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26 双子の珠
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第八話 双子の珠
裏庭に戻った静寂は、先ほどまでの殺気が嘘のように重かった。
灰の上に転がる三つの黒装束。
そしてその中心で、朱の珠がひとつ――生き物のように脈を打ちながら、ふわりと宙に止まっている。
珠は、ゆっくりと宿の方へ向き直った。
まるで帰り道を知っているかのように。
朱の鼓動は、宿の中で苦しむ金之助殿の胸の奥の鼓動と、ぴたりと重なっていた。
鉄之介が、槌を肩に載せたまま唖然と呟く。
「……なぁ、お侍。
今の、見たよな。あの珠……俺たちが何かしたわけじゃねぇのに、勝手に動きやがった」
忠壽は刀を拭い、宙の珠を睨むように見据えたまま答える。
「見た。
奪われた珠が、みずから巾着を解き、宙を舞い、伊賀を討った。
……あれは“力の暴発”ではない。明確にこちらの味方をした」
鉄之介は舌を鳴らし、眉を寄せる。
「珠に味方も敵もあるのかよ……。
いや、だとしたら……なんであいつらだけ狙った?
俺たちを巻き込んでもおかしくねぇ力だったぞ」
「……辰に呼応した」
忠壽の声が低く落ちた。
「金之助殿の珠と、同じ鼓動で脈打っていた。
あれは偶然か? それとも――」
言いかけたところで、障子がそっと開く。
お菊が、斎藤に金之助殿を任せたまま、夜気の冷たさを纏って裏庭へ出てこられた。
数珠を握った指が、わずかに震えている。
「偶然ではございません」
凛とした声音に、鉄之介が振り返る。
「お菊様……?」
お菊は朱の珠を見上げ、静かに続けた。
「今、ここにある珠は――
金之助殿の辰の珠と対になる珠。
古くから“双子の珠”とも呼ばれるものです」
忠壽の眉がわずかに動く。
「対……双子……?」
「はい」
お菊は一度息を整え、言葉を選ぶように語った。
「辰の珠は“導き、呼ぶ力”を持ちます。
そしてそれに対をなすのが――寅の珠」
鉄之介が目を細める。
「寅……虎の珠か」
「双子の珠とは、互いを探し、互いに呼応し、
二つ揃えば力を何倍にも増幅させると伝えられております」
朱の珠が、言葉に応えるように どくん と脈を落とした。
空気が一瞬、深く沈む。
「辰と寅は、片方だけでも強い。
けれど二つが近くにあれば、
片方の力がもう片方を押し上げ、さらにそれが返る――
際限なく“力が増す循環”が起きるのです」
忠壽は無言で珠を見ていた。
その瞳が、わずかに険しくなる。
「……それほどの力なら、なぜ今まで世に出なかった」
「強すぎるからです」
お菊の声が、少しだけ苦くなる。
「双子の珠は、器に宿した者にも過分な試練を与えると……。
扱える人間は限られ、
適合を誤れば、力に呑まれ、心も身体も壊れる。
そう言い伝わっております」
鉄之介が思わず低く唸った。
「だから、器でもねぇ伊賀の雑魚が触った途端……ああなったわけか」
「ええ。
しかも辰の珠が金之助殿に宿っていま、目覚めかけていた。
寅の珠はその鼓動に呼ばれ、
自ら動き、己を奪った者を討ったのです」
お菊は朱の珠から視線を外し、宿の中を見やる。
「今夜のことは、辰と寅が再び近づいた“兆し”。
……この先、双子の珠を狙う者はさらに増えるでしょう」
忠壽は静かに頷き、短く言った。
「承知した。
ならばなおさら、金之助殿の覚醒を見誤るわけにはいかぬ」
鉄之介が朱の珠を見上げ、ぽつりと笑うとも呻くともつかぬ声を漏らす。
「……珠が意思を持つってのは、気味が悪ぃ。
けどよ……あいつ、今夜は確かに“俺たちの側”に立ってた。
それが辰と寅の縁ってやつなら――
金之助が目ぇ覚ました時、どんな化け物になるんだか」
朱の珠は、ふわりと宙で旋回した。
まるでその言葉に答えるように、宿の方へゆっくりと近づいていく。
金之助殿の胸の鼓動と同じ速さで、
辰と寅――双子の珠が、重なり合おうとしていた。
