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魔女の代償
しおりを挟む「……わ、分かった。ただし、王族に関わる呪いは全て完全に解いてくれ!わしらがこの国から出て、外交に励んだとしても呪われたり、死なない様にできるなら、白金貨千枚を払ってやる」
「へえ。じゃあ、それは新規の契約ということになるよ?その代償は、アタシの行動の自由だ。『王族の呪いを完全に解いて、呪われず、なおかつ死なない様に』というのなら、アタシも自在に動ける様にならないと」
「……何?そんなことでいいのか」
「そんなこと?アタシにとっては重大なことだよ。聞けば三百年もここに釘付けだったらしいからね」
「ま、魔女様…」
エリザベスは青ざめてもの言いたげに顔をあげたが、魔女に睨まれて口をつぐんだ。魔女との契約に口出しはできないと悟ったが、王族の自由を認める代わりに、この国は魔女の保護を無くすということに、王たちは気がついているのだろうか。この国は諸外国に比べ政治も情報も生活水準でさえもかなりの遅れをとっている。少なくとも数十年、下手したら百年。最新の魔道具を使う帝国に入り込まれたらひとたまりもない。魔法に全く耐性のない、軍事力も無いこの国がどこまで抵抗できるのか。
しかし契約は結ばれた。この契約についても、王も王妃もエリザベスも口外することは出来ない。約束を破れば、契約は即時破棄され様々なペナルティが課せられる。
「さて、この王子に新たにかかった呪いを完全に解くということは、呪った人間に呪い返しがなされるということだ。そして、それに関係した者にも、その関係の深さによって返し具合が変わってくる。首謀者には掛けた呪いと同等の、関係者にはその罪の重さによって変わってくるが、顔を焼かれたり焼印がついたり、下手をすれば精神を壊す可能性もある。あんた達がこの呪いに関係していないのであれば、安心して良いがね」
「え、焼印…?」
「自分の息子に呪いなんぞかけるものか!馬鹿にするでないぞ!」
国王は鼻息荒く言い返したが、王妃が青ざめて震えていたのをエリザベスは見逃さなかった。まさか自分の息子に危害を加えるとは思わないが、エリザベスのことをあまりよく思っていなかった王妃は、何かしら関係をしているのでは無いだろうか。
そもそも帝国からの文書がこの国に届くことだって、今まで一度たりとも無かったことなのだ。今まで交流のなかった国から突然招待状など届くものなのか。帝国だからと受け取り国を出たものの、疑うべきだったのではないか。エリザベスはキュッと唇を噛み締めた。
魔女はニヤリと笑い、じゃ、解くよ、と腕を振り上げる。詠唱と共にさまざまな呪文が青白く円を描き、文字となりハルバートの頭上に渦巻いていく。それらの文字がどんどん黒くなり、禍々しさに満ち、ついに弾け飛んだ。窓を破り飛んでいく文字群とドアを突き抜けて王宮内に飛んでいく文字達、そしてあたりが真っ白に染まり、エリザベスは全身が熱くなるのを感じた。肌を焼く様な強烈な痛みに思わず顔を覆い、全身が震え床に転がった。
熱が引き、体が楽になったのを感じて顔を上げるが、その姿を見た王が悲鳴を上げた。
「き、き、貴様!貴様もやはり関係しておったのか!」
「え…?」
美しかったエリザベスの顔はしわくちゃな老婆になり、鉤鼻がだらしなく口元まで落ち、銀色だった髪は短いまま艶のない白髪に変わっていた。張りのあった肌は今や枯れ枝の様になり、ドレスは肩からずり落ちている。顔をあげ魔女を見ると、その姿は老婆から妖艶な美女へと変わっていた。口角を上げてエリザベスを見下ろす魔女は美しかった。
『代償は若さと美貌』
エリザベスは項垂れた。魔女との契約は口外できず、言い訳はできない。どのみち、この容姿では王太子の隣に立てるわけもなく、魔女と契約をした地点でエリザベスは老婆として生きる覚悟を決めていたのだ。それでも無慈悲で恐ろしい帝王の妃になるよりはマシだと思ったのだ。
「国王陛下、呪いなど」
そこまでエリザベスが言いかけたところで、ハルバートが目を覚ましベッドから起き上がった。一年の間にやつれて痩せこけてしまってはいたが、彼の美しいアイスブルーの瞳が真っ直ぐにエリザベスを見て、それが私怨に燃えた。
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