【完結】クローゼットの向こう側〜パートタイムで聖女職します〜

里見知美

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第1章:東の魔の森編

第25話:Monday Kitchen 〜月曜日の食卓〜

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 月曜日。

 昨晩、ミヤコは結局酒を買いに行き、結果として俊則に断りを入れた。俊則の辛そうな顔を見るのは心が痛んだが、仕方がない。これから先「友達」に戻れるものならありがたいが、それはすでにミヤコの手を離れたことなので時間に任せるしかないだろう。

 鈴木君は本当にいい奴だから、素敵な女性を見つけてくれるといい。そんなことを思いながら、心機一転して今朝ミヤコはクルトの店の朝食の準備をしていた。

「朝食はセットメニューを作ろうと思うんです。」

 朝食には腹持ちのいい力のつく食事を、とミヤコはクルトに掲示した。

 セットメニューA:ハクラ握りと味噌汁 卵焼きとフライギルの香草焼き
 セットメニューB:ロールパンとトマトスープ スクランブルエッグとベーコン

 セットAは和食風にしてみた。ハクラは白米のようなもので、こちらの主食らしい。茹でて食べるのが通常というが、蒸し炊きをすると粘りが出て白米のような食感があったので握り飯にすることにした。ゴマ塩のみだが海苔を巻いた。梅干しが欲しい。ししゃもの代わりにフライギルと言う魔物の小魚を使う。羽虫のように飛んでいるというから魚と呼ぶのはおかしいのではと思ったが、身は淡白な魚だった。これは早朝群れで泳ぐ(飛ぶ?)ので大量に手に入ると言うから朝ごはんに丁度いい。カルシウムは大切。本当は大根おろしと垂らし醤油で食べたいところだが、大根がないので香草焼きにした。

 味噌はコモから作った芋味噌もどきがあったのでスープにしてネギを入れた。ちなみにネギはミヤコの庭から取ってきたものだ。昨日の大騒動でたくさん間引いたものだった。ミヤコ一人では使いきれないのでよかった。

 卵はチックハバルと言う鳥の卵。ダチョウの卵並みの大きさで鶏の5倍くらいある。クルトは毎朝これを店で出していたらしいので、そのまま継続することにした。栄養価は高いし、一つの卵から作れる量も多いので、昼食用にオムライスや親子丼などもいけるかも知れない。

 セットメニューのBは、洋食風。ロールパンはミヤコの家で作ったもの。強力粉とイーストと卵、バターで簡単に作れるので、昨晩のうちにタネを作り置きをして形を整えておいた。あとは焼くだけだ。

 トマトは畑で採れたものを利用。少々形が悪くとも完熟したものを使うと甘いし、刻みパセリを乗せると彩りがよい。ベーコンの代わりにワイルドボーリアの肉を使う。乾燥肉としてクルトさんの食物庫にあるし、討伐隊がよく持ってくる食材らしい。ジャーキーにもダシにも使える豚肉のような食材なので、使い道は広い。

 それでは栄養士、真木村都の腕を試してみましょうか。


 *****


「ハルクルト隊長!これは本当にハクラですか!この黒いぶつぶつは不思議な食感だ!」
「隊長!このロールパンとは?見たこともない食材ですが、大丈夫ですか?」
「クルトさん、これはなんだ!?ワイルドボーリア?体力がおかしなことになってるぞ!」
「おい、このトマトスープ!魔力増幅?信じられない!」

 昼食に訪れた人たちは、うおお!とか、スワッ!?とか、ふおお!と鼻息も荒く口々に驚きを表現しながら、完食していく。食後に出すペパーミントティも忘れない。

「大好評ですね。クルトさん」
「……うん。やはり付与効果がかなり出てるみたいだな」

 食堂に入る前に転移ポイントから来た者たちは、まずダンジョン・トライアングルの変貌に大騒ぎになった。魔性植物の群れに襲われたのかと驚き構え、魔法をぶっ放し大剣を振るいあげた戦士も何人かいたのだ。クルトは転移ポイントで客が来る度に説明する羽目になり、何度も行ったり来たりをした挙句、立札を立て注意を促さなければならなかったほどだ。

 だが、落ち着いて見れば結界内の空気は浄化されており爽やかな香りが漂っているばかりか、本人たちの体も軽くなり目もすっきりしていることに気づき「ほう」と深呼吸をしながら散歩を始めるのだった。

 クルトは、ミヤコはひとまず厨房に入って姿を見せないことを提案した。そうすることで余計な詮索や危険を回避するためだ。トライアングル内の様子が激変し、女性が食堂に入るとなれば興奮して奴らがどんな行動に出るかわからない。

 先日のアッシュのような態度を取る者も出てこないとは限らない。クルト曰く、討伐隊の隊員や戦士は基本いいやつばかりだが、気性が荒く脳筋が多い。ダンジョン・トライアングルには女性が極端に少ない。女性の討伐隊は滅多におらず、女戦士たちは基本王都内や自警団として街を守る立場にあるからだ。

 それと同時にクルトは国王と聖女の目を気にしていた。ここの状況が王都に伝わるのは時間の問題だ。ここに植えてある植物はこの国にはないものばかりで、ミヤコの存在は必ず彼らの目につく。不必要にミヤコの存在を示すのは得策ではない。