朱の珠が宿の縁側近くにふわりと留まり、夜気の中で淡く脈を打っている。
その鼓動が聞こえるたび、金之助殿の熱の息が部屋の奥でふっと揺れた。
鉄之介は腕組みしたまま、珠と障子の向こうを交互に見やった。
さっきまでの興奮が抜けきらず、声にはまだ荒い火が残っている。
「……辰と寅、二つが揃えばヤバいほど強ぇ。
そこまでは分かった」
鉄之介は一度言葉を切り、忠壽とお菊様の顔を見て続けた。
「けどよ。
もし何かの拍子に、この寅の珠を敵に奪われたら――どうなる?」
忠壽の眼が細くなり、わずかに息を呑む。
その問いは、今夜の“勝ち”を一瞬で“負け”へひっくり返す可能性を孕んでいた。
お菊は数珠を握り直し、静かに首を振った。
「……双子の珠は、互いの存在を前提として力を巡らせます。
片方が欠ければ、循環は断たれてしまう」
鉄之介が眉をひそめる。
「循環が断たれると……?」
「お互いの力の作用が効かず、片方が暴走するか――
もしくは力が半減する可能性が高いと伝えられております」
珠が、どくん と一つ大きく脈を落とした。
まるで“離れるな”とでも言うように。
鉄之介は舌打ちし、夜空を仰いだ。
「……つまりよ。
辰が覚醒しても、寅が敵に渡ったら、力が不安定になったり、弱まったりする――ってことだな」
お菊様は肯いた。
「はい。双子の片翼を奪われた鳥のように……
力は定まらず、器である者を危険に晒します」
鉄之介は大槌の柄を握り、低く唸った。
「じゃあ結局、だ。
この寅の珠を扱える“こっち側の人間”を探して、
武器に同化させなきゃ――
金之助が覚醒しても、意味がねぇってことか?」
言い切った鉄之介の目には、焦りと苛立ちが混ざっていた。
今夜見た珠の“意志”が、彼の胸に得体の知れぬ不安を植えつけている。
だが、お菊様は静かに首を振る。
「……いえ。意味はございます」
「なんでだ?」
「辰の珠の強さは、並大抵のものではありません。
そして何より、金之助殿は――
珠を身体に取り込めるほど適応しておられる」
お菊様の視線が、障子の向こうの金之助殿へ向かう。
そこには、珠に呑まれる恐れと同じだけ、“器としての確かさ”への信頼が滲んでいた。
「辰だけでも、他者を圧倒するには十分かと。 ……覚醒は、金之助殿にとって武器であり、道を切り開く力です」
忠壽が低く補うように言う。
「辰が“導きの核”である以上、
辰の器が確立すれば、それだけで旅は一段進む。
寅が揃わぬからといって無意味ではない」
鉄之介は鼻を鳴らし、少しだけ肩の力を抜いた。
「……まあ、辰だけでも強ぇのは分かる。
けどよ、揃えりゃもっとヤバいんだろ」
「はい」
お菊様は小さく息を吸った。
「双子が揃えば、力は跳ね上がります。
だからこそ――」
お菊様は珠を見上げ、まっすぐに言った。
「早く寅の珠遣いを確定した方が安心ではあります」
夜の冷気が、言葉の間にすうっと入り込む。
鉄之介が苦い顔をした。
「……けど、見つかるかどうか、だよな」
お菊様の唇が、ほんのわずかに震えた。
「ええ……。
寅の器は“限られた血と縁”にしか応えぬとも伝わります。
導き合うはずの双子でさえ、
人の世の混乱に紛れれば、容易には……」
言葉がそこで途切れる。
不安を口にしたくない――そんな奥方の矜持が、声を抑えさせた。
鉄之介は朱の珠を睨みつけ、拳を握った。
「……なら探すしかねぇ。
敵に奪われる前に、こっちの“寅”を見つける」
忠壽は静かに頷いた。
「そのためにも、今は金之助殿を守り、辰を安定させる。
寅の導きが強まれば、器もいずれ姿を現すはずだ」
朱の珠が、どくん……どくん……
ゆっくりと鼓動を落としながら、宿の方へ向き直った。
まるで、
“探せ”と命じるように。
“必ず見つかる”と信じるように。
辰と寅の縁が、いま確かに動き始めていた。
夜の気配がようやく薄れ、裏庭の灰は湿った冷えを取り戻し始めていた。
鉄之介と忠壽、そして吉村ら家臣たちは、倒れた伊賀の忍びの始末に取りかかった。
血の匂いを残せば、町の者が騒ぐ。
