『この悪役令嬢、すべてを許しすぎて逆に怖い』

白石あかね

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職員棟の最上階、会議室。  
いつもは講義の調整や進級審査が議題に挙がる場に、重苦しい沈黙が満ちていた。

「本日の議題は、アズナ=グランフォードの今後の処遇について」

倫理担当の教師、ライナス=グレイブの声が、会議室に響いた。  
出席者は十数名――主任講師から補佐教員までが顔を揃えている。

だが、誰一人として目を合わせようとしなかった。

「断罪裁定会は……制度として、成立しませんでした」

ライナスは、ゆっくりと資料を閉じた。

「証言は揃い、結界も張られ、形式上はすべて揃っていた。  
だが我々は、彼女を“罪に問う”言葉すら持ち得なかった」

誰かが小さく息を呑む。  
その静けさが、何より雄弁に“敗北”を語っていた。

「……つまり、制度側の失敗、ということですか?」

年長の教務長が問う。  
ライナスは一度だけ頷いた。

「はい。我々は、アズナ=グランフォードという存在に対して――  
“教育”することも、“裁く”ことも、“導く”こともできなかった」

「では、どうする?」  
別の教師が低く問う。  
「このまま放置するのか?」

その言葉に、場の空気がわずかに揺れる。

だが、次に出された言葉は――あまりにも静かだった。

「提案があります」

学年統括の女性教員が、慎重に口を開く。

「アズナ=グランフォードを、“教育対象外”として登録しましょう。  
彼女を“学院制度の干渉下に置かない存在”と定義する。  
観察は続けますが、指導も評価も行わず、いかなる規則の適用も一時停止する」

誰も、反論しなかった。

それが――唯一可能な“処置”だった。

「彼女は、制度の外にいます」  
「私たちが作った枠組みの中では、動かせない。  
ならば、外部のものとして、ただ記録し、見守るしかない」

ライナスは議事録に、筆を入れた。

《アズナ=グランフォードを本学院教育対象外とし、  
観察対象として定義。今後の関与を制度的に凍結する》

その文は、静かに打たれた判決であり――  
教育者としての、敗北の記録だった。

誰も声を上げず、誰も拍手を送らなかった。

それは敗北の瞬間であり、そしてまた、学院が“彼女を理解できなかった”という事実を、  
永遠に残すための記録だった。

こうしてアズナ=グランフォードは、正式に“制度の外側”へと退かれた。

だが、誰もが思っていた。  
――本当にそれで、終わるのか? と。
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