 ミヤコがここで働くのは、月・水・金の三日間。

 クルトはミヤコの調理法を見ながら自分でもできるようにメモを取っていく。最初の週は同じメニューで進めることにしたが、火・木・土曜日のメニューは違う物にしようとミヤコが言って、別のメニューを考えるとも言った。同じものを毎日食べるのはすぐに飽きるだろうし、栄養も偏るというのだ。

 この3年、ほとんど同じものだけを作っていたクルトは常連の戦士たちを思い出し、「あいつらは気にしないとは思うけど」と口添えたが、クルト自身ミヤコの美味しいご飯は食べたいので、反論はしなかった。

 朝食のセットは好評のうちに終わり、人の出入りがないうちにとミヤコはさっと食堂内を掃除した。ペパーミントエキス入りの消臭スプレーと除菌剤で篭った臭いをとり、窓も開けた。さあっと風に乗って外の植物の芳香が店内に入って、それとともに精霊たちもふわふわと飛んでミヤコに挨拶をする。

「おはよう、精霊さん」

 ふふっと笑い、ミヤコは戯れる精霊に挨拶をして鼻歌を歌う。栄養士になって一番嬉しいことは自分の作ったものを「美味しい」と言って食べてもらえること。厨房に入っていても聞こえてくる感動の声と、戻ってきた空っぽの食器。

 ミヤコは大満足だった。

 そんなミヤコの鼻歌を聞いてふっと微笑みクルトは自分も口ずさんだが、ハッとして口をつぐんだ。静かにそのメロディを口ずさんでいるのを眉を顰めてじっと見つめるクルトに、ミヤコは気がつかなかった。


 *****


 昼食には腹持ちのいい丼物を、とミヤコは言った。朝食で作ったハクラの上に、違うタイプの素材を乗せるだけの簡単なもの。今日のメニューは以下の二つ。

 チックハバルの照り焼き丼とネギの味噌汁
 ワイルドボーリアのカツ丼と卵入りのオニオンスープ

 チックハバルの若鶏はジューシーで甘味がある。先週討伐隊が持ってきてくれたものがあるというので、照り焼きのタレにつけてさっと火を通し、スピナという玉ねぎに似た野菜を炒めたところにだし汁と共に溶き卵を入れ絡めたソースをハクラの上に乗せた照り焼きにかける。そこへネギのみじん切りを散らせば完成だ。

 ワイルドボーリアは硬い肉なので、マロッカというトナカイに似た動物のミルクにつけておく。30分もするとマロッカミルクを吸い込んだワイルドボーリアの肉はふんわりと柔らかくなるのだ。

 ふっくらした肉に衣をまぶし油で揚げるとボーリアカツが出来上がる。

 手作りのトマトペースト、醤油、ガーリックを混ぜるとトロリとしたとんかつソースが出来上がり、ワイルドボーリアのカツ丼の出来上がりだ。こちらにもネギをふんだんに乗せる。サクサクした衣とマロッカミルクのカツは濃厚な肉汁がしみ出して歯ごたえも腹持ちも良い。

 クルトのランチ用に作ると、バクバクとあっという間に食べ終えてしまったから、気に入ったのだろう。
 売れ行き商品になりそうだ。ミヤコ自身も食べてみて、ちょっと不思議な味だったが美味しかったと思う。

 食後にはアロエベラのゼリーを入れたマロッカミルクソーダを出すことにした。

 ソーダはクルトが作った回復薬を風魔法で作った結界に入れ、酸素圧縮することでできる。それにマロッカミルクとアロエの葉肉を入れたものだがマロッカミルクソーダ。ミヤコ的にはさっぱりして美味しいと思うが、もう少し甘みが欲しいところ。クルトは回復薬の節約にもなる上、マロッカミルクの効能もプラスになると言って、これから毎朝飲みたいと言っていた。

「これは!すごいよ、ミヤ。君の料理はもはや錬金術のレベルだね」
「気に入ってもらえてよかったです」

 そうこうして、ランチも好評のうちに終わった。

 いつも以上に客入りが多く、クルトは「今日はもう閉めよう」と閉店にしてしまった。どうせ夜はあまり人は来ないからという。

「明日はミヤがいないからね。どんな忙しさになるのか…。僕一人でできるかすごく不安だよ」
「できるだけ下準備をしておきましょう」

 ミヤコは養護施設で作る食事量が多いため手馴れてはいたものの、クルトにしてみれば慣れないメニューと環境できっとてんてこ舞いだったのだろう。一日置きにクルト一人で切り盛りするというのも多少不安はあるが、ミヤコにも仕事がある。せめて接客でもできればよかったんだが、さすがにアッシュのような反応をされるのは怖い。いきなりバッサリ斬られるのも、魔法攻撃を受けるのもごめんだ。

「じゃあ今晩は成功を祝って乾杯しますか?」
「いいね。マロッカミルクで作った酒もあるんだけど飲んでみるかい?」
「へえ。いいですねえ。飲んでみたいです」

 クルトは秘蔵のボトルを食物庫から持ち出してカップを傾けた。





==========

読んでいただきありがとうございました。
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