何より――珠の気配に引かれる“次の影”を呼び寄せかねぬ。
忠壽の指図は短い。
「斎藤は宿を守っている。
吉村、二人で布を用意しろ。
……急げ。夜明けまでに片をつける」
「はっ!」
忍びの死体は灰にまみれ、闇に溶けるように横たわっていた。
鉄之介は鼻を鳴らしながら、そのひとつを乱暴に持ち上げる。
「まったく、手間ァかけさせやがって……」
灰を払うたび、黒装束の下からひしゃげた骨の感触が伝わる。
珠に壊された一体は、まるで中身を抜かれた獣の皮のようで、鉄之介ですら一瞬だけ顔をしかめた。
「……器じゃねぇってのは、こういうことかよ」
忠壽は答えず、黙して死体を布に包ませた。
血痕は灰で覆い、足跡はならした枝で消す。
夜明け前の仕事は淡々として、だが緊迫を秘めていた。
全てを片づけ終える頃には、
東の空がわずかに白み始めていた。
「戻るぞ」
忠壽が低く言う。
一行が宿へ戻ると、廊下の灯の下で斎藤が待っていた。
顔に疲れはあるが、目は冴えている。
「殿。金之助殿の様子に変わりはございません。
ですが……熱は引き、呼吸も落ち着き始めております」
「そうか」
忠壽の声に、わずかな安堵が混じった。
部屋へ入ると、金之助殿は布団の上で静かに横たわっていた。
さきほどまでの激しい熱の波は去り、額の汗も薄い。
胸の上下は穏やかで、顔色も少しだけ戻りつつある。
だが――瞼は閉じたままだ。
お菊様がその傍らに座し、数珠を膝に置いたまま、そっと金之助殿の手に触れていた。
指先がまだ熱を帯びているのを確かめるように。
「……容態は、安定しております」
お菊様が静かに言う。
「けれど、意識はまだ……」
忠壽は頷き、短く答えた。
「今はそれでよい。
辰が金之助殿に馴染む刻だ。
無理に起こすな」
「はい……」
鉄之介は何も言わず、金之助殿の枕元にどかりと座った。
大槌は壁に立てかけ、
腕を組み、視線だけを金之助殿の顔に置く。
夜の戦いが嘘のように、部屋は静かだった。
外では宿の客が起き出し、湯の音や足音が遠くに混じる。
だが鉄之介は微動だにしない。
お菊様がそっと声をかける。
「鉄之介殿……。休みなさい。あなたも傷を負っております」
「へいきだ」
鉄之介は短く返した。
「……こいつが起きるまで、ここにいる」
それきり、言葉はなかった。
金之助殿の呼吸の間に、鉄之介の耳はずっと、微かな鼓動を聞いていた。
――あれは、夢じゃねぇ。
――こいつは、ほんとに辰の器なんだ。
灯が落ち、また夜が巡る。
忠壽と家臣たちは交代で見張りに立ち、三平と平八は端で丸くなって眠った。
鉄之介だけが、金之助殿の傍らに座したまま、一歩も動かず夜を明かした。
炎も声もない静けさの中、
ただ、金之助殿の胸の奥で脈打つ朱の鼓動だけが、ゆっくりと、確かに“目覚め”へ向かっていた。
第九話 帰還
翌朝。
宿の外が白む頃、廊下に慌ただしい足音が走った。
斎藤が戸を叩き、声を落として告げる。
「殿。館林より使いが参っております」
忠壽がすぐに表へ出ると、
旅装束の若い使者が土埃を払う暇もなく膝をついた。
「白河藩・本多様に。館林城より急ぎの書状にございます」
差し出された紙は、短い。
墨の線は乱れなく、ただ一行。
――すぐに戻られよ。
その下に、館林城主の印が押されていた。
忠壽は無言でそれを見つめた。
内容が簡素であるほど、命の重さは増す。
「……事情は?」
使者は首を振る。
「それ以上は……私にも。
ただ“一刻を争う”と」
「承知した。下がれ」
使者が去ると、忠壽は部屋へ戻った。
金之助殿は夜のうちに熱が引き、
いまは布団から半身を起こして水を飲めるほどに戻っている。
意識もしっかりしていて、目の奥の揺らぎは薄い。
「……お侍様、何かございましたか」
金之助殿が弱い声で問う。
忠壽は書状を差し出した。
「館林より戻れとの命だ。
理由は書かれておらぬ」
お菊様が眉をひそめ、印をそっと確かめる。
「城主の印……間違いなく館林から……。
しかし、こうも急に……」
鉄之介が鼻を鳴らした。
「また面倒くせぇことが起きたんじゃねぇの?
