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学園編
恩赦祭
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結局のところ、アンナルチアは生徒会に報告はしなかった。いわゆる「忠告」は受けたものの、これといって被害を受けたわけではないし、結果的には彼女たちもなんとなく(?)間違いだったような、誤解をしていたような感じだったのもあり、噂に踊らされただけなのだ。
「実際、ルーク先輩と私がどうこうなんて事実もないし…」
ルークの態度が自分に甘々なのは気が付いている。視線も甘ければ、やけに隣に座りたがるし、いくところ行くところで現れては偶然を装っている姿が見られるからだ。アンナルチアは鈍感ではない。自分に向けられる好意や敵意は、敏感に感じ取れている、と自負しているが、それが驕り高ぶったりしないよう自制しているつもりもある。
特に学園では、好意より悪意の方が向けられる視線が多い。男子生徒からは「生意気な女生徒」とみられているし、女生徒からは「媚を売る嫌な女」と見られているようだ。最近になって教師からも「地位を脅かす要らんことをする生徒」の視線が増えた。
勉強さえ頑張れば、と乗り越えてきたが正直いってしんどい、というのも確かだった。生徒会に入ったのは奨学金の査定でプラスになるからだし、奨学金制度を取ったのは家のためだ。責任感が強いアンナルチアは任されたからにはしっかりしなければ、とキリキリ働いた。生徒会では可愛がられているのは確かだが、贔屓をされるため頑張ったわけではない。学生らしく学園生活を送るつもりが、だんだん不穏な空気が自分を取り巻いてきていることに、少々不安にもなる。1学年だけならいざ知らず、今回は先輩方も巻き込んできているのだ。その中心に生徒会が、そしてルークがいるのがアンナルチアの顔に影を差した。
「恩赦祭が終わったらちょっと整理しなくちゃ…」
噂がどこから出回っているのか、何をどうしたら理解されるのか。
「色恋沙汰の噂の出どころは、もちろんあそこよね……」
ふんす、と胸を張るリリシアの顔が目の前に浮かんだ。なんだって目をつけられたんだか。もちろんそれは、ルーク絡みなのだろうけれど。
ルークとリリシアが婚約関係になる。それが、家から齎されたものならば、どちらも否やはないと思う。学生のうちから婚約者というのはこの国では滅多にないのだが、ないわけではない。特にリリシアは侯爵家の次女だから下手な人と結婚などできないし、学生のうちに貞操を失うような間違いがあってはいけない。特にリリシアは発育がいいせいで、男性から好奇の目で見られることも多いとアマリアもぼやいていた。
そうなると、自分やリンダの存在に目をつけるのは必須なのかもしれない。しかしリンダは現在のところ平民だから、ルークとの仲は問題視されていないのだろう。となれば、自分の存在は目の上のたんこぶなのかもしれない。
「あり得ないんだけどな……」
はあ、とアンナルチアはため息を吐いた。
ルークは、騎士としての腕も良いし、ハンサムだ。柔らかそうな赤錆色の髪の毛も似合っているし、琥珀色の瞳も、日に反射すると飴色で神々しささえある。優しくて、頭も良い。字も綺麗だったし、尊敬できる先輩だ。おしゃべりしてても楽しいし、食事の作法も綺麗で、なんでもよく食べる。ヴィトン領の農作物についても興味深く聞いてくれるし、お父様の昔話もどこかで調べて話してくれる。騎士団長としての父の姿に憧憬もあるのだろう。家族を褒められるのは純粋に嬉しい。特に尊敬する父や母についてのことならば。
もし自分が資金に苦労のない伯爵家の娘だったら、ルークほどの人はこれ以上ない縁だと両手放しで喜ぶのだろう…とそこまで考えて、アンナルチアはハッとする。
(何考えてるの、アニー!私ごときに釣り合う人じゃないのに、馬鹿なことを)
赤らめた顔を両手で抑え、アニーはやらなければならないことを反芻し、講堂へ急いだ。
金曜日になり、恩赦祭が始まった。アレックスの法王の格好に全員で笑い、不貞腐れる顔をしながら台座に腰掛ける生徒会長と、その後ろでスイッチの点検をする学園長、マイクやカメラの準備をするソルとそれを手伝うリンダを横目に、舞台を整えるアマリアもいる。ルークは講堂の入り口で警備をする人たちし指示を出し、アンナルチアは飲み物と軽食のテーブルを確認する。
時間が来て、参加者がゾロゾロと集まってきた。黒星をもらった人は結構いるようで、三年生から恩赦を受けようと懺悔が始まる。カンニングをするつもりはなかったが、ポケットに入っていたノートが試験終了後に見つかり、0点をもらった男子生徒がどうか恩赦を、と頭を下げる。アレックスがそれらしいことを告げ、ピカリと宝玉が光って、彼は恩赦を受け取った。「これで卒業できる!」と涙を流して友人と喜ぶ姿が目に入る。試験の答案結果から、カンニングをしているとは思えなかったというのが理由だったようだ。
次は、授業をサボりまくった女生徒が「女性騎士になりたかったが、親が許さず刺繍のクラスを取らなければならなくなり、それが嫌で逃げ出した」と頭を下げた。だが彼女の場合は杖から稲妻が降りた。アレックスは、騎士ならば与えられた任務を途中で投げ出すようなことはするべきではないと告げ、女生徒はがっくりと項垂れ、歯を食いしばっていた。
十数人の生徒が懺悔を繰り返し、法王の格好のアレックスが台座を降りた地点で恩赦は終了した。そして、いよいよパーティが始まり、生徒たちはそれぞれダンスをしたり、飲み食いを始める。
