最強の魔術師と最悪の召喚魔

ノイ

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1章 学園1

09 勝負

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『10分経過しました。これより、仮想空間へ移動します』

この部屋にシステム音が流れた。仮想空間というのは訓練をするためだけに設置された空間だ。他の部屋も同じだが、この部屋には大きくそして、難易度が高い魔法陣が床一面に描かれている。それこそが仮想空間への入り口へとなるのだ。しかし、今現在の魔法には魔法陣を使用しない。それは、難しくスピードとの勝負だからだ。だが、威力は現代魔法よりも遥か高い。

そのシステム音が聞こえなくなるとその魔法陣が光りだした。そして、一瞬のうちにさっきの何もない真っ白い部屋とは別の場所にいた。
こここそが仮想空間と呼ばれている場所だ。俺たちがさっきいた世界と同じようで違う場所。それがここ。

『では、30分経過致しましたら強制的に転移します』

ここの状況はモニタールームのモニターに全て映し出される。今も見ているはずだ。

『では、はじめっ!』

システン音は勢いよくそう合図する。それが戦闘の合図だ。まず、先手を打ったのはリズさんだった。彼女の武器は予想通り刀だった。

「フライっ!」

彼女は空を飛んだ。青くて透き通った空を。彼女の所有している魔具はフライ。これは、全生徒に支給されているもの。当然、この勝負に参加をしている俺たちも同様に同じものを持っている。
魔法勝負は地上の相手よりも空での戦闘の方が多い。それは、地上よりも空中の方が逃げやすいからだと言われている。

「フライ……」

続けてリンが空に飛び立っていく。

「フ、フライです」

安定して飛んでいるリンやリズさんとは違い、レーナはセンスがなかった。飛ぶのが不安定すぎる。この魔具はサポート機能が付いているだけで飛ぶのは自分の魔力だ。魔力のコントロールが苦手だからだろう。

「レーナ、すぐに終わるから待ってろ」

「わ、分かりました」

「なめられたものね。フライすら使わないとは」

俺はレーナに指示を出した。その指示を聞いてリズさんはお怒りのようだ。しかし、気にしない。というか、気にしてなんかしていられない。

俺は呪文を唱える。

「自動魔法陣 第一の陣 『ファルクス』」

魔法陣にも種類がある。俺が使ったのはあの部屋にあったのとは少し違う。自動魔法陣。それは、描く魔法陣よりも遥かに難しい。威力的には手動で描く方が高いのだが、戦闘など時間勝負の時は友好的な魔法陣。

俺の呪文が整うと床一面に魔法陣が描かれる。その範囲は信じられないほど広いもの。地上での戦闘は不利だ。しかし、魔力が尽きれば飛ぶことが出来なくなる。そう考えるとまず最初に地上を使えなくした方が有利だと俺は考えた。
まぁ、俺たちの魔力が先に尽きれば意味がないんだけど。

「フライ」

俺は魔法陣が発動する少し前に飛ぶ。そうしないと俺自身、自分の張った魔法陣に飲み込まれてしまうから。俺が難易度の高い魔法陣を張ったことにリズさんは驚いていた。リンはいつも通りだったけれど。

「リズさん。地上には降りないほうが賢明ですよ」

「わ、分かってるわよ」

「レーナ。大丈夫か?」

レーナはまだ、不安定なまま飛んでいる。本当にこのままで戦闘に参加できるか不思議なのだが。

「リ、リンさん。がんばりましょう」

「うん。頑張ろ。あの人は強敵だから」

「え………それってどう意味ーー」

「来るっ」

まず最初に仕掛けたのはレーナ。お得意の爆発魔法でぶっ放した。まぁ、コントロールがないから当たりはしないんだけど。脅しにはなったと思う。

「リ、リンさん。あいつ……爆発魔法を使いますよ」

「そのようね。だけど、ここで攻撃を仕掛けて行ったら相手の思うツボよ。様子を見るわよ」

「は、はい」

俺の予想通りリンは俺たちとの距離を遠ざけ始めた。このままではすぐにレーナが魔力のコントロールが苦手なのだと見抜かれてしまうことだろう。もしかしたら、もう見抜かれてるかもだけど。俺は考えた結果、

「レーナ。俺も前に出ることにする」

「はい。わ、分かりました」

当初の予定では俺は逃げ回り、追ってきたところを撃破とかいうシナリオを描いていた。しかし、それでは通用しないことだろう。リンと正面からやりあったらレーナは間違いなく一瞬で落とされてしまうことだろう。それぐらいの実力がリンにあることを俺は知っている。

「【斬火】」

火によって出来た鋭い攻撃が俺たちに向かって飛んでくる。そして、俺たちはここでもやっぱりギリギリのところで避ける。

「俺たちも反撃しなくちゃな」

「は、はい」

「レーナは撃てるだけあいつらに爆発魔法をぶっ放せ」

「本当にいいんですか?今の私では当てることも難しいかと……」

「あぁ……当てなくてもいい。これだけの魔力を持っているとアピールできれば」

「わ、分かりました。でも、ナツくんは?」

「俺は……リンと一対一でやり合ってみる」

「勝算はあるんですか?」

「……さぁーな。でも、レーナじゃ絶対と言ってもいいほど勝つことが出来ない。俺がやるしかないだろ?」

「……すいません」

「いいよ。レーナにはレーナに出来ることがある。それをやってくれ」

「は、はい」

俺たちは攻撃を一旦止めて、空めがけて上昇していく。そして、上にいたリンとリズさんと同じ目線に立つ。レーナはゆっくりと上ってくる。始めの時よりは安定してきているように感じる。

「レーナ、頼むっ!」

「は、はいっ!【ファクトス】」

レーナの爆発魔法が発動する。それはリンとリズさんに向かって飛んでいく。明らかに最初より命中率が上がっている。レーナは爆発魔法を撃ち続けた。魔力の多さには俺だけではなく、ここにいる全員が驚きだった。そして、リンがリズさんに向かって命令する。

「リズさん。あなたはレーナをお願いします」

「しかし……本当にいいのですか?」

「はい。私はあの人と決着をつけなければなりません。今後のためにも、私はあの人に勝たなければならないのです」

「わ、分かりました。行動します」

リンからの緊張感が伝わってきたのかリズさんは反論することなくレーナに向かって飛んでいく。リンは俺と同じ目線まで降りてきた。

「兄さま……どうして、魔術師をお辞めになったのですか?」

「……リン。ごめんな」

「あ、謝っても私には何もわかりません。理由を説明してください」

「兄さまの突拍子も無い行動を読むのは……もう、うんざりなのです」

あまり表情を見せないリンが泣きそうになっている。俺はそれが申し訳なさそうで……無意識のうちに、

「な、泣くなって。わ、分かったって。お前が俺に勝つことができたら教えてやるよ」

「ほ、本当ですかっ!」

いきなり大きな声を出す。そして、リンの目は初めて見たほどにキラキラと輝いていた。人は好奇心や心情によって強さも異なってくる。今のリンに手を抜いたら負けが待っているだろう。

「あ、あぁ……男は嘘をつかない。兄としてもな」

「じゃあ、お相手お願いいたします。兄さま」

「分かったよ。でも、簡単に勝てると思うなよ。俺も手は抜かないしさ」

「分かってます。私にはお兄さまの全てを知っていますから」

俺とリンの一対一の勝負が嫌でも始まる時間しかなかった。
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