せっかく金之助が落ち着いたってのに、休ませる暇もねぇのかよ」
忠壽は鉄之介を一瞥し、淡々と言う。
「命は命だ。
館林が呼ぶなら戻る」
「へいへい、武士は大変だな」
鉄之介は肩をすくめたが、目だけは鋭かった。
昨夜の襲撃と双子の珠の話が、頭から離れていない。
金之助殿がゆっくりと立ち上がる。
「……俺も、行く。
馬に乗れると思う……大丈夫だ」
お菊様がすぐに寄り添い、支える。
「無理はなさらぬでください。
ですが……辰があなたに馴染み始めている今、ここで立ち止まるわけにも参りませんね」
忠壽が頷いた。
「全員の馬を用意しろ。
まだ館林から遠く離れたわけではないが、
ここからでも半日はかかる距離だ。急ぐぞ」
吉村ら若い家臣が動き、斎藤が旅支度をまとめ始める。
三平と平八は怯えたまま荷を背負い、口を利くこともできない。
鉄之介は最後までぶつぶつ言いながらも、大槌を背負い直した。
「ったく……戻れ戻れって、城ってのは人を走らせるのが好きだな。
どうせ戻ったらまた黒屍人だの伊賀だの――」
「鉄之介」
忠壽が低く遮る。
その声だけで、鉄之介の文句は喉で止まった。
「分かってるよ。
……行きゃいいんだろ、行きゃ」
忠壽はそれ以上叱らず、ただ短く言った。
「今は急ぐ。
館林で何が起きていようと、
我らが戻らねば始まらぬ」
一行は宿を出た。
朝の灰の道は冷たく、昨夜の戦いが夢だったかのように静かだ。
だが馬の蹄が鳴るたび、
金之助殿の胸の奥の朱は、確かに“呼ばれている”ように脈を打った。
館林へ――
再び、運命の渦へ戻るために。
館林へ戻る前に、一行は道を少し外れ、三平と平八の家へ向かった。
壬生宿からさほど離れてはいない百姓家だったが、ここ数日の騒ぎが嘘のように、家の周りは静まり返っていた。
戸口に立った老夫婦の顔は、やつれながらも、二人の息子の姿を見た瞬間に崩れた。
「三平ぇ……平八ぃ……!」
母親が駆け寄ろうとして膝をつき、父親は言葉にならぬ声で額を押さえた。
三平は弟の背を軽く押し、土間に下りて深く頭を下げる。
「ただいま……戻りました」
平八も、珍しく小さくなって頭を下げた。
「……ごめん、父ちゃん、母ちゃん……」
老夫婦はそれだけで泣き伏した。
倒れかけた母を支えながら、三平がこちらへ向き直り、畳に額を擦りつけた。
「旦那様……鉄之介様……奥方様……
このたびは、命を助けてくださって……まことに、まことに……!」
言葉が震えて続かない。
平八も兄にならって土に手をつき、頭を下げた。
「俺……悪かった。
あんたらが来てくれなきゃ、俺……」
鉄之介は鼻を鳴らし、照れ隠しのように顔を背けた。
「いいから、もう二度とあんな真似すんな。
生きてりゃそれでいい」
お菊様は柔らかく微笑み、静かに頷かれる。
「あなたたちが無事で、本当に良うございました。
これからは、どうか命を粗末になさらぬように」
「は、はい……!」
三平は涙を拭いながら、何度も何度も頭を下げた。
忠壽は一歩前へ出た。
懐から布に包んだ大小を取り出す。
質屋の店主から取り上げ、鉄之介が持ち帰ったあの刀だ。
忠壽はそれを三平に差し出した。
「これを持て」
三平は目を見開き、慌てて手を振る。
「だ、旦那様! そ、それは侍の……!
とても百姓が持ってよいものでは――」
「よい」
忠壽の声は静かだが、拒む余地がない。
「侍は死に、持ち主もいない。
お前たちの家が困窮しているのは見て分かる」
三平の手が震えながら、大小を受け取った。
忠壽は言い含めるように、淡々と続ける。
「しばらく大事にしまっておけ。
どうしても金が必要なときは、最前の店ではない質屋に見せて売るとよい」
三平の目から、また涙があふれた。
「だ、旦那様……!
こんな……こんなもんまで……!」
平八も唇を噛み、頭を落とす。
「……ありがと、ございます……」
忠壽はその言葉を受けても表情を変えず、ただ一度だけ頷いた。
「珠のことは忘れろ。
お前たちの命が第一だ」
「は……! はい……!」
三平は何度も額を床に擦りつけ、老夫婦もまた泣きながら礼を繰り返した。
別れ際、鉄之介が平八の肩を乱暴に叩く。
「生きろよ、ガキ。
次に会うときゃ、もう少し賢くなってろ」
「……うん!」
平八は涙をこらえながら、力強く頷いた。
一行が家を離れるときも、
三平と平八、老夫婦は道端に膝をつき、姿が見えなくなるまで深く頭を下げ続けていた。
感謝の声が風に消えていく。
忠壽は前を見据え、馬の手綱を締めた。
「――行くぞ。館林へ戻る」
鉄之介が小さく舌打ちする。
「ったく、城に戻りゃ戻ったでまた面倒だろうがな……」
「鉄之介」
忠壽が低く名を呼んだだけで、文句は止まる。
「……分かってるよ。行きゃいいんだろ、行きゃ」
灰の道を進む蹄の音が、やがてひとつの列になった。
背後には、助けた兄弟の家。
前には、何かが抜け落ちたように静かな館林の町。
礼を受け取ったまま、一行は再び運命の渦へ向かっていった。
裏庭に戻った静寂は、先ほどまでの殺気が嘘のように重かった。
灰の上に転がる三つの黒装束。
そしてその中心で、朱の珠がひとつ――生き物のように脈を打ちながら、ふわりと宙に止まっている。
珠は、ゆっくりと宿の方へ向き直った。
まるで帰り道を知っているかのように。
朱の鼓動は、宿の中で苦しむ金之助殿の胸の奥の鼓動と、ぴたりと重なっていた。
鉄之介が、槌を肩に載せたまま唖然と呟く。
「……なぁ、お侍。
今の、見たよな。あの珠……俺たちが何かしたわけじゃねぇのに、勝手に動きやがった」
忠壽は刀を拭い、宙の珠を睨むように見据えたまま答える。
「見た。
奪われた珠が、みずから巾着を解き、宙を舞い、伊賀を討った。
……あれは“力の暴発”ではない。明確にこちらの味方をした」
鉄之介は舌を鳴らし、眉を寄せる。
「珠に味方も敵もあるのかよ……。
いや、だとしたら……なんであいつらだけ狙った?
