冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美

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浮かび上がる罪

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 村に入ると、まずは血だらけになった足の裏の傷と足首の切り傷を治療され、軟膏と薬草の湿布をされた。

「さあさ、娘達。出番だよ!」
「はいよー」

 治療が終わるのを待っていた若い女性達が数人わらわらと現れて、エリザベスを抱き抱えると洗い場へと連れていく。仕切られてはいるものの、そこは露天風呂で薬草の匂いが洗い場から漂った。

「薬草…こんなに?」
「そうだよ、ここは汚れを落とすための場所だからね。山神様の授けてくれた薬草はよく効くから、ばあちゃんの傷もきっとすぐ良くなるよ」

 女達は敷き詰められた乾かした薬草の上にそっとエリザベスを降ろし、甲斐甲斐しく毛織の服を脱がせていく。高位令嬢だったエリザベスは特段抵抗することもなくされるがままに体を委ねる。とは言え、抗うような体力も残ってはいなかったが。

 丁寧に温かい薬湯で体を拭かれ、ストンとした麻の服を着せられた。怪我をした両手首と足首に触らない様、七分袖の膝下のワンピースで、柔らかくなめされているせいか肌触りは絹の様に滑らかだ。禊が終わると今度は囲炉裏の前に連れて行かれ毛皮の敷物の上に座らされて、温かい鍋から薬膳が出された。

「さあさ、これは薬膳だからたくさんお上がり。全く碌なものを食べさせてもらっていなかったんだろう?ちゃんと栄養をつけないと体力も気力も無くなるからね。傷も治らないよ」

 この一か月ろくに食べ物らしいものを口に入れていなかったエリザベスは、空腹感すら湧き上がってこなかったが、その配慮を受け取りありがたく頂戴した。とろりとした粥に刻まれた薬草と卵の甘い味がした。

「美味しい…」

 まだ、美味しいという味を覚えていたのかと自分でも驚いた。食べ始めると体が温まり、ゆっくりとではあるが小椀いっぱいをぺろりと食べ切ってしまった。

「この様に親切にしていただいて恐縮ですわ。美味しくいただきました。ありがとうございます」

 エリザベスが頭を下げてそういうと、それを黙って見届けていた村の女たちは顔を見合わせてぷっと吹き出した。

「あらまあ、こんな丁寧な口調の罪人は初めて見たわねえ」
「おばあちゃん、これは私たちの仕事だからいいんだよ。今日はゆっくり休んで頂戴な。体力つけないと、お山には入れないからね。私たちが山神様に怒られちまうからさ」

 ああ、そうか。

 この村の人たちはこうして罪人を受け入れて、山に連れていく役目にあるのかとエリザベスは理解した。この山に踏み入れることのできる人たちなのだろう。つまり、心正しい者たちだから、麓に住まうことを山神様に受け入れられているのだ。王都に住んでいる時に見えなかったものが見えてきた。そしてこれが先住民だということに行き当たった。

 もともとこの土地に住んでいた、建国前からの住人は、セントポリオンの神様を信仰しながら生き永らえている民族だ。公爵家が何台にも渡り大切に守って生きた血筋の人々。

 エリザベスはゆっくり頷いて、微笑んだ。


+ + +


 その頃、王宮では騒ぎが大きくなっていた。エリザベスが追放されてから三日後、王太子の側近の一人と王宮侍女が一人、身体中に魔術紋を浮かばせた死体で発見されたのだ。その体は青黒く染まり、血の色も青黒かった。

 そしてそれ以降、毎日のように呪斑紋が浮かび上がるものが、一人また一人と増えていく。

 更には、王妃の胸から首筋にかけて黒い呪斑紋が浮かび上がったのだ。その呪斑紋は生きているようにうねり次第に顔にまで這い上がってきていた。

「どうして!どうして!?魔女は約束を破ったのね!私に呪いは効かないはずでしょう!?」
「き、妃よ!これは、どういうことだ!貴様、まさか我が子を殺すつもりなど…!」
「違います!違います!わたくしはただ、手紙を出しただけなのです!エ、エリザベスを…、あの女を差し出す代わりに、帝国との取引に融通をつけてほしいと言っただけなのです!」

 突然の王妃の告白に王もハルバートも目を見開き、耳を疑った。

「は、母上、まさかあなたが…!エリザベスは長年、私の婚約者だったのですよ!それをなぜ!?」
「あの子の銀の髪が、金の瞳が鬱陶しかったのよ!なんでもそつなくこなして、涼やかな顔で、わたくしを蔑む様な視線で見下ろして!生意気な年端もいかない小娘が!」
「一体いつからそんな事を考えておったのか、妃よ!わしがなんのために白金貨を千枚も支払ったのか、分かっているのか!?お前の胸には謀反の跡がくっきり残っているではないか!これでは外遊などできるはずもない!」

 そして今度は父王の発言にハルバートは目を剥いた。

「は、白金貨千枚?外遊?なんの話をしているのです?」
「あっ……、そ、それは、その…」
「魔女との契約よ!白金貨千枚払えば、国外に出ても呪われず、殺されない様にすると陛下が魔女と契約されたのよ!」

 思わずとはいえ、王妃は他言無用とされていた契約をうっかり話してしまったことにすら気が付いてはいない。

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