ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美

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王宮の崩壊①

 スカイはマジで王子に傾倒している。いや、番だと信じている感じだ。自分がワイバーンだということも忘れているのか、あるいはシンファエル王子を人間んだと思っていないのか、とにかく種族を超えた愛というものを見せつけられた。

 対する侯爵令嬢セレナも、スカイの背に乗って歩き出した王子たちを見て結界の中で不穏な闇魔法を充満させては、ゴブリンベイビーやら何やら口から吐き出し、それらは結界の膜を破ろうとしては息絶えている。不毛だ。瞬間移動で薬草園に戻ってもいいのだけど、事故があって結界が弾けたり下手に王子の前で使うと「私も覚えたい!」と言い出しかねないので自足で向かっている。

 途中で現れるトレントや魔虫は見つけ次第焼却。やはり千の槍グランドスピアやアースウェイブだけでは完全消去はできなかったようで、広範囲で神の手ゴッドハンドを使わなければ安心はできない。そのためにもアルヴィーナのホーリーチェインは必要だ。王宮に残っていた生き残りの官吏や侍従、メイドや侍女もよろよろと俺たちの後に続く。さっきの俺の攻撃魔法に当たらずに済んでよかったね、君たち。一応応急処置はしたのだけど、俺としても魔力温存はしておきたい。まだまだ何があるかわからないのだ。せめて薬草畑に着くまでは。

「やっぱり聖魔法が使えると便利なんだけどなあ」

 まあ、欲を言い出せばキリがないのだけど。努力だけではどうにもならないことも世の中にはあるのだ。


◇◇◇


 無事、薬草畑に戻ると、ぎゅうぎゅうと押し詰められるほどの人に溢れていた。こんなに王宮に人がいたのかと驚くほどだったが、よく見ると商人や平民も混じっていたようで商人や厨房の仕入業者も紛れ込んでいた。

「アルヴィーナ」
「エヴァン!無事で何より」

 一番にアルヴィーナを探し、可憐にも頼もしい笑顔を見ると煤けた心も感情も浄化される様な気分になる。何を差し置いても走り寄ってくる義妹を見て、俺はほんの少しだけ優越感に浸る。なぜなら周囲から羨望の目で見つめられ、その中に嫉妬心も感じたから。

「俺の可愛いアルヴィーナ。よく頑張ったな、問題はなかったか?」
「はいっ、エヴァン。みんな無事で、怪我人はすでに薬草と治癒魔法で回復していますわ」

 わざとらしく俺のものだと強調して言うと、アルヴィーナも頬を染めて瞳を輝かせてくる。思わず抱きしめたくなるのを我慢して、おほんと喉を正し、チラリと後ろを振り返った。

「元凶はこっちの御令嬢とシンファエル殿下だ。ただ、それには俺も関係があるーーシャムロック!」

 俺が一際声をあげて緑竜を呼ぶと、どこに隠れていたのか、ばさりと風を切る音がして、薬草畑を見下ろすように崩れかけた城跡にシャムロックが降り立った。

 何人かが悲鳴をあげ、逃げ出そうと慌てふためいたが、その前に俺が声高に叫んだ。

「ここにいるのは緑竜シャムロック。私と契約を結んだ竜だ!恐るることはない!」

 王宮勤めの人たちの前だからね。一応まだ伯爵子息という仮面をつけましたよ。もちろん。

「先日、瘴気の森で出会い、森の浄化を手伝ってくれた心ある竜だ!その時命を落とすところだったシンファエル殿下の命をも救ってくれた!だが、竜の作った薬が殿下の体に思わぬ副作用を起こしたものと見える。今回の騒動はシンファエル殿下の体内に巣食った瘴気が原因と見られるが、皆も知っての通り、こちらの侯爵令嬢と関係を密にしたことから、被害が大きくなった。これに関しては、私とアルヴィーナが持てる力を使い治療することを約束する」

 治るとは約束できないけどね。それはまあ言わなくてもいいでしょ。そこまで言い切ると、逃げようとしていた人達も落ち着き、また集まってきた。アルヴィーナの横ではサリーがぱちぱちと手を叩いてニコニコしている。

 忘れていたけど、やっぱり無事だったようだ。まあ特に心配はしていなかったが。

 王子を見ると、腕を組んで偉そうにうんうん、と頷いているがわかってんのかな、こいつ。

 さてここからが正念場だ。

「だが、昨日私は国王の名により死刑を言い渡された。現在の王国内で死刑は法律により許されていないことは皆も知っていると思う」

 ざわざわと不穏な空気が起こり「ふざけるな」「てめえこそ死刑だ」と聞こえてくる。まあ当然と言えば当然だ。ここにいる騎士や魔導士たちは皆、アルヴィーナに多大な恩があるはずだからな。

「その上で、俺の罪を償うためにアルヴィーナを差し出せと言われたため、俺はハイベック伯爵家と縁切りをし平民に戻り、ここにいるアルヴィーナとともに生きていくことを決めた。つまり、アルヴィーナはシンファエル殿下との婚約を白紙に戻し、殿下にはすでに体を繋いだセレナ侯爵令嬢と婚約、婚姻することを勧める。これにより、俺とアルヴィーナは謀反ものとして国外逃亡を図るためこの国とは無関係になるが、異議のある者はいるか!」

 きゃーっと女性たちの悲鳴だか歓声だかが上がり、うおーっと男性たちの咆哮が響いた。

「異議ありー!行かないでください!エヴァン様!アルヴィーナ様!」
「あなた方が国を出るなら我らも共に行くぞ!」
「おぉー!」
「国王を引き摺り下ろせ!こんな王子では国は成り立たん!エヴァン様を王に!」

 いや、俺王様にはならないよ?森に籠るからね?

 が、その間を縫って焦った男の声も混じっていた。

「ま、待て!貴様は何を言っておる!!」

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