俺たちを巻き込んでもおかしくねぇ力だったぞ」
「……辰に呼応した」
忠壽の声が低く落ちた。
「金之助殿の珠と、同じ鼓動で脈打っていた。
あれは偶然か? それとも――」
言いかけたところで、障子がそっと開く。
お菊が、斎藤に金之助殿を任せたまま、夜気の冷たさを纏って裏庭へ出てこられた。
数珠を握った指が、わずかに震えている。
「偶然ではございません」
凛とした声音に、鉄之介が振り返る。
「お菊様……?」
お菊は朱の珠を見上げ、静かに続けた。
「今、ここにある珠は――
金之助殿の辰の珠と対になる珠。
古くから“双子の珠”とも呼ばれるものです」
忠壽の眉がわずかに動く。
「対……双子……?」
「はい」
お菊は一度息を整え、言葉を選ぶように語った。
「辰の珠は“導き、呼ぶ力”を持ちます。
そしてそれに対をなすのが――寅の珠」
鉄之介が目を細める。
「寅……虎の珠か」
「双子の珠とは、互いを探し、互いに呼応し、
二つ揃えば力を何倍にも増幅させると伝えられております」
朱の珠が、言葉に応えるように どくん と脈を落とした。
空気が一瞬、深く沈む。
「辰と寅は、片方だけでも強い。
けれど二つが近くにあれば、
片方の力がもう片方を押し上げ、さらにそれが返る――
際限なく“力が増す循環”が起きるのです」
忠壽は無言で珠を見ていた。
その瞳が、わずかに険しくなる。
「……それほどの力なら、なぜ今まで世に出なかった」
「強すぎるからです」
お菊の声が、少しだけ苦くなる。
「双子の珠は、器に宿した者にも過分な試練を与えると……。
扱える人間は限られ、
適合を誤れば、力に呑まれ、心も身体も壊れる。
そう言い伝わっております」
鉄之介が思わず低く唸った。
「だから、器でもねぇ伊賀の雑魚が触った途端……ああなったわけか」
「ええ。
しかも辰の珠が金之助殿に宿っていま、目覚めかけていた。
寅の珠はその鼓動に呼ばれ、
自ら動き、己を奪った者を討ったのです」
お菊は朱の珠から視線を外し、宿の中を見やる。
「今夜のことは、辰と寅が再び近づいた“兆し”。
……この先、双子の珠を狙う者はさらに増えるでしょう」
忠壽は静かに頷き、短く言った。
「承知した。
ならばなおさら、金之助殿の覚醒を見誤るわけにはいかぬ」
鉄之介が朱の珠を見上げ、ぽつりと笑うとも呻くともつかぬ声を漏らす。
「……珠が意思を持つってのは、気味が悪ぃ。
けどよ……あいつ、今夜は確かに“俺たちの側”に立ってた。
それが辰と寅の縁ってやつなら――
金之助が目ぇ覚ました時、どんな化け物になるんだか」
朱の珠は、ふわりと宙で旋回した。
まるでその言葉に答えるように、宿の方へゆっくりと近づいていく。
金之助殿の胸の鼓動と同じ速さで、
辰と寅――双子の珠が、重なり合おうとしていた。
朱の珠が宿の縁側近くにふわりと留まり、夜気の中で淡く脈を打っている。
その鼓動が聞こえるたび、金之助殿の熱の息が部屋の奥でふっと揺れた。
鉄之介は腕組みしたまま、珠と障子の向こうを交互に見やった。
さっきまでの興奮が抜けきらず、声にはまだ荒い火が残っている。
「……辰と寅、二つが揃えばヤバいほど強ぇ。
そこまでは分かった」
鉄之介は一度言葉を切り、忠壽とお菊様の顔を見て続けた。
「けどよ。
もし何かの拍子に、この寅の珠を敵に奪われたら――どうなる?」
忠壽の眼が細くなり、わずかに息を呑む。
その問いは、今夜の“勝ち”を一瞬で“負け”へひっくり返す可能性を孕んでいた。
お菊は数珠を握り直し、静かに首を振った。
「……双子の珠は、互いの存在を前提として力を巡らせます。
片方が欠ければ、循環は断たれてしまう」
