『この悪役令嬢、すべてを許しすぎて逆に怖い』

白石あかね

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生徒会室の扉が閉まる音と共に、今日も定例の会議が始まった。

厚手のカーテンに遮られた陽光、規則的に並んだ椅子と机、そして中央に据えられた楕円形の円卓。その席に座る者たちは、いずれも学院内で選ばれた精鋭ばかりだった。

だが、議題が読み上げられるや否や、場の空気は一瞬にして変わる。

「次の舞踏会での来賓対応について、意見が割れております。会場の分散案を支持する者と、従来通り一括開催を望む声が同数です」

書記のギルバートが淡々と読み上げる。その傍らで、副会長シュヴァンツが腕を組みながら低く唸った。

「またか。どうせ、結論はもう決まってるんだろう」

そして、視線は自然と一点に集まる。

アズナ=グランフォード。生徒会長にして、公爵令嬢。彼女は今日も静かに微笑をたたえ、議題を見つめていた。

「では……皆さまが納得されるように、まいりましょう」

たった、それだけの言葉。

命令でも提案でも、明確な方向性すら示さない。

それなのに、その一言を皮切りに意見が揃い始める。分散案を推していた者は「確かに、一括開催の方が賓客への礼も行き届く」と言い出し、逆に一括派だった者も「分散させた方が警備は万全かもしれませんね」と意見を変える。

そのたびに、アズナは一言も発さず、ただ微笑んで頷くだけ。

気がつけば、全員が“最初からその方向性だった”かのように振る舞っている。

「……怖いほど、まとまるな」

小声で吐き出した副会長シュヴァンツの言葉に、誰も反応しない。

彼は知っている。アズナは命じない。否定もしない。ただ、誰もが“彼女の空気”を読むのだ。

意見を合わせようとしているわけではない。ただ、彼女の“望まないであろうもの”を、無意識に避けようとする。誰もその存在を意識せず、誰も強制されていないという錯覚の中で、全体は“最適”な結論に導かれていく。

――これはもう、支配ではないのか?

けれど、口にする勇気がなかった。反論するほどの不満も、不都合も存在しないからだ。完璧すぎる調和の中では、違和感すら“自分が未熟なのだ”と処理される。

会議終了後、ギルバートは議事録閲覧室の奥、個人記録欄にこう記した。

《本日の議題における決定は、アズナ様の発言「皆さまが納得されるようにまいりましょう」に端を発した。

この言葉は具体的ではない。しかし、すべての参加者はそこから“適切な結論”を導いた。結果として、会議は穏便かつ迅速に終結。

これは、言葉による命令ではなく、“言わずに誘導する魔法”のようなものだ。

すでに、彼女はこの場の“空気”そのものとなっている。》

ギルバートはペンを置き、しばし目を閉じた。

“支配”とは、本来、圧力を伴うものだったはずだ。  
けれど、今この空間には、その影すら存在しない。

あるのは、ただ完璧な微笑と、逆らう理由のない空気。  
そしてそれが最も恐ろしいという事実を、彼だけが静かに記録として残していた。
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