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第四章 『ヤマト運用商会』結成
出会い
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翌日、ヤマトは資産管理代行の事業計画を紙へ詳細に書くと、それを持って金庫番を訪れた。
ヤマトの融資担当ロンドは、商会を立ち上げると聞いて目を丸くしていたが、詳細な事業計画を聞くと満足げに頷いた。
「なるほど、実に素晴らしい発想ですね」
「ありがとうございます。それでは……」
「はい、もちろん融資させて頂きますよ。これまでヤマト様の融資担当をしてきて、資産運用におけるあなたの手腕は、よく理解しているつもりですから」
ロンドが融資の依頼を快諾し、ヤマトは内心安堵する。
商会を立ち上げるには、まず拠点となる店を買わなければならず、他にも帳簿作成やら顧客リストの整理やらを管理するための備品や人件費、掲示板へ掲載するための広告宣伝費など、様々な資金が必要となるのだ。
それに、顧客の資産を運用する上で投資先や取引商品を選定するのに、ピー助たちに協力してもらうのでタダ働きというわけにもいかない。
給料の代わりにそれなりの食事を与えるなど、礼を尽くすのが妥当だろう。
「よろしくお願いします」
「しかし、うちとは競合になりそうですねぇ。金融の知識がない多くの方々は、他人に資産を運用してもらうなど危険だと考えるでしょうが、実際のところは金庫番の預金口座に眠らせておくより、ヤマト様に預けて金に働かせたほうが何倍もいい」
「インフレへのヘッジにもなりますからね」
インフレとは、物の価値が上がり貨幣の価値が下がることだ。
たとえば、インフレが進むと、今まで100ウォルで買えていたものが110ウォルでないと買えなくなる。
つまり、資産を眠らせておけば、いざインフレが進行したときに価値が下がってしまうのだ。
しかもこのインフレ自体、適度な上昇率であれば経済活動にはプラスとなるため、政府もインフレ上昇を目指した政策をとっている。
「おっしゃる通り。時が経つにつれ、多くの人々が気付くでしょう」
「ご迷惑をおかけします」
「いえいえ、私たちもあなたのおかげで色々と儲けさせて頂きました。他の親しいお客様にも、ヤマト様の商会のことをご紹介させて頂きますよ」
「そこまでしてくださって、本当にありがとうございます」
ヤマトは深く頭を下げる。
その後、融資金の手続きを完了させて店を出た。
「………………?」
外へ出てすぐ、ヤマトは視線を感じた。
しかし周囲を見回してみても、道行く人ばかりでこちらを見ている者はいない。
不気味だが、特に負の感情を向けているような雰囲気でもなさそうだ。
「……そうだっ」
気にせず歩き出そうとするが、知り合いの店にも挨拶しようと思いつく。
ヤマトは宿の方向とは逆方向へと歩き出した。
商会の建物と雑貨屋との間にできた路地の横を通り過ぎようとした、そのとき――
「――あっ……」
小さな声が耳に届いた。
ヤマトが横を見ると、黒髪サイドテールの美少女と目が合う。
仄暗い路地でも綺麗な色白の肌と紅い瞳は闇に溶けず、上半身の半分より下は鎖帷子のみで下はミニスカートという露出多めな黒装束を着込んでいるが、口元はスカーフで覆っているため表情は分かりづらい。
彼女はヤマトと目が合うと、目を見開き固まった。
「ヤ、ヤマト様っ……」
「え?」
今度はヤマトが驚く番だった。
彼女は確かに彼の名を呼んだが、ヤマト本人は面識がない。
ヤマトは不思議そうに首を傾げて問う。
「君、どこかで会ったっけ?」
「あっ、いえ、あのぅ……」
少女は混乱したように目を回しながら後ずさる。
しどろもどろになりつつ顔を赤く染めていき、目をギュッとつむって俯いた。
ヤマトが「ど、どうしたの?」と近づこうとすると、彼女はサッときびすを返し、路地の奥へと逃げて行ってしまった。
「えぇ……」