「アニー。お疲れ様!」
「ルーク先輩」
「ちょっと休憩しないか?」
一段落ついて一息つこうと思ったところでルークがドリンクを両手にアンナルチアに声をかけてきた。
「実際、ルーク先輩と私がどうこうなんて事実もないし…」
ルークの態度が自分に甘々なのは気が付いている。視線も甘ければ、やけに隣に座りたがるし、いくところ行くところで現れては偶然を装っている姿が見られるからだ。アンナルチアは鈍感ではない。自分に向けられる好意や敵意は、敏感に感じ取れている、と自負しているが、それが驕り高ぶったりしないよう自制しているつもりもある。
特に学園では、好意より悪意の方が向けられる視線が多い。男子生徒からは「生意気な女生徒」とみられているし、女生徒からは「媚を売る嫌な女」と見られているようだ。最近になって教師からも「地位を脅かす要らんことをする生徒」の視線が増えた。
勉強さえ頑張れば、と乗り越えてきたが正直いってしんどい、というのも確かだった。生徒会に入ったのは奨学金の査定でプラスになるからだし、奨学金制度を取ったのは家のためだ。責任感が強いアンナルチアは任されたからにはしっかりしなければ、とキリキリ働いた。生徒会では可愛がられているのは確かだが、贔屓をされるため頑張ったわけではない。学生らしく学園生活を送るつもりが、だんだん不穏な空気が自分を取り巻いてきていることに、少々不安にもなる。1学年だけならいざ知らず、今回は先輩方も巻き込んできているのだ。その中心に生徒会が、そしてルークがいるのがアンナルチアの顔に影を差した。
「恩赦祭が終わったらちょっと整理しなくちゃ…」
噂がどこから出回っているのか、何をどうしたら理解されるのか。
「色恋沙汰の噂の出どころは、もちろんあそこよね……」
ふんす、と胸を張るリリシアの顔が目の前に浮かんだ。なんだって目をつけられたんだか。もちろんそれは、ルーク絡みなのだろうけれど。
ルークとリリシアが婚約関係になる。それが、家から齎されたものならば、どちらも否やはないと思う。学生のうちから婚約者というのはこの国では滅多にないのだが、ないわけではない。特にリリシアは侯爵家の次女だから下手な人と結婚などできないし、学生のうちに貞操を失うような間違いがあってはいけない。特にリリシアは発育がいいせいで、男性から好奇の目で見られることも多いとアマリアもぼやいていた。
そうなると、自分やリンダの存在に目をつけるのは必須なのかもしれない。しかしリンダは現在のところ平民だから、ルークとの仲は問題視されていないのだろう。となれば、自分の存在は目の上のたんこぶなのかもしれない。
「あり得ないんだけどな……」
はあ、とアンナルチアはため息を吐いた。
ルークは、騎士としての腕も良いし、ハンサムだ。柔らかそうな赤錆色の髪の毛も似合っているし、琥珀色の瞳も、日に反射すると飴色で神々しささえある。優しくて、頭も良い。字も綺麗だったし、尊敬できる先輩だ。おしゃべりしてても楽しいし、食事の作法も綺麗で、なんでもよく食べる。ヴィトン領の農作物についても興味深く聞いてくれるし、お父様の昔話もどこかで調べて話してくれる。騎士団長としての父の姿に憧憬もあるのだろう。家族を褒められるのは純粋に嬉しい。特に尊敬する父や母についてのことならば。
もし自分が資金に苦労のない伯爵家の娘だったら、ルークほどの人はこれ以上ない縁だと両手放しで喜ぶのだろう…とそこまで考えて、アンナルチアはハッとする。
(何考えてるの、アニー!私ごときに釣り合う人じゃないのに、馬鹿なことを)
赤らめた顔を両手で抑え、アニーはやらなければならないことを反芻し、講堂へ急いだ。
金曜日になり、恩赦祭が始まった。アレックスの法王の格好に全員で笑い、不貞腐れる顔をしながら台座に腰掛ける生徒会長と、その後ろでスイッチの点検をする学園長、マイクやカメラの準備をするソルとそれを手伝うリンダを横目に、舞台を整えるアマリアもいる。ルークは講堂の入り口で警備をする人たちし指示を出し、アンナルチアは飲み物と軽食のテーブルを確認する。
時間が来て、参加者がゾロゾロと集まってきた。黒星をもらった人は結構いるようで、三年生から恩赦を受けようと懺悔が始まる。カンニングをするつもりはなかったが、ポケットに入っていたノートが試験終了後に見つかり、0点をもらった男子生徒がどうか恩赦を、と頭を下げる。アレックスがそれらしいことを告げ、ピカリと宝玉が光って、彼は恩赦を受け取った。「これで卒業できる!」と涙を流して友人と喜ぶ姿が目に入る。試験の答案結果から、カンニングをしているとは思えなかったというのが理由だったようだ。
次は、授業をサボりまくった女生徒が「女性騎士になりたかったが、親が許さず刺繍のクラスを取らなければならなくなり、それが嫌で逃げ出した」と頭を下げた。だが彼女の場合は杖から稲妻が降りた。アレックスは、騎士ならば与えられた任務を途中で投げ出すようなことはするべきではないと告げ、女生徒はがっくりと項垂れ、歯を食いしばっていた。
十数人の生徒が懺悔を繰り返し、法王の格好のアレックスが台座を降りた地点で恩赦は終了した。そして、いよいよパーティが始まり、生徒たちはそれぞれダンスをしたり、飲み食いを始める。
「アニー。お疲れ様!」
「ルーク先輩」
「ちょっと休憩しないか?」
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