で、たまに面白い。
視界がぐらぐらするな~と思いながらも、僕は掲示スペースに貼り出された新しいクラス表に目を凝らす。
小木晴馬。姫川真紘。
2年1組の欄に書かれているふたりの名前を見つけて、僕は「よしっ」と小さくガッツポーズした。
クラス替えは楽しみな反面、不安でもあった。
友達がひとりもいなかったり、苦手な人が多かったりすれば憂鬱な気持ちが1年も続くことになるし、最悪の場合は学校に来ることすら嫌になってしまう。
(でも、気心の知れた小木が一緒なら……)
高校2年になっても、このクラスで問題なくやっていけそうな気がした。
「ラッキーだね。よかった」
「ああ! また1年間よろしくな」
「うん」
「待ってよ~、俺も入れてって!」
軽くハイタッチする僕らのあいだに入ってきたのは、友人その2の真田充之だ。小木と同じく高校1年のときのクラスメイトで、クラスでは3人で行動することも多かったいつものメンバー。
焦っていたせいか見逃していたけれど、1組の表にはしっかりと真田の名前もあった。
僕らは真田を喜んで輪の中に入れ、スクラムでも組むみたいに3人で肩を抱き合った。
ああ、なんて奇跡なんだろう。
ありがとう、神様。
ありがとう、クラス替え……!
これで同じクラスの苦手な人たちともさよならできたら、僕は一生分の感謝と祈りを捧げます。
(お願いだから、どうかあいつらとだけは同じクラスになりませんように……!)
つい手を合わせながら表を見つめる僕に、真田がふふっ、と小さく笑った。
「ねぇねぇ、姫川は次も学級委員やるの?」
「うーん……? んー、どうかなぁ」
僕はあいまいに言って、首をひねる。
前のクラスでは4月に学級委員に立候補して、その流れで年の後半も委員長をやっていた。秋からは生徒会の活動も始まり、両立するのは正直大変だった記憶しかない。
「えっ、やらない選択肢とかあるんだ!? あんなにぴったりだったのに……」
小木が驚きと呆れの混じったような声で言う。
「1年のクラスじゃ、最終的にみーんな『委員長』って呼び名になってたよな」
「それなー。真面目で責任感もある、姫川のイメージにぴったりだったよ」
「そうだよなぁ」
同感、とばかりにうなずく真田。
僕は心がちくりと痛んだのに気づかないふりをしながら、「あはは……」と下手くそな笑顔を作った。
(真面目で責任感もある、かぁ……)
そう思われたくてかけた、度のついていない眼鏡のつるを指で押し上げて、考える。
(ふたりは昔の荒れていた頃の僕を知っても、同じことを言ってくれるんだろうか……?)
中学時代のことを思い出し、急に気持ちが重くなった。
「ちょっと、ごめーん。……あたしにも掲示、見せてもらっていい?」
ふと、甘い花の香りがして顔を上げた。
長い髪を丁寧に巻いた女子が、ぐい、と身を乗り出してクラス替えの表を目で追っている。
こちらも1年では同じクラスだった、立花莉愛だ。
陽キャをそのまま形にしたような、自他ともに認めるギャル。困ったことと言えば、うちの学校の緩い服装規定すらぶっちぎった派手なネイルをしているくらいで、基本的には明るくて気さくな女の子だ。
彼女と一緒のクラスになるなら、大歓迎だった。
嫌なのは元・同じクラスの――いわゆる一軍の男子。
立花は長いネイルを口許に当て、甲高い声をあげた。
「やっばー、あたし1組じゃん! 姫委員長は何組?」
「えっと、僕らみんな1組で……」
「え、奇跡だね!? 確率えぐくない?」
「だね」
「あー、俺も同じクラスっぽいわ」
背後から聞こえた、低めのよく通る声。
嫌な予感がしておそるおそる顔を上げると、そこには心の中で同じクラスになりたくないと願っていた一軍男子のひとり――日枝奏汰の姿があった。
(いや、祈った意味よ……)
神様……。
あなたって、お賽銭がないとお願いを聞いてくれないタイプなんでしょうか?
ていうか、これってクラス替えの意味ありますか???