ヤマトは初対面の少女の不可解な反応に困惑するが、別に悪意のようなものは感じなかったので、今は良しとすることにした。
ヤマトの融資担当ロンドは、商会を立ち上げると聞いて目を丸くしていたが、詳細な事業計画を聞くと満足げに頷いた。
「なるほど、実に素晴らしい発想ですね」
「ありがとうございます。それでは……」
「はい、もちろん融資させて頂きますよ。これまでヤマト様の融資担当をしてきて、資産運用におけるあなたの手腕は、よく理解しているつもりですから」
ロンドが融資の依頼を快諾し、ヤマトは内心安堵する。
商会を立ち上げるには、まず拠点となる店を買わなければならず、他にも帳簿作成やら顧客リストの整理やらを管理するための備品や人件費、掲示板へ掲載するための広告宣伝費など、様々な資金が必要となるのだ。
それに、顧客の資産を運用する上で投資先や取引商品を選定するのに、ピー助たちに協力してもらうのでタダ働きというわけにもいかない。
給料の代わりにそれなりの食事を与えるなど、礼を尽くすのが妥当だろう。
「よろしくお願いします」
「しかし、うちとは競合になりそうですねぇ。金融の知識がない多くの方々は、他人に資産を運用してもらうなど危険だと考えるでしょうが、実際のところは金庫番の預金口座に眠らせておくより、ヤマト様に預けて金に働かせたほうが何倍もいい」
「インフレへのヘッジにもなりますからね」
インフレとは、物の価値が上がり貨幣の価値が下がることだ。
たとえば、インフレが進むと、今まで100ウォルで買えていたものが110ウォルでないと買えなくなる。
つまり、資産を眠らせておけば、いざインフレが進行したときに価値が下がってしまうのだ。
しかもこのインフレ自体、適度な上昇率であれば経済活動にはプラスとなるため、政府もインフレ上昇を目指した政策をとっている。
「おっしゃる通り。時が経つにつれ、多くの人々が気付くでしょう」
「ご迷惑をおかけします」
「いえいえ、私たちもあなたのおかげで色々と儲けさせて頂きました。他の親しいお客様にも、ヤマト様の商会のことをご紹介させて頂きますよ」
「そこまでしてくださって、本当にありがとうございます」
ヤマトは深く頭を下げる。
その後、融資金の手続きを完了させて店を出た。
「………………?」
外へ出てすぐ、ヤマトは視線を感じた。
しかし周囲を見回してみても、道行く人ばかりでこちらを見ている者はいない。
不気味だが、特に負の感情を向けているような雰囲気でもなさそうだ。
「……そうだっ」
気にせず歩き出そうとするが、知り合いの店にも挨拶しようと思いつく。
ヤマトは宿の方向とは逆方向へと歩き出した。
商会の建物と雑貨屋との間にできた路地の横を通り過ぎようとした、そのとき――
「――あっ……」
小さな声が耳に届いた。
ヤマトが横を見ると、黒髪サイドテールの美少女と目が合う。
仄暗い路地でも綺麗な色白の肌と紅い瞳は闇に溶けず、上半身の半分より下は鎖帷子のみで下はミニスカートという露出多めな黒装束を着込んでいるが、口元はスカーフで覆っているため表情は分かりづらい。
彼女はヤマトと目が合うと、目を見開き固まった。
「ヤ、ヤマト様っ……」
「え?」
今度はヤマトが驚く番だった。
彼女は確かに彼の名を呼んだが、ヤマト本人は面識がない。
ヤマトは不思議そうに首を傾げて問う。
「君、どこかで会ったっけ?」
「あっ、いえ、あのぅ……」
少女は混乱したように目を回しながら後ずさる。
しどろもどろになりつつ顔を赤く染めていき、目をギュッとつむって俯いた。
ヤマトが「ど、どうしたの?」と近づこうとすると、彼女はサッときびすを返し、路地の奥へと逃げて行ってしまった。
「えぇ……」
ヤマトは初対面の少女の不可解な反応に困惑するが、別に悪意のようなものは感じなかったので、今は良しとすることにした。
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