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第4章:聖地アードグイ編
第100話:聖地アードグイ
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100話達成!
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聖地アードグイにはアーラの業火と呼ばれる火山がある。
シェリオルの水辺で浄化されず、罪人とレッテルを貼られた魂は、この業火で魂を焼かれ、無に帰す。もちろん火山には眷属のサラマンダーやワイバーンも住み着いている。
ヒポカンポスに礼を言って別れた後、ミヤコはふうと息を吐いた。アイザックに教えてもらった情報だったが、様子は少し違っていた。
ミヤコ達がたどり着いた聖地アードグイは、まるで植物の生えていない、火山地帯だった。遠目に見たときはわからなかったが、海にも溶岩が流れ込み、もうもうと水蒸気が上がっている。そのせいで海が荒れ、穢れ固まった溶岩をすくい上げるのにカリプソが苦労していたのだ。溶岩は火の精霊からできている。海に流れ出したということは、精霊達が死んでしまっているということだろうか。
『あんたたちニンゲンが、どれだけこの神聖なる海を汚したか知ってるかい?ポイポイ、ポイポイ、要らなくなったものを全てここに落としていくんだ。私がどれだけ走り回っているかなんて知りもしないだろう?』
「私たち人間が火の精霊を穢して、それが海に流れ込んでいるっていうこと?でも、どうやって?」
ミヤコは、カリプソが言った言葉を思い出していた。人間が神聖なる海を汚して、こうなったんだと怒っていたが、誰かが聖域を汚したのだろうか。この離島に来れる様な人がいるのか、という話になるわけだが。
「もともと、ここはもっと綺麗な場所だったのかな」
「水の大精霊も聖地が穢されたと言ってたからね。おそらく」
「うん、アガバの力がちゃんと働いていないのかも知れないね」
「見た感じ、サラマンダーやワイバーンも見当たらないようだし、火の精霊が穢されているということか……。とても聖地とは思えない状態だ」
大地の聖地であるソルイリスも、浄化するまではすっかり荒れ果てて、砂漠のようになっていたっけ。
ミヤコは全身から滴り落ちる汗を拭った。水の加護がなかったら、熱に包まれて体中の水分という水分が蒸発して、すでに死んでいそうだ。ガーネットはやはり連れてこなくて正解だった。今頃アイザックと一緒に、ルノーと落ち合った頃だろうか。向こうは向こうで危険はたくさんある。早めにここを清浄化して、みんなのところに戻りたい。
「大丈夫か?結界を作ろうか?」
「ううん。大丈夫。えっと、とりあえず準備してきたとおり、植物を育てて浄化を促してみようと思う。精霊たちがどこまで助けてくれるかわからないけれど…」
ミヤコは収納から、彼岸花の球根を取り出した。
「見たことのない球根だね。どんな効果を持っているんだ?」
「これはね、彼岸花とか曼珠沙華って呼ばれている花で、死者の弔いに向ける花なの。毒があるってことで最近はあまり見かけないんだけど、花が咲くとね、火花みたいで綺麗なの。だからひょっとすると火の精霊たちも好きじゃないかなと思って持ってきたんだ」
「火花か……」
ミヤコはにっこりと笑って、「アーラの業火に焼かれる魂にも供えられるしね」と付け加え、精霊の鎮魂歌を紡ぎ出す。
そうして静かに歌い出して暫く、海に流れ出ていた溶岩から火の粉がフワフワとミヤコ達に纏わり付いてきた。
「精霊か…?」
クルトがポツリと零し、手のひらを向けるが、その手に触れた火の粉はジュッと消えてしまう。水の加護のせいだろうか、とクルトは首をかしげるが、ミヤコが眉を寄せた。
「精霊の力がひどく弱々しい。生気が全然ないんだわ……。アガバがいないのかも知れない」
精霊の力が溶岩を止められないほど、弱っているのだろうか。コントロールができない状態にアガバが陥っているのかも知れない。火山を見上げるが、黒煙が吹き出し溶岩はとめどなく流れ出している。まさか水鏡の狭間の様な場所がここにもあって、堕ちてしまったわけではないよね、と一抹の不安がミヤコの頭をよぎる。火の大精霊がウスカーサや妖精王のようになっていたら。
