40 / 58
第五章 伝説の大投資家
嫌な予感
しおりを挟む
それから毎日、少しずつではあったが、ヤマト運用の顧客と預かり資金は増えていった。
預かった資金の運用も、小鳥たちの集めた情報をもとに、緻密な計画を立て順調に進めているところだ。
そんなある日の午後、ヤマトは誰もいない店内で受付席の前に座り、頬杖をついてぼんやりしていた。
「師匠、手紙読んでくれたかなぁ」
「クェ~」
気の抜けるような呟きに、ピー助が力なく鳴いて答えた。
店が落ち着いてきてから、ヤマト運用商会を立ち上げたことを報告すべく、師匠へ手紙を送ったのだ。
いつものごとく返事はないが、彼女もどこか遠くで活躍しているのだと信じている。
願わくば、彼女にも客として来てもらいたいものだが、それは期待が過ぎるというものだ。
「――こんにちはー!」
油断しているところに突然の来客があり、ヤマトは慌てて立ち上がる。
ピー助も突然のことでヤマトの肩から転がり落ちた。
「いらっしゃいませ!」
「おっ、いたいた~やぁヤマト、繁盛してるかい?」
「グレイスさん! お久しぶりです。来てくれたんですね!」
見知った顔を見て、ヤマトは嬉しそうに声を弾ませた。
来店したのは、隣町で店を開いている若い鍛冶屋だ。
ヤマトのソウルヒート時代、厳しい寒波が訪れ氷属性の魔物が大量発生することを読んだヤマトの提案を受け、彼は火属性の武器を数週間早く大量生産し始めた。そして想定通り火属性武器の需要は上がり、二人で大儲けしたという経緯がある。
「また君に儲けさせてもらうよ」
「ご利用ありがとうございます!」
グレイスは手続きの書類を書き終えると、少し真剣な表情になってたずねてきた。
「ところでヤマト、君は一時期、トリニティスイーツというパーティにいたと聞いてたけど……」
「へ? 確かにそうですけど、今はもうパーティから手を引きましたよ?」
いったいなんの話かとヤマトは首を傾げる。
すると、グレイスはホッとしたように少し肩の力を抜いた。
「そうか。それじゃあ今回の件、悪影響はないかな?」
「どういうことですか?」
「もしかしてまだ知らないのか? トリニティスイーツの『ハンター活動休止措置』を」
「……は?」
突然の言葉にヤマトは頭が真っ白になる。
嫌な予感をひしひしと感じた。
「実は昨日、トリニティスイーツは他のパーティをだまし打ちにして、ライバルを減らすような卑怯なパーティだって、ギルドが公表して活動休止にしたんだ」
「そ、そんなバカな……」
信じられなかった。
そもそもその話は、自分のよく知るパーティのことなのかすら疑わしい。
しかし、もしなにかの冤罪でそんな状況に追いやられているのだとしたら、ただ事ではない。
「グレイスさん、教えてくれてありがとうございます!」
「おぅ、お役に立てたなら良かったよ。それじゃ、運用のほうはよろしく頼むわ」
グレイスは空気を読んだようで、「それじゃ、俺は行くわ」と軽い足取りで去って行く。
ヤマトは慌てて机に置いていた書類を片付け始めた。
そしてすぐに店を閉めて臨時休業とし、ギルドの仲介所へと駆け出すのだった。
預かった資金の運用も、小鳥たちの集めた情報をもとに、緻密な計画を立て順調に進めているところだ。
そんなある日の午後、ヤマトは誰もいない店内で受付席の前に座り、頬杖をついてぼんやりしていた。
「師匠、手紙読んでくれたかなぁ」
「クェ~」
気の抜けるような呟きに、ピー助が力なく鳴いて答えた。
店が落ち着いてきてから、ヤマト運用商会を立ち上げたことを報告すべく、師匠へ手紙を送ったのだ。
いつものごとく返事はないが、彼女もどこか遠くで活躍しているのだと信じている。
願わくば、彼女にも客として来てもらいたいものだが、それは期待が過ぎるというものだ。
「――こんにちはー!」
油断しているところに突然の来客があり、ヤマトは慌てて立ち上がる。
ピー助も突然のことでヤマトの肩から転がり落ちた。
「いらっしゃいませ!」
「おっ、いたいた~やぁヤマト、繁盛してるかい?」
「グレイスさん! お久しぶりです。来てくれたんですね!」
見知った顔を見て、ヤマトは嬉しそうに声を弾ませた。
来店したのは、隣町で店を開いている若い鍛冶屋だ。
ヤマトのソウルヒート時代、厳しい寒波が訪れ氷属性の魔物が大量発生することを読んだヤマトの提案を受け、彼は火属性の武器を数週間早く大量生産し始めた。そして想定通り火属性武器の需要は上がり、二人で大儲けしたという経緯がある。
「また君に儲けさせてもらうよ」
「ご利用ありがとうございます!」
グレイスは手続きの書類を書き終えると、少し真剣な表情になってたずねてきた。
「ところでヤマト、君は一時期、トリニティスイーツというパーティにいたと聞いてたけど……」
「へ? 確かにそうですけど、今はもうパーティから手を引きましたよ?」
いったいなんの話かとヤマトは首を傾げる。
すると、グレイスはホッとしたように少し肩の力を抜いた。
「そうか。それじゃあ今回の件、悪影響はないかな?」
「どういうことですか?」
「もしかしてまだ知らないのか? トリニティスイーツの『ハンター活動休止措置』を」
「……は?」
突然の言葉にヤマトは頭が真っ白になる。
嫌な予感をひしひしと感じた。
「実は昨日、トリニティスイーツは他のパーティをだまし打ちにして、ライバルを減らすような卑怯なパーティだって、ギルドが公表して活動休止にしたんだ」
「そ、そんなバカな……」
信じられなかった。
そもそもその話は、自分のよく知るパーティのことなのかすら疑わしい。
しかし、もしなにかの冤罪でそんな状況に追いやられているのだとしたら、ただ事ではない。
「グレイスさん、教えてくれてありがとうございます!」
「おぅ、お役に立てたなら良かったよ。それじゃ、運用のほうはよろしく頼むわ」
グレイスは空気を読んだようで、「それじゃ、俺は行くわ」と軽い足取りで去って行く。
ヤマトは慌てて机に置いていた書類を片付け始めた。
そしてすぐに店を閉めて臨時休業とし、ギルドの仲介所へと駆け出すのだった。
0
あなたにおすすめの小説
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる