なんでも押し付けてくる妹について

里見知美

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第3話

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 お父様は、ブランデーのグラスを回しながら新聞から目を外し、チラリと私に目配せをする。その視線を受けて、私はわずかに口の端を上げて見せた。

「シェリルは、自分のわがままだけ聞いてもらうんじゃなくて、ちゃんとダリルのことも考えてるの?」

「やだわ、お姉さまったら。甲斐性のない男の肩を持つなんて貧乏くさいったら。でもお姉様、いまだに婚約もしていないのよねぇ。ほんと、手間がかかるのねぇ。だから、彼は可哀想なお姉さまに譲ってあげるから、お父様、お願い。シェリルのわがまま、許して?」



 欲しい男が現れたらしい。

 最近、隣国の留学生が学院にやってきたらしい。金髪碧眼のキラキラしい王子様のような男である、とみんなが噂をしていた、と妹は言う。

 私は三年生なので会う機会はないが、一学年にやってきたその少年は、既に取り巻きがいるらしく。妹は、取り巻きと同レベルなど許せなかったようだ。猫をかぶって可憐な少女を演じて、姉にいじめられているのと嘯いたらしい。

「は?なんでそんな嘘ついたのよ?」
「だってぇ、そうでもしないとこっち見てもらえないんだもん」

 いや、だからってね。

 私の学年や友人たちは、そんなことを信じたりはしないし、暇もない。ランダース家の跡取りに喧嘩を売るような真似もしない。が、留学生や、今年入ってきたばかりの新入生の中には、妹の嘘に騙される人もいるようだ。

 まあ、一年生はそのうち理解するだろうし、留学生はこの国の人でもない為、気にすることもない。もしいいとこの坊ちゃんであるならば、調べればすぐにわかるはずだし、妹の校則に反した豪華絢爛な服装とツヤッツヤな肌を見て「いじめられている」と思うのであれば、全くもって観察眼のない男である。そう言う輩は無視するに限る。

「シェリルのこと、一番可愛いって言ってくれるの。私、やっぱり結婚するならそう言ってくれる人が良いわぁ」

 と言うわけで、妹は躊躇なく婚約者ダリルを手放したのである。

 神妙な顔をしながらも、私は密かに喜んだ。


 次の日、父に呼ばれてダリルが我が家にやってきた。父からの説明を受けてシェリルとダリルの婚約はつつがなく解消された。父は二年間もよく我慢してくれた、感謝すると頭を下げた。



「ダリル、留学生の件、何かした?」
「いや。特には何も。ただ、俺の友人の伝手を使って向こうに噂を流しただけだよ。学院の二年生に婚約してない自称美人がいるって。ついでにそれが、シェリルって名前だとも言ったかな」
「美人だったら誰でもいいって人?」
「いや、自称美人がどれほどのものか見てみたいっていう、性格の悪いナルシストなんだってさ」
「性格の悪い、ナルシスト」

 どちらが美しいか勝負しろ!と喧嘩でも売るつもりかしら。

「そんなことより、俺たちの結婚だ。急ぐぞ」
「え、急ぐっって言っても、つい今しがた婚約解消したばかりで無理よ」
「いや、実は半年前に婚約は解消してる。フローネが18歳になったから、それと同時に俺は君と婚約していた」
「は?」
「言えなくてごめんよ。でもランダース子爵が誰にも漏らすなって言うから。ちゃんと婚約の書類はここにあるし、婚姻書には既にサインをもらってある」

 お父様の昨夜の目配せは、そう言う意味だったのかしら。

 結婚式は、私が二十歳になってからという約束で。でも籍はその日のうちに入れることになって、二人揃って役場で宣誓だけを済ませてしまった。

 あっという間に私、人妻になりましたよ。まだ学院も卒業していないんですが、いいのでしょうか。まあ法律上では成人してるし、問題ないんですけどね。

 籍を入れた帰りに連れて行かれたのが、こじんまりした一軒家。「二人の愛の巣」とダリルが頬を染めていう。

 え、なにこれ。すごいわ。

 とりあえず、私が次期子爵当主ではあるものの、まだまだお父様も若く。暫くは二人だけで暮らしたいと、手際よくダリルがブルネット商会の近くに用意していたのである。

「半年間、フローネは知らなかったとは言え、俺は手も出さず清い関係を通したんだ。もう待てない。一緒に暮らそう」

 既成事実を作ってしまえば誰にも邪魔されない、とあれよという間に押し倒されてしまった。

 そんな事を言われたら、ねえ。なんだかんだ言って二年も無理をさせてしまったし、私も辛かった。おまけに寝室は豪勢にもバラの花びらがベッドに散らされ、とっておきの林檎酒(ダマール産)と高級チョコレートトリュフ(王都で大人気)をお互いに食べさせあって、ムードに流された。

 夫婦の部屋の大部分を占めるベッドはダリルが特注で注文をして、こっそり納品していたらしい。ふかふかなのにギシギシしないマットレスとシルクのシーツが素晴らしく、夢のように贅沢だったため、つい朝方まで持ち込んでしまった。

「責任を取って結婚しました」と翌日の午後に両親には事後報告をした。いや、結婚したので事に及んだんですが。母は卒倒、父は苦虫を噛み潰したような顔になってました。幸せになるから許して。




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