最強の魔術師と最悪の召喚魔

ノイ

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0章 プロローグ

01 過ち

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「どうしてなんですか……、先輩」

「どうして……か?笑っちゃうね。この世界に絶望を感じたからに決まってるじゃん」

俺の泣きそうな声に反して彼は俺に訴えかけている。彼と俺が初めて出会ったときのことを思い出す。まだ、新米だった俺と先輩だった彼。そんな彼をここまで追い込んでしまったのは他の誰でもない。この俺だ。それは、俺自身が解決しなければならない問題。
魔法使いの中でも上位に君臨する彼。これまでで俺は彼に勝った試しがない。指をパチンと鳴らすと、彼の手には一本の弓矢が現れる。彼が手にしている弓矢は魔具と呼ばれており、魔法を自分の中でより強くしてくれる武器。

「【レーヴァテイン】」

彼が魔具である弓矢を手にするのを見てから俺も天に向かって言い放つ。
そして、俺の手には一本の剣が現れる。
これも魔具ということになる。
魔具にも火、水、土、風、雷といったような種属が決まっている。
俺の種属は『雷』。それに対して彼の種属は『火』。
今の状況ではどちらが勝つか定かではないということになる。
しかし、俺にはあまり自信がない。
それは、俺が彼の相棒であり、後輩であるからだ。
これまで幾つもの事件に遭遇し、助太刀してきた。
その実力を俺は間近で見てきた。
その強さは俺が尊敬するに値するものだった。

「先輩………俺はあなたをずっと尊敬してきました」

「そうか……だが、俺は嘘に慣れてしまった」

「もう………戻ることはできないのですか?」

「あぁ……俺は自分の意思で君の敵になった。だが、自分の意思で戻ることは不可能なんだ」

「ど、どうしてなんです?先輩。どうして『あっち側』に」

「そうだな。俺の理想は『犯罪のない世界』」

「だから、、、」

今の先輩は俺と戦うことも惜しまないことだろう。
そして、俺もそろそろ決意しなければならない。
この世界はこの時間でも徐々に闇へと堕ちていく。

「先輩………。ごめんなさい」

「謝るな。俺が進んだ道だ。お前には関係ない。しかし、どちらが正義かはこの勝負にかかっている」

「分かりました。俺も自分のプライドをかけて先輩、あなたを撃ち倒します」

「あぁ……だが、俺も手加減しない。そして、この戦いがこの世界の運命を変えることだろう」

「はい。今度は謝りません。そして、ありがとうございました」

「あぁ……」

俺たちは手に持っている武具を構える。
これらの魔法が付与した武器は普通攻撃と特殊攻撃というものがある。
しかし、特殊攻撃はその名の通り、威力は強く、魔力の消費も早い。
すなわち、一か八かで最初から攻撃する人はまずいないだろう。
俺の予想通り先輩は弓矢を構えて俺に向かって放ってくる。
俺はその矢が飛んでくる方向を見極め、ギリギリのところで避けていく。
魔具の中にもたくさんの武器が存在する。
俺が使っている剣の他に先輩が使っている弓矢、あとは槍とかも存在する。
その中で俺が思うに一番効率がいいのは弓矢だと思っている。
それは、魔具というのはもともと魔力の塊みたいなものだ。
なので、矢をいくら撃っても尽きることはない。
剣も壊れれば再生も可能なのだが、そもそも剣が壊れるということ自体が少ない。

「………さすが、俺と同じ国家に承認された魔術師というだけはあるな」

「先輩こそ、さすがです。この量の矢を一気に放つなんて」

先輩が放った矢は俺が見る限り10本。
一つの弓に対して一気にこれだけの量を打てること自体ほとんとない。
俺は余裕こいてギリギリを狙い、避けているわけではない。
そもそも先輩は本当に俺を殺そうと矢を撃ってきている感じはしない。

「先輩……本気じゃないんですか?」

「いや、本気だよ」

「じゃあ、如何して当てようとしないんですか?」

「ハハハ。これからだよ。これから」

「え……」

すると、俺には全身に違和感のようなものを感じる。
それは、感じたこともないものだった。
しかし、その正体に俺は気づくことは出来なかった。
先輩が何をしてくるのか俺には理解すら出来なかった。
これまで色々な事件を解決してきたというのに。
そこから徐々に先輩の矢は俺に殺意を持ったように飛んでくるようになった。
そして、徐々にスピードが速くなってきたことにも気がつく。
最初は飛び跳ねたりで避けていた俺も今では手に持った剣で矢を避けるまでになっている。
それも気づかないうちにスピードが上がってくる。
そこで違和感の正体に気がつく。
先輩はこの状況を狙っていたのに違いない。

「先輩っ!」

「今さら気がついたのかい?もう遅いよ」

「なんだと……」

この会話の最中でも先輩の矢は俺に向かって大量に放たれてくる。
そして、そのスピードは相当なものでこのままでは俺の膝が地面についてしまう。
戦争中に膝が地面につくということは負けを意味している。
俺はここで負けを認めるわけにはいかない。
この世界のためにも先輩のためにも。
俺は向かってくるたくさんの矢を手に持っている剣で弾いていく。
しかし、俺の剣ではその全てを避けきることは出来ないらしく?茲や肩などに次々とかすっていく。
とてつもなく、痛い。

「このまま……負けるというのか」

「ハハハ。君は俺には勝てないよ」

「くっそ………」

その時だった。
俺の頭の中には見知らぬ女性の声が聞こえてくる。

『おめでとうございます。ナツ・ヴァーンさん。そして、ようこそ神々の世界、ファンルーへ』
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