鉄之介が眉をひそめる。
「循環が断たれると……?」
「お互いの力の作用が効かず、片方が暴走するか――
もしくは力が半減する可能性が高いと伝えられております」
珠が、どくん と一つ大きく脈を落とした。
まるで“離れるな”とでも言うように。
鉄之介は舌打ちし、夜空を仰いだ。
「……つまりよ。
辰が覚醒しても、寅が敵に渡ったら、力が不安定になったり、弱まったりする――ってことだな」
お菊様は肯いた。
「はい。双子の片翼を奪われた鳥のように……
力は定まらず、器である者を危険に晒します」
鉄之介は大槌の柄を握り、低く唸った。
「じゃあ結局、だ。
この寅の珠を扱える“こっち側の人間”を探して、
武器に同化させなきゃ――
金之助が覚醒しても、意味がねぇってことか?」
言い切った鉄之介の目には、焦りと苛立ちが混ざっていた。
今夜見た珠の“意志”が、彼の胸に得体の知れぬ不安を植えつけている。
だが、お菊様は静かに首を振る。
「……いえ。意味はございます」
「なんでだ?」
「辰の珠の強さは、並大抵のものではありません。
そして何より、金之助殿は――
珠を身体に取り込めるほど適応しておられる」
お菊様の視線が、障子の向こうの金之助殿へ向かう。
そこには、珠に呑まれる恐れと同じだけ、“器としての確かさ”への信頼が滲んでいた。
「辰だけでも、他者を圧倒するには十分かと。 ……覚醒は、金之助殿にとって武器であり、道を切り開く力です」
忠壽が低く補うように言う。
「辰が“導きの核”である以上、
辰の器が確立すれば、それだけで旅は一段進む。
寅が揃わぬからといって無意味ではない」
鉄之介は鼻を鳴らし、少しだけ肩の力を抜いた。
「……まあ、辰だけでも強ぇのは分かる。
けどよ、揃えりゃもっとヤバいんだろ」
「はい」
お菊様は小さく息を吸った。
「双子が揃えば、力は跳ね上がります。
だからこそ――」
お菊様は珠を見上げ、まっすぐに言った。
「早く寅の珠遣いを確定した方が安心ではあります」
夜の冷気が、言葉の間にすうっと入り込む。
鉄之介が苦い顔をした。
「……けど、見つかるかどうか、だよな」
お菊様の唇が、ほんのわずかに震えた。
「ええ……。
寅の器は“限られた血と縁”にしか応えぬとも伝わります。
導き合うはずの双子でさえ、
人の世の混乱に紛れれば、容易には……」
言葉がそこで途切れる。
不安を口にしたくない――そんな奥方の矜持が、声を抑えさせた。
鉄之介は朱の珠を睨みつけ、拳を握った。
「……なら探すしかねぇ。
敵に奪われる前に、こっちの“寅”を見つける」
忠壽は静かに頷いた。
「そのためにも、今は金之助殿を守り、辰を安定させる。
寅の導きが強まれば、器もいずれ姿を現すはずだ」
朱の珠が、どくん……どくん……
ゆっくりと鼓動を落としながら、宿の方へ向き直った。
まるで、
“探せ”と命じるように。
“必ず見つかる”と信じるように。
辰と寅の縁が、いま確かに動き始めていた。
夜の気配がようやく薄れ、裏庭の灰は湿った冷えを取り戻し始めていた。
鉄之介と忠壽、そして吉村ら家臣たちは、倒れた伊賀の忍びの始末に取りかかった。
血の匂いを残せば、町の者が騒ぐ。
何より――珠の気配に引かれる“次の影”を呼び寄せかねぬ。
忠壽の指図は短い。
「斎藤は宿を守っている。
吉村、二人で布を用意しろ。
……急げ。夜明けまでに片をつける」
「はっ!」
忍びの死体は灰にまみれ、闇に溶けるように横たわっていた。
鉄之介は鼻を鳴らしながら、そのひとつを乱暴に持ち上げる。
「まったく、手間ァかけさせやがって……」
灰を払うたび、黒装束の下からひしゃげた骨の感触が伝わる。
