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第3章:聖地ウスクヴェサール編
第61話:西獄谷の湖
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アイザックはミヤコからもらった桃の酎ハイの効果に目を白黒とさせていた。
「な、なんて効き目だ、これは!」
ぶるりと体を震わせて、全快になった魔力と体力を実感する。
「おっそろしいもん、持ってたんだな嬢ちゃん…これも異界からの代物か…っとそんなことに感動してる場合じゃなかった」
我に戻ったアイザックは、精霊達を睨み付ける。
「おい!お前らがどう思おうと俺は嬢ちゃんを守るって決めてんだ。邪魔すんなよ!」
精霊達はキャーキャーと文句を言う。自分たちは『ミヤコに頼まれて、お前を助けてやったんだ』と言っているらしい。
「ハン。で?水の大精霊を救えだって?そりゃ嬢ちゃんを助けた後だ」
ミヤコが戦っているであろう方に走り出すアイザックだったが、その時ミヤコの澄んだ声が森に響いた。
「洗 礼!!」
その瞬間、辺りが真っ白に染まり、アイザックの体に白い光の刃が突き刺さった。
「ぐぁっ!?」
視界を光に奪われ、耳がキーンとなる。思わず体を丸め、防御体制になるが光の刃は容赦なく周囲を焼き付けていく。体の芯を焦がされたように、震えが走る。脂汗が背中を伝い、肺が焼け付くような痛みに悲鳴をあげた。体ごと消滅するかと思うほどの光を浴びて吹き飛んだアイザックだったが、精霊達が盾になりアイザックを守りきった。
凍るほどの冷たい水の中に突き落とされたような、痺れる感覚が身体中を巡る。はっはっ、と短く息を継ぎ、頭を左右に振るアイザック。
(な、なんだ今のは?)
気がつけば、精霊達がキューキューとアイザックを心配そうに見守っている。
「た、助かった。お前達守ってくれたのか…今の光はなんだ?」
『キャー…』
「妖精王を浄化した…?」
瘴気化した妖精王を浄化したのは確かにミヤコの言霊だった。妖精王の力の元は純粋な光。聖なる力。それは陰と陽を備え持つ人間には純粋すぎて肉体も精神も耐えられたものではないという。陰を強く持つ人間は魂を焼かれ、存在そのものを打ち消されてしまうし、そうでないものも、その衝撃はかなり強い。
「危険ってのは、こういうことか…」
アイザックのように神官の血を引き、聖の魔力を持つ者ですら、精霊の保護がなければ今この地点で意識があるかも怪しい。いや、生きていたかどうかもわからないほどだ。いかにミヤコが精霊王の孫といえど、あれを至近距離でまともに受けて、無事であるかはわからない。
ましてやミヤコは生身の人間なのだ。
アイザックは顔を上げ駆け出そうとして、はっと固まった。
目の前に広がるのはもはや森ではなく。
ざわざわと成長を続ける薬草の群れ。
大きなクレーターに流れ込む川の水が精霊によって浄化され、朝日を浴びて輝いている。
その先に浮かぶ小さな赤。
ハルクルトの髪と同じ色の炎鼠のショールと、そこから水に押され離れていく小さなバックパック。半分沈みかけた小さな体はボロボロになり、意識はない。
「嬢ちゃんっ!」
アイザックは思うより早く川に飛び込み、ミヤコに向かって泳いだ。
精霊たちが半分石化したミヤコの体を支えているが、クレーターに流れ込む水は勢いを増して中心に向かって渦を巻いていく。
「引き込まれる!」
アイザックは必死になってミヤコの体を抱きかかえるが、水圧に対抗しきれず岸が遠ざかる。
息を大きく吸い込み息を止め、水中に備えるが、突然目の前に現れた大きな水で出来た手に掴まれ、水中に引きずり込まれてしまう。
(水魔⁉︎)
アイザックは必死にミヤコを守りながら足掻くが、水中となれば部が悪く大剣すら振れない。
(息が続かねえっ!)
ゴボっと空気が漏れアイザックは、ミヤコの体を取り逃がしてしまう。
(しまった…!嬢ちゃん…!)
ミヤコの体がそのまま水泡に包まれ深く沈んでいくのを、アイザックは手を伸ばしながらも薄れ行く意識の中で見つめて、視界は暗転した。
*****
西獄谷の様子は一変し、薄暗く生い茂っていた木々は薙ぎ倒され、差し込んだ朝日があたりをやわらかく照らしている。精霊たちが残したミヤコの歌声がわずかに、かすかに残っているような気がして、クルトは囁く風に耳を傾けた。
「ミヤ…ミヤ、どこだ?」
締め付けられる胸に拳を当ててぎゅっと目を瞑り、気配を探る。
わずかな動きでもいい、どうか。
暴力的に破壊された山や薙ぎ倒された木々が、クルトの血を凍らせる。目を覚ました時には、既に谷は跡形もなく、地図上では沼地と記されていた場所には大きな湖ができていた。
山から流れ出る鉱泉が湖を満たしていく。精霊たちがキラキラと水面で踊る。泉の中心にはこんもりとできた山があるが、それすらもミントで覆われている。ミヤコが持ち込んだものに違いない。薬草の成長は未だに止まっていない。まるで傷ついた大地を癒していくかのように静かに覆い尽くしていく。
瘴気はもう完全に消え失せて、谷には柔らかな朝日が差し込んでいた。
「瘴気が消えた…。いったい何が起こったんだ…」
辺りを見渡しながら、湖に沿って足を踏み入れる。土肌はすでにミントや他の薬草や雑草に埋もれ、そこで何があったのかさえ隠してしまう。ミヤコの足跡もマロッカの足跡も、邪悪な何かも全て飲み込んでしまった。
ルブラート教のアジトがあるとモンドが言っていた。
まさか、奴らにさらわれたのでは。
そう考えて、クルトは頭を振った。
「この惨状で人が生きているようには思えない。ルブラート教の者がたとえここに潜んで居たとしても…」
そう言って、グッと息がつまる。
何 人 も 生 き て い る よ う に は 思 え な い。
「ハルクルト隊長!」
はっと頭を上げると、先に奥地を探索に行っていたルノーが戻ってきた。
「アイザックを見つけたっス!」
クルトは風魔法を使ってルノーと先を急いだ。
果たして、見つけたアイザックはあちこちにひどい傷を作ってはいたものの、生きていた。
「アイザック!」
クルトは自分の持っていた桃の酎ハイを開けると、アイザックの口へ流し込んだ。
最初はゴフッと吐き出したアイザックだったが、ゆっくり目を開き口に当てられた完全回復薬を飲み込んだ。
みるみるアイザックの瞳に色が戻る。
ふうっと長い息を吐くとアイザックは体を起こして座り込んだ。コキコキと首を鳴らし、ぼんやりと目の前の風景を見つめる。
「……ハル、クルト、か。すまん……」
「何があったのか話せるか」
「ああ……」
アイザックはクルトたちを眠らせてから、自分が気を失うまでの出来事をすべて伝えた。
「俺自身、瘴魔にあって時間を取られて…それから光の爆発があって……嬢ちゃんがどんな状態だったのかわからん。だが、あれは妖精王の浄化の光だったんだと思う」
アイザックはうなだれて拳を握りしめた後、苦々しく言い添えた。
「湖に浮かぶ嬢ちゃんを…見た…。助けようとして、飛び込んだんだが、嬢ちゃんの半身が石化してて…それから大きな手の形をした水の塊が俺たちを飲み込んで……気がついたら、俺だけが…」
「石化……ミヤは、瘴気をまともに浴びたのか…」
まさか。そんな事があってたまるか。
ミヤが、いなくなるなんて。あり得ない。信じない。
目の前が暗くなり、魔力が溢れ出しそうになる。
『ダ イ ジョ ウ ブ』
唇を噛み締めながら話を聞いていたクルトははっとして、顔を上げた。
「……精霊?」
くすくすと笑い声が聞こえる。
周りにふわふわと飛ぶ光は精霊よりも少し大きくひらひらと飛び回る。
『チガウヨー』
『デモ、チカイー』
これは、なんだ?
精霊じゃない。もっとはっきりした形のあるもの…。
「ミヤはどこだ?どこにいる?」
「ど、どうしたんっすか、ハルクルトさん」
ルノーが訝しげにクルトを見る。
「ハルクルト、精霊が見えるのか?」
「……いや、精霊ではない、何か。アイザック、お前に見えないのか?」
アイザックが首を振る。
「妖精、か?」
「妖精!?視えるんっすか?」
『ミヤコ ボクラノ王様 タスケタ』
『ダカラ ボクラ ミヤコ タスケル』
「…っ!」
ミヤは生きてる。
震える声を押し殺しながら、クルトの瞳に生気が宿った。
「妖精が、ミヤを保護したようだ」
「マジか!」
「ハルクルトさん、妖精と会話してるんっすか!?」
『人間、水ノ王様、タスケテ』
「水の王…!わかった。ルノー!アイザック!」
クルトは新たな使命を目の前にして、ルノーとアイザックに向き直る。
「水の大精霊を救うぞ」
「アイ、アイ!聖地っスね」
アイザックは残った桃の酎ハイを飲み干して、スクッと立ち上がった。
「俺が案内する!」
*****
グレンフェールの街に残された討伐隊員とモンドの率いる戦士が、ミヤコが残した新たな森を伐採しながら進み西獄谷へと向かう。生い茂った薬草を薙ぎながらの行路は遅々として進まないが、討伐隊員たちは新鮮な空気を吸い込みながら、ミヤコたちの作戦がうまくいったことを確信していた。
「あの女、余計なことを…!」
ただ一人、苛々しく歯ぎしりをするモンドであったが、アッシュたち討伐隊員はそんなモンドを冷めた目で見張りながら口を噤み、黙々と道を作りながら考える。この森があったからこそ、街が瘴気に包まれるのを塞いだし、あの強烈な光を遮断できたのだ。それぞれが、悪態をつくモンドに憎悪の炎を燃やす。誰もがあの時の神々しいとも言える光にひれ伏した。
――あの光は過去に東の魔の森を払った力とは違うものだった。ミヤさんの歌ではない、もっと暴力的で神々しい何か。あるいは、彼女が隠し持っていた本来の力か。詳細はわからないが、あの4人だからこそこんな無茶な方法が取れたのだ。瘴気を留めたのがミヤさんなら、隊長もルノーもアイザックも大丈夫だ。きっと。
アッシュはモンドを背後から睨みつけながら、次の行動を考えた。
――だが、これがモンドの作戦に影を差したのは間違いないようだ。ルブラート教に関してか。一体この男は何を狙っているのか…。
討伐隊が西獄谷にたどり着いたのは、昼も過ぎた頃だった。
「な、なんて効き目だ、これは!」
ぶるりと体を震わせて、全快になった魔力と体力を実感する。
「おっそろしいもん、持ってたんだな嬢ちゃん…これも異界からの代物か…っとそんなことに感動してる場合じゃなかった」
我に戻ったアイザックは、精霊達を睨み付ける。
「おい!お前らがどう思おうと俺は嬢ちゃんを守るって決めてんだ。邪魔すんなよ!」
精霊達はキャーキャーと文句を言う。自分たちは『ミヤコに頼まれて、お前を助けてやったんだ』と言っているらしい。
「ハン。で?水の大精霊を救えだって?そりゃ嬢ちゃんを助けた後だ」
ミヤコが戦っているであろう方に走り出すアイザックだったが、その時ミヤコの澄んだ声が森に響いた。
「洗 礼!!」
その瞬間、辺りが真っ白に染まり、アイザックの体に白い光の刃が突き刺さった。
「ぐぁっ!?」
視界を光に奪われ、耳がキーンとなる。思わず体を丸め、防御体制になるが光の刃は容赦なく周囲を焼き付けていく。体の芯を焦がされたように、震えが走る。脂汗が背中を伝い、肺が焼け付くような痛みに悲鳴をあげた。体ごと消滅するかと思うほどの光を浴びて吹き飛んだアイザックだったが、精霊達が盾になりアイザックを守りきった。
凍るほどの冷たい水の中に突き落とされたような、痺れる感覚が身体中を巡る。はっはっ、と短く息を継ぎ、頭を左右に振るアイザック。
(な、なんだ今のは?)
気がつけば、精霊達がキューキューとアイザックを心配そうに見守っている。
「た、助かった。お前達守ってくれたのか…今の光はなんだ?」
『キャー…』
「妖精王を浄化した…?」
瘴気化した妖精王を浄化したのは確かにミヤコの言霊だった。妖精王の力の元は純粋な光。聖なる力。それは陰と陽を備え持つ人間には純粋すぎて肉体も精神も耐えられたものではないという。陰を強く持つ人間は魂を焼かれ、存在そのものを打ち消されてしまうし、そうでないものも、その衝撃はかなり強い。
「危険ってのは、こういうことか…」
アイザックのように神官の血を引き、聖の魔力を持つ者ですら、精霊の保護がなければ今この地点で意識があるかも怪しい。いや、生きていたかどうかもわからないほどだ。いかにミヤコが精霊王の孫といえど、あれを至近距離でまともに受けて、無事であるかはわからない。
ましてやミヤコは生身の人間なのだ。
アイザックは顔を上げ駆け出そうとして、はっと固まった。
目の前に広がるのはもはや森ではなく。
ざわざわと成長を続ける薬草の群れ。
大きなクレーターに流れ込む川の水が精霊によって浄化され、朝日を浴びて輝いている。
その先に浮かぶ小さな赤。
ハルクルトの髪と同じ色の炎鼠のショールと、そこから水に押され離れていく小さなバックパック。半分沈みかけた小さな体はボロボロになり、意識はない。
「嬢ちゃんっ!」
アイザックは思うより早く川に飛び込み、ミヤコに向かって泳いだ。
精霊たちが半分石化したミヤコの体を支えているが、クレーターに流れ込む水は勢いを増して中心に向かって渦を巻いていく。
「引き込まれる!」
アイザックは必死になってミヤコの体を抱きかかえるが、水圧に対抗しきれず岸が遠ざかる。
息を大きく吸い込み息を止め、水中に備えるが、突然目の前に現れた大きな水で出来た手に掴まれ、水中に引きずり込まれてしまう。
(水魔⁉︎)
アイザックは必死にミヤコを守りながら足掻くが、水中となれば部が悪く大剣すら振れない。
(息が続かねえっ!)
ゴボっと空気が漏れアイザックは、ミヤコの体を取り逃がしてしまう。
(しまった…!嬢ちゃん…!)
ミヤコの体がそのまま水泡に包まれ深く沈んでいくのを、アイザックは手を伸ばしながらも薄れ行く意識の中で見つめて、視界は暗転した。
*****
西獄谷の様子は一変し、薄暗く生い茂っていた木々は薙ぎ倒され、差し込んだ朝日があたりをやわらかく照らしている。精霊たちが残したミヤコの歌声がわずかに、かすかに残っているような気がして、クルトは囁く風に耳を傾けた。
「ミヤ…ミヤ、どこだ?」
締め付けられる胸に拳を当ててぎゅっと目を瞑り、気配を探る。
わずかな動きでもいい、どうか。
暴力的に破壊された山や薙ぎ倒された木々が、クルトの血を凍らせる。目を覚ました時には、既に谷は跡形もなく、地図上では沼地と記されていた場所には大きな湖ができていた。
山から流れ出る鉱泉が湖を満たしていく。精霊たちがキラキラと水面で踊る。泉の中心にはこんもりとできた山があるが、それすらもミントで覆われている。ミヤコが持ち込んだものに違いない。薬草の成長は未だに止まっていない。まるで傷ついた大地を癒していくかのように静かに覆い尽くしていく。
瘴気はもう完全に消え失せて、谷には柔らかな朝日が差し込んでいた。
「瘴気が消えた…。いったい何が起こったんだ…」
辺りを見渡しながら、湖に沿って足を踏み入れる。土肌はすでにミントや他の薬草や雑草に埋もれ、そこで何があったのかさえ隠してしまう。ミヤコの足跡もマロッカの足跡も、邪悪な何かも全て飲み込んでしまった。
ルブラート教のアジトがあるとモンドが言っていた。
まさか、奴らにさらわれたのでは。
そう考えて、クルトは頭を振った。
「この惨状で人が生きているようには思えない。ルブラート教の者がたとえここに潜んで居たとしても…」
そう言って、グッと息がつまる。
何 人 も 生 き て い る よ う に は 思 え な い。
「ハルクルト隊長!」
はっと頭を上げると、先に奥地を探索に行っていたルノーが戻ってきた。
「アイザックを見つけたっス!」
クルトは風魔法を使ってルノーと先を急いだ。
果たして、見つけたアイザックはあちこちにひどい傷を作ってはいたものの、生きていた。
「アイザック!」
クルトは自分の持っていた桃の酎ハイを開けると、アイザックの口へ流し込んだ。
最初はゴフッと吐き出したアイザックだったが、ゆっくり目を開き口に当てられた完全回復薬を飲み込んだ。
みるみるアイザックの瞳に色が戻る。
ふうっと長い息を吐くとアイザックは体を起こして座り込んだ。コキコキと首を鳴らし、ぼんやりと目の前の風景を見つめる。
「……ハル、クルト、か。すまん……」
「何があったのか話せるか」
「ああ……」
アイザックはクルトたちを眠らせてから、自分が気を失うまでの出来事をすべて伝えた。
「俺自身、瘴魔にあって時間を取られて…それから光の爆発があって……嬢ちゃんがどんな状態だったのかわからん。だが、あれは妖精王の浄化の光だったんだと思う」
アイザックはうなだれて拳を握りしめた後、苦々しく言い添えた。
「湖に浮かぶ嬢ちゃんを…見た…。助けようとして、飛び込んだんだが、嬢ちゃんの半身が石化してて…それから大きな手の形をした水の塊が俺たちを飲み込んで……気がついたら、俺だけが…」
「石化……ミヤは、瘴気をまともに浴びたのか…」
まさか。そんな事があってたまるか。
ミヤが、いなくなるなんて。あり得ない。信じない。
目の前が暗くなり、魔力が溢れ出しそうになる。
『ダ イ ジョ ウ ブ』
唇を噛み締めながら話を聞いていたクルトははっとして、顔を上げた。
「……精霊?」
くすくすと笑い声が聞こえる。
周りにふわふわと飛ぶ光は精霊よりも少し大きくひらひらと飛び回る。
『チガウヨー』
『デモ、チカイー』
これは、なんだ?
精霊じゃない。もっとはっきりした形のあるもの…。
「ミヤはどこだ?どこにいる?」
「ど、どうしたんっすか、ハルクルトさん」
ルノーが訝しげにクルトを見る。
「ハルクルト、精霊が見えるのか?」
「……いや、精霊ではない、何か。アイザック、お前に見えないのか?」
アイザックが首を振る。
「妖精、か?」
「妖精!?視えるんっすか?」
『ミヤコ ボクラノ王様 タスケタ』
『ダカラ ボクラ ミヤコ タスケル』
「…っ!」
ミヤは生きてる。
震える声を押し殺しながら、クルトの瞳に生気が宿った。
「妖精が、ミヤを保護したようだ」
「マジか!」
「ハルクルトさん、妖精と会話してるんっすか!?」
『人間、水ノ王様、タスケテ』
「水の王…!わかった。ルノー!アイザック!」
クルトは新たな使命を目の前にして、ルノーとアイザックに向き直る。
「水の大精霊を救うぞ」
「アイ、アイ!聖地っスね」
アイザックは残った桃の酎ハイを飲み干して、スクッと立ち上がった。
「俺が案内する!」
*****
グレンフェールの街に残された討伐隊員とモンドの率いる戦士が、ミヤコが残した新たな森を伐採しながら進み西獄谷へと向かう。生い茂った薬草を薙ぎながらの行路は遅々として進まないが、討伐隊員たちは新鮮な空気を吸い込みながら、ミヤコたちの作戦がうまくいったことを確信していた。
「あの女、余計なことを…!」
ただ一人、苛々しく歯ぎしりをするモンドであったが、アッシュたち討伐隊員はそんなモンドを冷めた目で見張りながら口を噤み、黙々と道を作りながら考える。この森があったからこそ、街が瘴気に包まれるのを塞いだし、あの強烈な光を遮断できたのだ。それぞれが、悪態をつくモンドに憎悪の炎を燃やす。誰もがあの時の神々しいとも言える光にひれ伏した。
――あの光は過去に東の魔の森を払った力とは違うものだった。ミヤさんの歌ではない、もっと暴力的で神々しい何か。あるいは、彼女が隠し持っていた本来の力か。詳細はわからないが、あの4人だからこそこんな無茶な方法が取れたのだ。瘴気を留めたのがミヤさんなら、隊長もルノーもアイザックも大丈夫だ。きっと。
アッシュはモンドを背後から睨みつけながら、次の行動を考えた。
――だが、これがモンドの作戦に影を差したのは間違いないようだ。ルブラート教に関してか。一体この男は何を狙っているのか…。
討伐隊が西獄谷にたどり着いたのは、昼も過ぎた頃だった。
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