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スキル《フェチ》!
ハイベックの領地はほとんどが開拓済みになっている。人間たちの住まいと森や山脈の間は平地のまま残し、いざという時のため結界を張っているのだ。元々ハイベック領は瘴気が濃いのか、森林や山岳地帯には凶暴な魔物が数多くいる。そのため、珍しい植物や魔獣が手に入るわけだが、戦う術を持たない人間が、山岳地帯に無闇に近づいて命を落とす事件が過去に多かったため、境界線を張った。
もちろん強制的ではなく、領内にある学校や職業訓練場ではなぜ立入禁止区域があるのかはちゃんと説明しているため、常識のある人間は危険地帯に入り込んだりしない。中には金目当てで入り込む輩もいるようだが、無事帰ってきた例はない。
行方不明で家族や知人が助けを求めにきた場合、未成年者の初犯に関してはダメ元(大抵の場合はもう骨すらも見つからない)で助けに入るけど、大人が度胸試しや討伐目的で入った場合、俺は感知しないことにしている。俺も不死身じゃないし、危険を承知の上でやってるんなら、自業自得というものだ。
俺が確認できた魔獣やモンスターは、本にして図書館や学校で自由に閲覧できるようにしてあるし、調教師訓練場でも調べることができる。もし己の力を過信して未確認の上で入ったのだとすれば、死んでもしょうがない。と思うんだよね。
そう思いながら、上空を見上げると、後ろから追ってきていたはずのスカイが、俺たちを追い越して瘴気の森に向かって一直線に飛んでいった。
「うわぁあぁぁっ!?止まれぇぇぇぇぇ!」
という、王子の悲鳴が時差で俺の耳に入って来る。一瞬ぽかんと口を開けたが、がっくりと項垂れた。
「アル、飛ばすからしっかり掴まってろ!」
「ん!」
スカイはまだ若く、好奇心が旺盛だ。王子と契約して日も浅く、ワイバーンだから頭もそれほど良くない。つまり、森の方角に何か興味を惹かれるものがあって、我慢できず飛びついて行ったのに違いない。それが好物の食いもんだったり、王子以上のフェロモンの強いオスなら分からないでも無いし、まあ、ぶっちゃけ俺でもなんとかなるんだが、もしこれが上位種のドラゴンだったり、魔物だったりした場合、王子がヤバい。
この数ヶ月、管理をしていなかったせいで森で異常があっても気が付かなかった可能性もある。
俺はアキレスの腹を蹴った。
「親父様、ちゃんと代わりの管理人出してくれたんだろうな」
あの人は商売ごとには鼻が効くくせに、儲けにならない事には尽く無頓着だ。特に支払いが絡むと途端に後ろ向きになる。
「エヴァン!千里眼で見えた!ドラゴンがいる!」
「マジか!?」
千里眼って、いつの間にそんな高等スキルを手に入れた!?そういう大事なことは兄ちゃんにきっちり連絡してくれよ!
「まだ若い。緑色のドラゴンだ!怪我をしてるみたい」
手負か!まずいな。ってか、そこまでわかるのか、千里眼。俺も覚えないと。
「アル、手綱を取れ!」
「ハイッ」
アキレスの上で立ち上がろうとする俺を見て、さっと前方に移動して手綱を握る。これも手慣れたものだ。
しばらく使っていなかったスキルだが、錆びてないことを祈って魔力を練り上げた。
「《ラッソ》!」
開拓を始めた頃のフロンティア・スキルの一つ、投げ縄。
野生の動物が多かったハイベック領は、未開拓の地がたくさんあって魔獣もさることながら、モンスターも野生動物も好き勝手に領土を荒らし回っていた。それを最初は鞭を使って調教していたのが、ある日投げ縄のスキルを手に入れた。魔力でできたロープは魔力の続く限り標的に向かって伸び、捕獲する。それが空であろうと水の中であろうと邪魔になる障害物さえなければ捉えることができる優れたスキルだった。
投げ縄は見事にスカイの首を捉えて森への侵入を妨害し、俺の方へと誘導する。強い魔力を放つことで強制的に興味を断ち素面に戻すと、スカイは慌てて旋回し俺に向かって急降下してきた。
「ぬおぉぉぉおお!?」
だが急に向きを変えたせいか、それともすでにパニックになっていたせいか、王子は握っていた手綱を手放してしまい、バランスを崩して真っ逆さまに森へ落ちて行ってしまった。
「「ヤッベェ!」」
二人揃って悲鳴を上げた。
「アル、言葉遣い悪すぎ!」
「それどこじゃないでしょ!」
「それもそうだ。スカイ!《フェチ》!」
《フェチ》はいわゆる「とってこい」と命令するテイマーのスキルである。俺は投げ縄を解除して命令を出した。
つまり犬に向かって、ボールをとってこいと言ったのだ。
スカイはまたしても向きを180度変えて、今度は王子を拾い上げるために森に向かって一直線に降りていった。墜落死をする可能性とドラゴンに遭遇する可能性は五分五分。落ちて来るところを飲み込まれたらそれでおしまいだが、そこまで運が悪くないことを祈った。スカイにとっても契約者が死ねば、それなりのダメージを受ける。本能でそれをわかっているのか、スピードも先ほどの比ではなかった。
俺がそうしている間もアルヴィーナは手綱を握り、一瞬の躊躇もなく森へアキレスを走らせる。アキレスも『ガッテンだ!』とばかりにスピードを上げ王子の落ちた方向へ蹄を踊らせた。昔、厩のじいちゃんが言った「昔は空も飛んだ」というのは案外この辺から来てるのかもしれない。俺のいう事しか聞かないと思っていたアキレスだが、アルの手綱捌きにアキレスも不満はないようだった。
さすがは俺のアルヴィーナだ。
もちろん強制的ではなく、領内にある学校や職業訓練場ではなぜ立入禁止区域があるのかはちゃんと説明しているため、常識のある人間は危険地帯に入り込んだりしない。中には金目当てで入り込む輩もいるようだが、無事帰ってきた例はない。
行方不明で家族や知人が助けを求めにきた場合、未成年者の初犯に関してはダメ元(大抵の場合はもう骨すらも見つからない)で助けに入るけど、大人が度胸試しや討伐目的で入った場合、俺は感知しないことにしている。俺も不死身じゃないし、危険を承知の上でやってるんなら、自業自得というものだ。
俺が確認できた魔獣やモンスターは、本にして図書館や学校で自由に閲覧できるようにしてあるし、調教師訓練場でも調べることができる。もし己の力を過信して未確認の上で入ったのだとすれば、死んでもしょうがない。と思うんだよね。
そう思いながら、上空を見上げると、後ろから追ってきていたはずのスカイが、俺たちを追い越して瘴気の森に向かって一直線に飛んでいった。
「うわぁあぁぁっ!?止まれぇぇぇぇぇ!」
という、王子の悲鳴が時差で俺の耳に入って来る。一瞬ぽかんと口を開けたが、がっくりと項垂れた。
「アル、飛ばすからしっかり掴まってろ!」
「ん!」
スカイはまだ若く、好奇心が旺盛だ。王子と契約して日も浅く、ワイバーンだから頭もそれほど良くない。つまり、森の方角に何か興味を惹かれるものがあって、我慢できず飛びついて行ったのに違いない。それが好物の食いもんだったり、王子以上のフェロモンの強いオスなら分からないでも無いし、まあ、ぶっちゃけ俺でもなんとかなるんだが、もしこれが上位種のドラゴンだったり、魔物だったりした場合、王子がヤバい。
この数ヶ月、管理をしていなかったせいで森で異常があっても気が付かなかった可能性もある。
俺はアキレスの腹を蹴った。
「親父様、ちゃんと代わりの管理人出してくれたんだろうな」
あの人は商売ごとには鼻が効くくせに、儲けにならない事には尽く無頓着だ。特に支払いが絡むと途端に後ろ向きになる。
「エヴァン!千里眼で見えた!ドラゴンがいる!」
「マジか!?」
千里眼って、いつの間にそんな高等スキルを手に入れた!?そういう大事なことは兄ちゃんにきっちり連絡してくれよ!
「まだ若い。緑色のドラゴンだ!怪我をしてるみたい」
手負か!まずいな。ってか、そこまでわかるのか、千里眼。俺も覚えないと。
「アル、手綱を取れ!」
「ハイッ」
アキレスの上で立ち上がろうとする俺を見て、さっと前方に移動して手綱を握る。これも手慣れたものだ。
しばらく使っていなかったスキルだが、錆びてないことを祈って魔力を練り上げた。
「《ラッソ》!」
開拓を始めた頃のフロンティア・スキルの一つ、投げ縄。
野生の動物が多かったハイベック領は、未開拓の地がたくさんあって魔獣もさることながら、モンスターも野生動物も好き勝手に領土を荒らし回っていた。それを最初は鞭を使って調教していたのが、ある日投げ縄のスキルを手に入れた。魔力でできたロープは魔力の続く限り標的に向かって伸び、捕獲する。それが空であろうと水の中であろうと邪魔になる障害物さえなければ捉えることができる優れたスキルだった。
投げ縄は見事にスカイの首を捉えて森への侵入を妨害し、俺の方へと誘導する。強い魔力を放つことで強制的に興味を断ち素面に戻すと、スカイは慌てて旋回し俺に向かって急降下してきた。
「ぬおぉぉぉおお!?」
だが急に向きを変えたせいか、それともすでにパニックになっていたせいか、王子は握っていた手綱を手放してしまい、バランスを崩して真っ逆さまに森へ落ちて行ってしまった。
「「ヤッベェ!」」
二人揃って悲鳴を上げた。
「アル、言葉遣い悪すぎ!」
「それどこじゃないでしょ!」
「それもそうだ。スカイ!《フェチ》!」
《フェチ》はいわゆる「とってこい」と命令するテイマーのスキルである。俺は投げ縄を解除して命令を出した。
つまり犬に向かって、ボールをとってこいと言ったのだ。
スカイはまたしても向きを180度変えて、今度は王子を拾い上げるために森に向かって一直線に降りていった。墜落死をする可能性とドラゴンに遭遇する可能性は五分五分。落ちて来るところを飲み込まれたらそれでおしまいだが、そこまで運が悪くないことを祈った。スカイにとっても契約者が死ねば、それなりのダメージを受ける。本能でそれをわかっているのか、スピードも先ほどの比ではなかった。
俺がそうしている間もアルヴィーナは手綱を握り、一瞬の躊躇もなく森へアキレスを走らせる。アキレスも『ガッテンだ!』とばかりにスピードを上げ王子の落ちた方向へ蹄を踊らせた。昔、厩のじいちゃんが言った「昔は空も飛んだ」というのは案外この辺から来てるのかもしれない。俺のいう事しか聞かないと思っていたアキレスだが、アルの手綱捌きにアキレスも不満はないようだった。
さすがは俺のアルヴィーナだ。
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