「クルトさん、お願いがあるの。海で固まった溶岩を少し持ってきてくれませんか。泥も一緒に」
「いいけど…何をするつもり?」
「試してみたいことがあるんです」
クルトは訝しみながらも、海に潜り言われる通り冷えた溶岩を掬いミヤコの目の前に山と積んだ。
「これからゴーレムを作ります」
「ゴーレム?」
よくわからない様子のクルトだったが、ミヤコが少量の溶岩を中心にしてコネコネと泥をこねながら歌い、出来上がると、「動け」と命令をする。
小さな泥人形がじたばたと動き出した。クルトは目を丸くした。どんな魔法を使えば、こんなものができるのだ。
「よかった、できた…。チビゴーレム、仲間を増やして?」
そう言われた小さなゴーレムは、ちょこまかと動き回りながら溶岩と泥を集め次々に自分の複製を作っていく。複製のゴーレムが次のゴーレムを作り、そうこうするうちに100体ほどのゴーレムができ上がった。出来上がったゴーレムは次々海に入り、泥と溶岩を掬い這い上がり、留まることなく仲間を増やしていく。
「防壁を作るよ」
ミヤコが言うと、ゴーレムたちはミヤコに続き命令を受け、溶岩流をコントロールしながら、壁を作り、海から遠ざけ大きなプールを作った。どんどん流れてくる溶岩に向かい、ミヤコは息吹の歌を歌う。溢れそうになるプールをゴーレムたちが防ぎながら、中には溶岩に溶けてしまう仲間をも助けながら、プールの位置とサイズをコントロールしていく。
クルトが心配そうにミヤコを見るが、ミヤコは汗だくになりながらも集中して歌い上げ、溶岩のプールからサラマンダーが飛び出した。次々と生まれ出るサラマンダーに対し、ミヤコは短く言霊を投げつけた。
「浄化」
サラマンダーは燃え上りながら、プールから這い出し、砂浜を結晶化していく。自分達に向かってこれば、サラマンダーは魔獣として扱われるが、ミヤコの作り出したサラマンダーは魔獣ではなく、精霊として存在しているようだ。思わず身構えたクルトだったが、火山に這い上がっていくサラマンダーを見て肩の力を抜いた。
クルトは風魔法を使い、ミヤコと自分の体を宙に浮かせ、熱の影響を避けていく。息苦しく、魔力も急速に吸われていくが弱音を吐くわけにはいかない。ミヤコは収納から、桃のチューハイを取り出しクルトに投げた。
「魔力補給。ありがとう、クルトさん!助かります」
「こちらこそ。ミヤは大丈夫か?」
「うん。水分補給だけしておくけど」
そう言ってミヤコはイオン飲料水を取り出し、喉を潤していく。魔力回復薬はミヤコに必要ない。桃のチューハイがクルトの乾いた喉を潤し、魔力が急速に戻ってくる。ホッとして一時の冷たさに眼を細める。
「うちわでも持ってこればよかった」
『うちわ』がどういうものかわからないが、ミヤコが笑ったのでクルトも笑った。これが終わったら、うちわが何なのか聞いてみよう。美味しい食べ物か。飲み物なのかもしれない。ミヤコが言うのだから、体力回復とか魔力回復とか、兎に角きっとすごいものなのだろう。
そうこうするうちに、結晶化された砂浜は別のチビゴーレムたちが足踏みをしてドシドシと崩し、また砂へと変えていく。その様子は流れ作業で、クルトはまるで創世記のようだと、ただただ驚きの目で見つめている。
ドロドロと流れ出る溶岩のプールから生まれ出るサラマンダーと、そのサラマンダーが歩いた後から溶けていく砂浜。結晶化されたガラスの塊がゴーレムによってまた砂に戻されたが、それは浄化された砂でキラキラと白く輝く。サラマンダーたちが火山の岩肌を這い上がっていくと、そこから火の粉が飛び、それが火の精霊へと生まれ変わっていく。既に何百どころか、何千、何万体ものゴーレムが一斉に作業にあたり、まるでミニチュアの世界創造劇を見ているようだった。
ハッとクルトは気がついた。この作業は火山を浄化して、火の精霊を再生しているのだ。火山の中で何かが起こっている。火の大精霊アガバの力が穢されているため、火の精霊が生まれず、流れ出す溶岩を止められないでいるのか。
マグマが逆流していくかのように錯覚するほどのサラマンダーが火山を這い上がり、マグマのプールが小さくなっていく。それは浄化されていることを示しているのだ。大精霊アガバが目覚めつつあるのか。
その作業は夜通し続き、ミヤコの歌声は掠れ、何本目かの桃のチューハイを飲んだクルトの前に小さな精霊が現れた。
『キャーーッ?』
ほとんど機械的に結界を張り続け、ミヤコを抱きしめながらウトウトしていたクルトが甲高い声にびくりと体を揺すると、ミヤコも飛び起きた。
「あ…っ!精霊ちゃん!」
『キャーーーーッ♫』
「ヤッタァ…。クルトさん、やったよ。浄化完了!」
「すごい、ミヤ…。まるで創世記を見ているみたいだったよ」
二人はぎゅっと抱きしめ合い、ミヤコの目には思わず涙がたまっている。周りを見渡せば、ゴーレムはすべて岩へと変わり、既に動きを止めており、溶岩も海へ流れ出ていなかった。山頂にはまだ黒煙は湧き上がっているものの、サラマンダーの姿も見えない。すべて、火山の中へと帰って行ったのか。
「それじゃあ、精霊ちゃん達にお願い」
そういうとミヤコは体をクルトに預けたまま、息吹の歌を歌い、精霊の助けを請う。小さな火の精霊達が彼岸花の花を育て、花を咲かせ、周囲に広げていく。
「毒があるから、食べちゃダメだよ」
そういうミヤコの声を聞かずに食べて苦しむ精霊を、他の精霊達が処理していく。食べるなと言ってるのに、と文句を言うミヤコだったが、身をもって覚えたらしい精霊達。次第に彼岸花の数も増えていき、赤い絨毯が山肌に広がっていった。
ゴーレムの魂が抜けた体から岩だけが残り、砂浜は岩だらけになっている。その間から波に打ち付けられた貝や海藻、小さなカニなどが入り込んでいき、マグマが収まった海岸沿いに魚達が集まってくる。蒸気も収まり、空気が清浄になっていく。
ミヤコは続けて、精霊の鎮魂歌を紡いでいく。涸れかけた声で、紡がれる歌は普段よりも哀愁が漂うようだとクルトは思った。
だが、その哀愁は心地よい睡魔を呼び、クルトの体が重くなっていく。眠るわけにはいかない。寝てはいけない、と叱咤しながらクルトは頭を垂れ、暖かな暗闇の飲まれていった。
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ちびゴーレムは膝下サイズ。30cmくらいの大きさです。
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聖地アードグイにはアーラの業火と呼ばれる火山がある。
シェリオルの水辺で浄化されず、罪人とレッテルを貼られた魂は、この業火で魂を焼かれ、無に帰す。もちろん火山には眷属のサラマンダーやワイバーンも住み着いている。
ヒポカンポスに礼を言って別れた後、ミヤコはふうと息を吐いた。アイザックに教えてもらった情報だったが、様子は少し違っていた。
ミヤコ達がたどり着いた聖地アードグイは、まるで植物の生えていない、火山地帯だった。遠目に見たときはわからなかったが、海にも溶岩が流れ込み、もうもうと水蒸気が上がっている。そのせいで海が荒れ、穢れ固まった溶岩をすくい上げるのにカリプソが苦労していたのだ。溶岩は火の精霊からできている。海に流れ出したということは、精霊達が死んでしまっているということだろうか。
『あんたたちニンゲンが、どれだけこの神聖なる海を汚したか知ってるかい?ポイポイ、ポイポイ、要らなくなったものを全てここに落としていくんだ。私がどれだけ走り回っているかなんて知りもしないだろう?』
「私たち人間が火の精霊を穢して、それが海に流れ込んでいるっていうこと?でも、どうやって?」
ミヤコは、カリプソが言った言葉を思い出していた。人間が神聖なる海を汚して、こうなったんだと怒っていたが、誰かが聖域を汚したのだろうか。この離島に来れる様な人がいるのか、という話になるわけだが。
「もともと、ここはもっと綺麗な場所だったのかな」
「水の大精霊も聖地が穢されたと言ってたからね。おそらく」
「うん、アガバの力がちゃんと働いていないのかも知れないね」
「見た感じ、サラマンダーやワイバーンも見当たらないようだし、火の精霊が穢されているということか……。とても聖地とは思えない状態だ」
大地の聖地であるソルイリスも、浄化するまではすっかり荒れ果てて、砂漠のようになっていたっけ。
ミヤコは全身から滴り落ちる汗を拭った。水の加護がなかったら、熱に包まれて体中の水分という水分が蒸発して、すでに死んでいそうだ。ガーネットはやはり連れてこなくて正解だった。今頃アイザックと一緒に、ルノーと落ち合った頃だろうか。向こうは向こうで危険はたくさんある。早めにここを清浄化して、みんなのところに戻りたい。
「大丈夫か?結界を作ろうか?」
「ううん。大丈夫。えっと、とりあえず準備してきたとおり、植物を育てて浄化を促してみようと思う。精霊たちがどこまで助けてくれるかわからないけれど…」
ミヤコは収納から、彼岸花の球根を取り出した。
「見たことのない球根だね。どんな効果を持っているんだ?」
「これはね、彼岸花とか曼珠沙華って呼ばれている花で、死者の弔いに向ける花なの。毒があるってことで最近はあまり見かけないんだけど、花が咲くとね、火花みたいで綺麗なの。だからひょっとすると火の精霊たちも好きじゃないかなと思って持ってきたんだ」
「火花か……」
ミヤコはにっこりと笑って、「アーラの業火に焼かれる魂にも供えられるしね」と付け加え、精霊の鎮魂歌を紡ぎ出す。
そうして静かに歌い出して暫く、海に流れ出ていた溶岩から火の粉がフワフワとミヤコ達に纏わり付いてきた。
「精霊か…?」
クルトがポツリと零し、手のひらを向けるが、その手に触れた火の粉はジュッと消えてしまう。水の加護のせいだろうか、とクルトは首をかしげるが、ミヤコが眉を寄せた。
「精霊の力がひどく弱々しい。生気が全然ないんだわ……。アガバがいないのかも知れない」
精霊の力が溶岩を止められないほど、弱っているのだろうか。コントロールができない状態にアガバが陥っているのかも知れない。火山を見上げるが、黒煙が吹き出し溶岩はとめどなく流れ出している。まさか水鏡の狭間の様な場所がここにもあって、堕ちてしまったわけではないよね、と一抹の不安がミヤコの頭をよぎる。火の大精霊がウスカーサや妖精王のようになっていたら。
「クルトさん、お願いがあるの。海で固まった溶岩を少し持ってきてくれませんか。泥も一緒に」
「いいけど…何をするつもり?」
「試してみたいことがあるんです」
クルトは訝しみながらも、海に潜り言われる通り冷えた溶岩を掬いミヤコの目の前に山と積んだ。
「これからゴーレムを作ります」
「ゴーレム?」
よくわからない様子のクルトだったが、ミヤコが少量の溶岩を中心にしてコネコネと泥をこねながら歌い、出来上がると、「動け」と命令をする。
小さな泥人形がじたばたと動き出した。クルトは目を丸くした。どんな魔法を使えば、こんなものができるのだ。
「よかった、できた…。チビゴーレム、仲間を増やして?」
そう言われた小さなゴーレムは、ちょこまかと動き回りながら溶岩と泥を集め次々に自分の複製を作っていく。複製のゴーレムが次のゴーレムを作り、そうこうするうちに100体ほどのゴーレムができ上がった。出来上がったゴーレムは次々海に入り、泥と溶岩を掬い這い上がり、留まることなく仲間を増やしていく。
「防壁を作るよ」
ミヤコが言うと、ゴーレムたちはミヤコに続き命令を受け、溶岩流をコントロールしながら、壁を作り、海から遠ざけ大きなプールを作った。どんどん流れてくる溶岩に向かい、ミヤコは息吹の歌を歌う。溢れそうになるプールをゴーレムたちが防ぎながら、中には溶岩に溶けてしまう仲間をも助けながら、プールの位置とサイズをコントロールしていく。
クルトが心配そうにミヤコを見るが、ミヤコは汗だくになりながらも集中して歌い上げ、溶岩のプールからサラマンダーが飛び出した。次々と生まれ出るサラマンダーに対し、ミヤコは短く言霊を投げつけた。
「浄化」
サラマンダーは燃え上りながら、プールから這い出し、砂浜を結晶化していく。自分達に向かってこれば、サラマンダーは魔獣として扱われるが、ミヤコの作り出したサラマンダーは魔獣ではなく、精霊として存在しているようだ。思わず身構えたクルトだったが、火山に這い上がっていくサラマンダーを見て肩の力を抜いた。
クルトは風魔法を使い、ミヤコと自分の体を宙に浮かせ、熱の影響を避けていく。息苦しく、魔力も急速に吸われていくが弱音を吐くわけにはいかない。ミヤコは収納から、桃のチューハイを取り出しクルトに投げた。
「魔力補給。ありがとう、クルトさん!助かります」
「こちらこそ。ミヤは大丈夫か?」
「うん。水分補給だけしておくけど」
そう言ってミヤコはイオン飲料水を取り出し、喉を潤していく。魔力回復薬はミヤコに必要ない。桃のチューハイがクルトの乾いた喉を潤し、魔力が急速に戻ってくる。ホッとして一時の冷たさに眼を細める。
「うちわでも持ってこればよかった」
『うちわ』がどういうものかわからないが、ミヤコが笑ったのでクルトも笑った。これが終わったら、うちわが何なのか聞いてみよう。美味しい食べ物か。飲み物なのかもしれない。ミヤコが言うのだから、体力回復とか魔力回復とか、兎に角きっとすごいものなのだろう。
そうこうするうちに、結晶化された砂浜は別のチビゴーレムたちが足踏みをしてドシドシと崩し、また砂へと変えていく。その様子は流れ作業で、クルトはまるで創世記のようだと、ただただ驚きの目で見つめている。
ドロドロと流れ出る溶岩のプールから生まれ出るサラマンダーと、そのサラマンダーが歩いた後から溶けていく砂浜。結晶化されたガラスの塊がゴーレムによってまた砂に戻されたが、それは浄化された砂でキラキラと白く輝く。サラマンダーたちが火山の岩肌を這い上がっていくと、そこから火の粉が飛び、それが火の精霊へと生まれ変わっていく。既に何百どころか、何千、何万体ものゴーレムが一斉に作業にあたり、まるでミニチュアの世界創造劇を見ているようだった。
ハッとクルトは気がついた。この作業は火山を浄化して、火の精霊を再生しているのだ。火山の中で何かが起こっている。火の大精霊アガバの力が穢されているため、火の精霊が生まれず、流れ出す溶岩を止められないでいるのか。
マグマが逆流していくかのように錯覚するほどのサラマンダーが火山を這い上がり、マグマのプールが小さくなっていく。それは浄化されていることを示しているのだ。大精霊アガバが目覚めつつあるのか。
その作業は夜通し続き、ミヤコの歌声は掠れ、何本目かの桃のチューハイを飲んだクルトの前に小さな精霊が現れた。
『キャーーッ?』
ほとんど機械的に結界を張り続け、ミヤコを抱きしめながらウトウトしていたクルトが甲高い声にびくりと体を揺すると、ミヤコも飛び起きた。
「あ…っ!精霊ちゃん!」
『キャーーーーッ♫』
「ヤッタァ…。クルトさん、やったよ。浄化完了!」
「すごい、ミヤ…。まるで創世記を見ているみたいだったよ」
二人はぎゅっと抱きしめ合い、ミヤコの目には思わず涙がたまっている。周りを見渡せば、ゴーレムはすべて岩へと変わり、既に動きを止めており、溶岩も海へ流れ出ていなかった。山頂にはまだ黒煙は湧き上がっているものの、サラマンダーの姿も見えない。すべて、火山の中へと帰って行ったのか。
「それじゃあ、精霊ちゃん達にお願い」
そういうとミヤコは体をクルトに預けたまま、息吹の歌を歌い、精霊の助けを請う。小さな火の精霊達が彼岸花の花を育て、花を咲かせ、周囲に広げていく。
「毒があるから、食べちゃダメだよ」
そういうミヤコの声を聞かずに食べて苦しむ精霊を、他の精霊達が処理していく。食べるなと言ってるのに、と文句を言うミヤコだったが、身をもって覚えたらしい精霊達。次第に彼岸花の数も増えていき、赤い絨毯が山肌に広がっていった。
ゴーレムの魂が抜けた体から岩だけが残り、砂浜は岩だらけになっている。その間から波に打ち付けられた貝や海藻、小さなカニなどが入り込んでいき、マグマが収まった海岸沿いに魚達が集まってくる。蒸気も収まり、空気が清浄になっていく。
ミヤコは続けて、精霊の鎮魂歌を紡いでいく。涸れかけた声で、紡がれる歌は普段よりも哀愁が漂うようだとクルトは思った。
だが、その哀愁は心地よい睡魔を呼び、クルトの体が重くなっていく。眠るわけにはいかない。寝てはいけない、と叱咤しながらクルトは頭を垂れ、暖かな暗闇の飲まれていった。
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ちびゴーレムは膝下サイズ。30cmくらいの大きさです。
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