「立花と……委員長も一緒か。よろしく」
こっちを見下ろしながら、皮肉っぽく冷ややかに笑う日枝。(そう、こいつはこういう奴)
僕はこれまでの生涯で最も小さな声で「……よろしく」と呟くと、小木と真田を連れて歩き出した。
同じクラスで、ひとつ前の出席番号。
第一印象は体育館に並んだときの、広い背中だ。
整った顔。背が高くてぱっと目を引く容姿なのに、服装はだらしなくシャツがズボンからはみ出している。明るい髪色とチャラそうな見た目。そのわりに、体格のせいか、態度のせいなのか、どことなく威圧感があって話しかけにくい感じがする。
性格は明るくやんちゃで、物怖じしなくて、何でも器用にこなすタイプ。
クラスでも誰かとトラブっているのは見たことがないし、誰の懐にもすっと入っていってしまうような不思議な魅力がある。
同性からも異性からも人気があって、モテていて、要領のいい男……。
自然体で楽しそうに高校生活を送っている――そんな彼のことが、僕は心の底から嫌いだった。
* * * * *
校舎前に植わった桜が満開を迎えた、始業式の朝。
玄関を抜けた先にある昇降口には人だかりができていて、すでにガヤガヤとにぎやかだった。
「やったな! 2年も同じクラスじゃん、姫川っ」
僕の両肩をこれでもかと揺さぶっているのは高校1年のときのクラスメイトであり、友人でもある小木晴馬だ。僕の所属する生徒会の役員仲間でもあり、真面目ないい奴で、たまに面白い。
視界がぐらぐらするな~と思いながらも、僕は掲示スペースに貼り出された新しいクラス表に目を凝らす。
小木晴馬。姫川真紘。
2年1組の欄に書かれているふたりの名前を見つけて、僕は「よしっ」と小さくガッツポーズした。
クラス替えは楽しみな反面、不安でもあった。
友達がひとりもいなかったり、苦手な人が多かったりすれば憂鬱な気持ちが1年も続くことになるし、最悪の場合は学校に来ることすら嫌になってしまう。
(でも、気心の知れた小木が一緒なら……)
高校2年になっても、このクラスで問題なくやっていけそうな気がした。
「ラッキーだね。よかった」
「ああ! また1年間よろしくな」
「うん」
「待ってよ~、俺も入れてって!」
軽くハイタッチする僕らのあいだに入ってきたのは、友人その2の真田充之だ。小木と同じく高校1年のときのクラスメイトで、クラスでは3人で行動することも多かったいつものメンバー。
焦っていたせいか見逃していたけれど、1組の表にはしっかりと真田の名前もあった。
僕らは真田を喜んで輪の中に入れ、スクラムでも組むみたいに3人で肩を抱き合った。
ああ、なんて奇跡なんだろう。
ありがとう、神様。
ありがとう、クラス替え……!
これで同じクラスの苦手な人たちともさよならできたら、僕は一生分の感謝と祈りを捧げます。
(お願いだから、どうかあいつらとだけは同じクラスになりませんように……!)
つい手を合わせながら表を見つめる僕に、真田がふふっ、と小さく笑った。
「ねぇねぇ、姫川は次も学級委員やるの?」
「うーん……? んー、どうかなぁ」
僕はあいまいに言って、首をひねる。
前のクラスでは4月に学級委員に立候補して、その流れで年の後半も委員長をやっていた。秋からは生徒会の活動も始まり、両立するのは正直大変だった記憶しかない。
「えっ、やらない選択肢とかあるんだ!? あんなにぴったりだったのに……」
小木が驚きと呆れの混じったような声で言う。
「1年のクラスじゃ、最終的にみーんな『委員長』って呼び名になってたよな」
「それなー。真面目で責任感もある、姫川のイメージにぴったりだったよ」
「そうだよなぁ」
同感、とばかりにうなずく真田。
僕は心がちくりと痛んだのに気づかないふりをしながら、「あはは……」と下手くそな笑顔を作った。
(真面目で責任感もある、かぁ……)
そう思われたくてかけた、度のついていない眼鏡のつるを指で押し上げて、考える。
(ふたりは昔の荒れていた頃の僕を知っても、同じことを言ってくれるんだろうか……?)
中学時代のことを思い出し、急に気持ちが重くなった。
「ちょっと、ごめーん。……あたしにも掲示、見せてもらっていい?」
ふと、甘い花の香りがして顔を上げた。
長い髪を丁寧に巻いた女子が、ぐい、と身を乗り出してクラス替えの表を目で追っている。
こちらも1年では同じクラスだった、立花莉愛だ。
陽キャをそのまま形にしたような、自他ともに認めるギャル。困ったことと言えば、うちの学校の緩い服装規定すらぶっちぎった派手なネイルをしているくらいで、基本的には明るくて気さくな女の子だ。
彼女と一緒のクラスになるなら、大歓迎だった。
嫌なのは元・同じクラスの――いわゆる一軍の男子。
立花は長いネイルを口許に当て、甲高い声をあげた。
「やっばー、あたし1組じゃん! 姫委員長は何組?」
「えっと、僕らみんな1組で……」
「え、奇跡だね!? 確率えぐくない?」
「だね」
「あー、俺も同じクラスっぽいわ」
背後から聞こえた、低めのよく通る声。
嫌な予感がしておそるおそる顔を上げると、そこには心の中で同じクラスになりたくないと願っていた一軍男子のひとり――日枝奏汰の姿があった。
(いや、祈った意味よ……)
神様……。
あなたって、お賽銭がないとお願いを聞いてくれないタイプなんでしょうか?
ていうか、これってクラス替えの意味ありますか???
「立花と……委員長も一緒か。よろしく」
こっちを見下ろしながら、皮肉っぽく冷ややかに笑う日枝。(そう、こいつはこういう奴)
僕はこれまでの生涯で最も小さな声で「……よろしく」と呟くと、小木と真田を連れて歩き出した。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】人見先輩だけは占いたくない!
鳥居之イチ
BL
【登場人物】
受:新島 爽《にいじま そう》
→鮫島高等学校/高校二年生/帰宅部
身長 :168センチ
体重 :59キロ
血液型:A型
趣味 :タロット占い
攻:人見 孝仁《ひとみ たかひと》
→鮫島高等学校/高校三年生/元弓道部
身長 :180センチ
体重 :78キロ
血液型:O型
趣味 :精神統一、瞑想
———————————————
【あらすじ】
的中率95%を誇るタロット占いで、校内の注目を集める高校二年生の新島爽。ある日、占いの逆恨みで襲われた彼は、寡黙な三年生の人見孝仁に救われる。
その凛とした姿に心を奪われた爽だったが、精神統一を重んじ「心を乱されること」を嫌う人見にとって、自分は放っておけない「弟分」でしかないと告げられてしまうが……
———————————————
※この作品は他サイトでも投稿しております。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる