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第三章 新旧パーティ逆転

決着

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「――ヤマトくんは傷つけさせない!」

「「なっ!?」」 

 そのとき、小柄な人影が路地裏に現れたかと思うと、それはとてつもない跳躍力で跳び、ヤマトの前へ降り立った。
 
「くっ!」

「邪魔だぁっ!」

 二人が左右から同時に剣を振り下ろすが――

 ――ガキィィィンッ!

 右の大剣も、左の片手剣も、同時に左右の双剣で受け止められていた。

「バ、バカなっ!?」

「なんだこの武器はっ!?」

 渾身の一撃を、少女の細い片腕に受け止められて驚愕の表情を浮かべる二人。
 しかし少女は、難なく二人を押し返すと、横顔をヤマトへ向け可愛らしくウインクした。

「……お待たせ、ヤマトくん」

 強力無比な力を秘めた双剣を装備し、ヤマトの前に現れたのはハンナだ。
 頼もしいその姿に、ヤマトは動じることなく不敵な笑みを浮かべる。

「バッチリだよ、ハンナ」

「バ、バカな……」

「――お前の相手は私だ!」

 焦るマキシリオンの背後から凛々しい声が響き、彼は反射的に背後へ大剣を薙ぎ払う。
 しかし、疾風のごとく急接近したラミィの長剣によって弾かれた。
 彼女は両手で柄を握り、その刃の切っ先をマキシリオンへ向けると叫んだ。
 
「よくもヤマトに……大事な仲間に手を出したなぁっ!」

「くっ、クソがぁぁぁっ!」

「邪魔だ、どけ!」

 マキシリオンがラミィへ、ライダがハンナへ、剥き出しの殺意と共に武器を振るう。

「い、いったいどういうことですの!?」

 彼らを援護しようと、スノウが弓矢の狙いを定めるが――

 ――ヒュンッ!

「っ!?」

 背後から飛来した矢が足をかすめ、膝をつく。
 その直後、スノウの額には汗が浮かび、歯をガタガタを震わせ始めた。
 正確に彼女を射たのは、シルフィだ。

「麻痺の矢です。モンスターなら一発当てただけでは痺れませんが、人が相手なら肌をかすめるだけで十分です」

「わ、私が、こんな……」

 スノウは声を震わせながら、令嬢にあるまじき歪んだ表情でヤマトをにらみつけるが、やがて全身から力が抜けバタリとうつぶせに倒れた。

「ぐぁぁぁっ!」

「がはっ!」

 すぐにマキシリオンとライダも弾き飛ばされ、倒れたスノウの前へ転がる。
 マキシリオンは、大剣を地面へ突き片膝を立てると、ヤマトをにらみつけた。

「な、なぜだ!? こいつらはさっきクエストへ行ったはず……」

「それは、君たちをおびき寄せるためのフェイントだよ」

「バカなっ!? なぜ俺たちが、お前を襲うことを知って――」

「――カァッ!」

「いだっ!」

 そのとき、上空からピー助が舞い戻り、マキシリオンのつむじをくちばしで突き刺した。
 そして優雅に羽ばたき、ヤマトの肩へ乗る。
 すべてピー助が盗み聞きしていたというわけだ。

「ちぃっ、そういうことかよ……」

「なぁ、マキシリオン、ライダ、スノウ、これでこりただろう? 一度、自分たちの身の丈にあった生活をするように見直すんだ。そうすればまた――」

「――ふざけるな! 財布の管理しかできない無能が、何様のつもりだ!?」

「ライダ?」

「僕たちは最強のハンターパーティなんだ! お前ごときが仲間でいられたこと自体が奇跡なんだよ! 身の丈にあってないのはお前のほうだ。だから、今までの礼として、金を渡せよっ!」

 ライダは、傷だらけになった顔を醜く歪ませ叫ぶ。 
 もう、最強パーティとして町の女の子たちからキャーキャー言われていた彼の面影はない。
 ヤマトが口を開こうとするが、ラミィが遮るように剣の切っ先をライダへ向けて告げた。

「本当に救えない人たちだね」

 ライダは彼女をにらみつけるが、騎士然としていて堂々とした眼差しに心を折られ、ガックリとうな垂れる。

 これで決着はついた。
 後は彼らをどうするかというところだったが、そこへ思わぬ乱入者が現れる。

「――お前たち、いったいなにをやっている!?」

「え? 騎士団?」

 ぞろぞろとやって来たのは、この町の治安維持を目的とする国直属の騎士団だった。
 ヤマトもラミィたちも、突然のことに固まる。
 事前に情報をつかんでいない限り、こんなタイミングで路地裏へやって来るなどまずありえないのだ。

「ハンターパーティのソウルヒートと、トリニティスイーツだな?」

「は、はい……」

 隊長らしき長身の男の問いに、ヤマトは唖然と頷く。
 すると、ひざまづいていたマキシリオンがニィッと頬をつり上げた。

「そ、そうです! 俺たちが歩いていたら、突然こいつらに襲われて!」

 ヤマトたちは絶句する。
 この期におよんで、マキシリオンはあきらめず、この状況を利用しようとしているのだ。
 騎士たちから見れば、明らかにヤマトたちが加害者でマキシリオンたちが被害者。
 簡単にこの印象をくつがえせそうにない。
 
 しかし、騎士の男は目を丸くして告げた。

「そうだったのか? 俺が聞いている話と違うな」

「へ?」

 そのとき、騎士団長の後ろから歩み寄って来たのは、マヤだった。
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