最強の魔術師と最悪の召喚魔

ノイ

文字の大きさ
3 / 21
1章 学園1

03 前に進むきっかけ

しおりを挟む
「ハァ、ハァ、ハァ………夢か」

俺は声を荒げながら目を覚ます。
あの事件からもうすでに3年という年月が経っているが今でもたまに見ることがある。
汗をかいた俺は上半身を起こし、シャワーを浴びるためにベッドから出ようとする。
すると、俺の部屋のドアが勢いよく開かれ、女性が中へ入ってくる。
赤髪、赤目の美少女。
彼女は俺の従姉妹でありながら、俺の師匠である。そして、育ての親。
絶望の中の俺を救ってくれた数少ない身内の一人だ。

「ナツくん。おはよう」

彼女の名前はリリ・ガロット。
俺は「おはようございます」と答えるとリリさんはニコッと笑う。
その笑顔はまさしく、天使のよう。
しかし、俺にはリリさんが何を考えているのか読み取ることができない。

「ご飯だから、着替えて下りてきて」

「はい。分かりました。すぐ、行きます」

俺がそう答えるとリリさんはすぐに俺の部屋から、出て行く。
タンスから下着、ズボン、上着を取り出すと、リリさんが待っているということを考え、素早く着替えた。
着替え終えるとすぐに居間へと下りていった。
今に近づくたびに朝食であろう匂いが漂ってくる。

腹が減ってきた。

居間に入るためのドアを開き、俺は中へ入る。
目の前にはいつも通り、美味しそうな朝食が並んでいる。
俺はテーブルの椅子に座り、「いただきます」とリリさんに声をかける。
「はい、どうぞ」とリリさんからの声を聞くと俺は朝食を食べ始める。
パンにジャムを塗りながら食べているとリリさんが奇妙なことを俺に聞いてきた。

「ナツくん………」

「何ですか?」

「ナツくんはまだ、魔術師に興味ある?」

「……すいません。今日ちょうど思い出してしまって」

「そう………あの事件のときのこと?」

「はい………ごめんなさい」

「いや、いいよ……それよりどうして、謝るの?」

「いや………なんとなく」

最近の俺はこの生活に満足を覚え始め、あの事件を思い出す日も少なくなりつつあった。
しかし、今日は久しぶりにその夢を見た。
だから、少し調子が悪かったのかもしれない。
俺は朝食を食べ終えると席を立ち上がる。

「それでは、俺は………部屋に戻ります」

「……ちょっと待って」

「……何ですか?」

「まぁ、いいから座って」

「はぁ……分かりました」

俺は居間へと行き、ソファーに座る。
リリさんも俺と一緒に居間へ行く。
その瞬間、リリさんからは緊張感が漂ってくる。
ただ事ではないように思える。

「リリさん……それで、何でしょうか?」

「うん、また聞くけどさ」

「はい……」

「魔術師にまだ興味ある?」

「……どうしてそんなことを聞くんですか?」

「うん……少しだけ、お願い聞いて欲しいんだけど」

俺とリリさんが一緒に暮らし始めてからもう3年になる。
リリさんにはとても感謝をしている。
しかし、その恩返しがまだ出来ていない。
そんなリリさんが俺にお願い事なんて初めてのことだ。
断る理由はない。

「………俺に出来ることならいいですよ」

「じゃあ、ヴァレッヂ学園に通ってくんない?」

「え………」

ヴアレッヂ学園。
それは、この辺りで有名な魔術師になるための育成学園である。

「ナツくんの書類は学園側に送っといたから」

「………俺の意見は最初っから無視ですか?」

「一応聞いたじゃない」

「そうですけど…俺が断るとか考えないんですか?」

「大丈夫よ。断らないと思っていたもの」

「はぁ……何でですか?」

「だって、夢に見るくらい未練タラタラじゃない」

「そ、それは………」

俺はリリさんに言い返そうとした。
しかし、言葉が出て行かない。
リリさんに言われなくても一番俺が分かっている。
魔術師になることは昔から俺の憧れだった。
一つのトラウマで諦めるほど俺は優秀ではない。

「でも……俺に学ぶことなんてないんですが」

「そうね。まぁ、ここにいてもなんだし、気分転換をさせてやろうっていう親心よ」

「そうですか………でも、俺は魔法は使えても召喚魔法は使えませんよ?」

「わ、わかっているわよ。その辺は大丈夫」

俺はルシフェルをこの世界へ招き入れたことにより、ゲートを開く権限を失った。
そのため、俺は召喚魔法を使えなくなった。
魔法を使うのは今まで通り健在だが。
リリさんは俺の目の前にあるテーブルに一枚のパンフレットを置く。
そのパンフレットはヴァレッヂ学園のそれだった。
1ページを開くとリリさんはある部分を指差す。

「ここよ」

「ここって………一般魔法学科ですか?」

「うん。ナツくんにはピッタリだと思わない?」

「それは………そうですけど」

魔法教育は進展し、昔は1億分の1の確率で成功するとされていた召喚魔法さえも今では失敗することがほとんどなくなりつつあった。
そして、このヴァレッヂ学園には二つの学科がある。
専門的に召喚魔法について学ぶ、特別魔法学科。
それと、一般魔法学科だ。
一般魔法学科は召喚魔法については一切学ばない。
そのせいか、世間では白い目を向けられており、差別化が進んでいると聞いたことがある。
魔法しか学ばないというところが俺にピッタリだと言われればその通りなのだが。

「でも………」

「ん?何でもお願いを聞くって言ってなかったっけ?」

「そ、それは………」

さっき言った言葉をもうすでに後悔していた。
しかし、言ってしまったものはどうしようもない。
リリさんはテコでも動かないような頑固な人だから。

こうして俺はもう二度と関わることのないであろうと思っていた魔法にまた、身を投じることになった。


ーーー過去に忘れてきた時間が今、動き出そうとしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

処理中です...