珠に壊された一体は、まるで中身を抜かれた獣の皮のようで、鉄之介ですら一瞬だけ顔をしかめた。
「……器じゃねぇってのは、こういうことかよ」
忠壽は答えず、黙して死体を布に包ませた。
血痕は灰で覆い、足跡はならした枝で消す。
夜明け前の仕事は淡々として、だが緊迫を秘めていた。
全てを片づけ終える頃には、
東の空がわずかに白み始めていた。
「戻るぞ」
忠壽が低く言う。
一行が宿へ戻ると、廊下の灯の下で斎藤が待っていた。
顔に疲れはあるが、目は冴えている。
「殿。金之助殿の様子に変わりはございません。
ですが……熱は引き、呼吸も落ち着き始めております」
「そうか」
忠壽の声に、わずかな安堵が混じった。
部屋へ入ると、金之助殿は布団の上で静かに横たわっていた。
さきほどまでの激しい熱の波は去り、額の汗も薄い。
胸の上下は穏やかで、顔色も少しだけ戻りつつある。
だが――瞼は閉じたままだ。
お菊様がその傍らに座し、数珠を膝に置いたまま、そっと金之助殿の手に触れていた。
指先がまだ熱を帯びているのを確かめるように。
「……容態は、安定しております」
お菊様が静かに言う。
「けれど、意識はまだ……」
忠壽は頷き、短く答えた。
「今はそれでよい。
辰が金之助殿に馴染む刻だ。
無理に起こすな」
「はい……」
鉄之介は何も言わず、金之助殿の枕元にどかりと座った。
大槌は壁に立てかけ、
腕を組み、視線だけを金之助殿の顔に置く。
夜の戦いが嘘のように、部屋は静かだった。
外では宿の客が起き出し、湯の音や足音が遠くに混じる。
だが鉄之介は微動だにしない。
お菊様がそっと声をかける。
「鉄之介殿……。休みなさい。あなたも傷を負っております」
「へいきだ」
鉄之介は短く返した。
「……こいつが起きるまで、ここにいる」
それきり、言葉はなかった。
金之助殿の呼吸の間に、鉄之介の耳はずっと、微かな鼓動を聞いていた。
――あれは、夢じゃねぇ。
――こいつは、ほんとに辰の器なんだ。
灯が落ち、また夜が巡る。
忠壽と家臣たちは交代で見張りに立ち、三平と平八は端で丸くなって眠った。
鉄之介だけが、金之助殿の傍らに座したまま、一歩も動かず夜を明かした。
炎も声もない静けさの中、
ただ、金之助殿の胸の奥で脈打つ朱の鼓動だけが、ゆっくりと、確かに“目覚め”へ向かっていた。
第九話 帰還
翌朝。
宿の外が白む頃、廊下に慌ただしい足音が走った。
斎藤が戸を叩き、声を落として告げる。
「殿。館林より使いが参っております」
忠壽がすぐに表へ出ると、
旅装束の若い使者が土埃を払う暇もなく膝をついた。
「白河藩・本多様に。館林城より急ぎの書状にございます」
差し出された紙は、短い。
墨の線は乱れなく、ただ一行。
――すぐに戻られよ。
その下に、館林城主の印が押されていた。
忠壽は無言でそれを見つめた。
内容が簡素であるほど、命の重さは増す。
「……事情は?」
使者は首を振る。
「それ以上は……私にも。
ただ“一刻を争う”と」
「承知した。下がれ」
使者が去ると、忠壽は部屋へ戻った。
金之助殿は夜のうちに熱が引き、
いまは布団から半身を起こして水を飲めるほどに戻っている。
意識もしっかりしていて、目の奥の揺らぎは薄い。
「……お侍様、何かございましたか」
金之助殿が弱い声で問う。
忠壽は書状を差し出した。
「館林より戻れとの命だ。
理由は書かれておらぬ」
お菊様が眉をひそめ、印をそっと確かめる。
「城主の印……間違いなく館林から……。
しかし、こうも急に……」
鉄之介が鼻を鳴らした。
「また面倒くせぇことが起きたんじゃねぇの?
せっかく金之助が落ち着いたってのに、休ませる暇もねぇのかよ」
忠壽は鉄之介を一瞥し、淡々と言う。
「命は命だ。
館林が呼ぶなら戻る」
「へいへい、武士は大変だな」
鉄之介は肩をすくめたが、目だけは鋭かった。
昨夜の襲撃と双子の珠の話が、頭から離れていない。
金之助殿がゆっくりと立ち上がる。
「……俺も、行く。
馬に乗れると思う……大丈夫だ」
お菊様がすぐに寄り添い、支える。
「無理はなさらぬでください。
ですが……辰があなたに馴染み始めている今、ここで立ち止まるわけにも参りませんね」
忠壽が頷いた。
「全員の馬を用意しろ。
まだ館林から遠く離れたわけではないが、
ここからでも半日はかかる距離だ。急ぐぞ」
吉村ら若い家臣が動き、斎藤が旅支度をまとめ始める。
三平と平八は怯えたまま荷を背負い、口を利くこともできない。
鉄之介は最後までぶつぶつ言いながらも、大槌を背負い直した。
「ったく……戻れ戻れって、城ってのは人を走らせるのが好きだな。
どうせ戻ったらまた黒屍人だの伊賀だの――」
「鉄之介」
忠壽が低く遮る。
その声だけで、鉄之介の文句は喉で止まった。
「分かってるよ。
……行きゃいいんだろ、行きゃ」
忠壽はそれ以上叱らず、ただ短く言った。
「今は急ぐ。
館林で何が起きていようと、
我らが戻らねば始まらぬ」
一行は宿を出た。
朝の灰の道は冷たく、昨夜の戦いが夢だったかのように静かだ。
だが馬の蹄が鳴るたび、
金之助殿の胸の奥の朱は、確かに“呼ばれている”ように脈を打った。
館林へ――
再び、運命の渦へ戻るために。
館林へ戻る前に、一行は道を少し外れ、三平と平八の家へ向かった。
壬生宿からさほど離れてはいない百姓家だったが、ここ数日の騒ぎが嘘のように、家の周りは静まり返っていた。
戸口に立った老夫婦の顔は、やつれながらも、二人の息子の姿を見た瞬間に崩れた。
「三平ぇ……平八ぃ……!」
母親が駆け寄ろうとして膝をつき、父親は言葉にならぬ声で額を押さえた。
三平は弟の背を軽く押し、土間に下りて深く頭を下げる。
「ただいま……戻りました」
平八も、珍しく小さくなって頭を下げた。
「……ごめん、父ちゃん、母ちゃん……」
老夫婦はそれだけで泣き伏した。
倒れかけた母を支えながら、三平がこちらへ向き直り、畳に額を擦りつけた。
「旦那様……鉄之介様……奥方様……
このたびは、命を助けてくださって……まことに、まことに……!」
言葉が震えて続かない。
平八も兄にならって土に手をつき、頭を下げた。
「俺……悪かった。
あんたらが来てくれなきゃ、俺……」
鉄之介は鼻を鳴らし、照れ隠しのように顔を背けた。
「いいから、もう二度とあんな真似すんな。
生きてりゃそれでいい」
お菊様は柔らかく微笑み、静かに頷かれる。
「あなたたちが無事で、本当に良うございました。
これからは、どうか命を粗末になさらぬように」
「は、はい……!」
三平は涙を拭いながら、何度も何度も頭を下げた。
忠壽は一歩前へ出た。
懐から布に包んだ大小を取り出す。
質屋の店主から取り上げ、鉄之介が持ち帰ったあの刀だ。
忠壽はそれを三平に差し出した。
「これを持て」
三平は目を見開き、慌てて手を振る。
「だ、旦那様! そ、それは侍の……!
とても百姓が持ってよいものでは――」
「よい」
忠壽の声は静かだが、拒む余地がない。
「侍は死に、持ち主もいない。
お前たちの家が困窮しているのは見て分かる」
三平の手が震えながら、大小を受け取った。
忠壽は言い含めるように、淡々と続ける。
「しばらく大事にしまっておけ。
どうしても金が必要なときは、最前の店ではない質屋に見せて売るとよい」
三平の目から、また涙があふれた。
「だ、旦那様……!
こんな……こんなもんまで……!」
平八も唇を噛み、頭を落とす。
「……ありがと、ございます……」
忠壽はその言葉を受けても表情を変えず、ただ一度だけ頷いた。
「珠のことは忘れろ。
お前たちの命が第一だ」
「は……! はい……!」
三平は何度も額を床に擦りつけ、老夫婦もまた泣きながら礼を繰り返した。
別れ際、鉄之介が平八の肩を乱暴に叩く。
「生きろよ、ガキ。
次に会うときゃ、もう少し賢くなってろ」
「……うん!」
平八は涙をこらえながら、力強く頷いた。
一行が家を離れるときも、
三平と平八、老夫婦は道端に膝をつき、姿が見えなくなるまで深く頭を下げ続けていた。
感謝の声が風に消えていく。
忠壽は前を見据え、馬の手綱を締めた。
「――行くぞ。館林へ戻る」
鉄之介が小さく舌打ちする。
「ったく、城に戻りゃ戻ったでまた面倒だろうがな……」
「鉄之介」
忠壽が低く名を呼んだだけで、文句は止まる。
「……分かってるよ。行きゃいいんだろ、行きゃ」
灰の道を進む蹄の音が、やがてひとつの列になった。
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礼を受け取ったまま、一行は再び運命の渦へ向かっていった。
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