『この悪役令嬢、すべてを許しすぎて逆に怖い』

白石あかね

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断罪裁定会場。  
沈黙に沈んだ空間に、突如として、荒々しい足音が響いた。

扉が乱暴に押し開けられ、壇上前まで駆け込んできたのは――王太子レオン=フォン=アルセリオ。

「この裁定は……間違ってる!」

その叫びに、場内がざわめいた。

教師たちは顔を見合わせ、生徒たちは緊張に息を呑む。  
だが最も反応を見せなかったのは――  
当の、アズナ=グランフォードだった。

彼女はただ、視線を下げたまま。  
レオンの声を聞いているはずなのに、まるで風の音のように受け流すだけ。

壇下で拳を握りしめたレオンは、振り上げた声をさらに高める。

「俺はずっと、君を守ろうとしてきた!  
誰よりも近くで、君の微笑を信じてきたんだ……!」

けれど、アズナは答えない。

その目は、どこにも向けられていない。  
レオンにも、傍聴席にも、裁定者たちにも。

“彼女はこの空間に在って、ただ在るだけ”――  
その事実が、場の空気をさらに締めつけた。

「……どうして……」  
レオンの声がかすれる。

「どうして、君は何も言わない……!  
香も纏わず、言葉も発せず、それでも……それでも君は、  
“俺の想いさえ拒むつもりなのか……?”」

アズナは、その問いにも沈黙で応えた。

微笑ではない。  
拒絶でも、同情でもない。

ただ、無。

それは、言葉よりも明確な否定だった。

愛では、もう届かない。  
彼女は“選ばない”。  
誰かの特別にもならず、感情にも動かされず、  
ただその存在だけで――断罪そのものを、無効化する。

レオンの肩が落ちる。

「こんなにも、好きなのに……」

その声はもう、届いてすらいなかった。

壇上にいるのは、“誰にも属さず、誰にも動かされない”存在。  
愛も、怒りも、信仰も、すでに通用しない。

レオン=フォン=アルセリオ。  
王国の次代を担う者が、初めて“敗北”を知った瞬間だった。

愛は、断罪を止める理由にはならなかった。

それが、彼にとって最も残酷な裁定だった。
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