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第五章 伝説の大投資家
ドランの悪事
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ヤマトたちは、肩を落としながら薄暗くなった通りを歩いていく。
仲間たちの待つ広場へはもう少しだ。
「しかし振り出しに戻ってしまったなぁ」
「仕方ないよ。パーティの資金繰りのほうはどう?」
「マヤと相談したんだけど、今の装備を売って貯金を切り崩していけば、しばらくは大丈夫」
「そっか。でも、あまりそれはしたくないね」
「ええ」
確かに高ランクの装備を売れば、高く売れるし維持費は浮く。
しかしそれと同時に、ハンターとして復帰するのが厳しくなるということ。
余剰資金を切り崩していけば、高品質な装備や消耗品を買いそろえることは厳しくなって難易度の高いクエストをクリアできなくなり、また底辺ハンターに戻ってしまうのだ。
それではソウルヒートの辿った末路と同じ。
そこでヤマトは、一つの提案をする。
「もし良かったら、うちの商会で働かないか? 今の運用状況ならそれなりの収益が見込めるし、給料だってちゃんと払えるから」
幸い、金庫番からの融資金も十分にある。
ラミィは一瞬目を輝かせたが、すぐに眉尻を下げて目をそらした。
「で、でも迷惑をかけるわけには……」
「大丈夫さ。今回の件だってすぐにカタがつくだろうし」
「……分かった。みんなに相談してみるよ」
「うん」
ヤマトは快く頷いた。
そこでローブの袖を引っ張られていることに気付く。
「ん? アヤ? どうかした?」
「ヤマト様、少しお話が」
そう言って小声でささやいてくるアヤだが、ちらちらとラミィを見て悩むそぶりを見せる。
彼女に聞かれたくない話ということだろう。
「ごめんラミィ。先に戻ってて」
「うん、分かった……ヤマト」
「ん?」
「色々とありがとう。君には本当に世話になりっぱなしだね」
「気にしないで。困ったときはお互いさまだから」
「……本当にありがとう。それじゃ、また後で」
ラミィが早歩きで去って行くと、ヤマトはアヤに向き直った。
「それで、どうしたの?」
「実は先ほどの屋敷でのことなのですが……」
「なにかあった?」
「ドラン・ドグマンの背後に控えていたメイドたち……私、知ってます」
「あのメイドたちを?」
「彼女たちはかつて、奴隷商で一緒にいた奴隷たちです」
「な、なんだって!?」
ヤマトは思わず声を上げ、驚愕に目を見開いた。
同時に怒りと嫌悪感が湧いてくる。
貴族ともあろう者が奴隷を買うだなんて、あっていいわけがない。
奴隷の売買は、この国では違法な商売なのだから、貴族なら見つけた時点で摘発するのが筋というもの。
彼女たちを奴隷の生活から助けるため……というにしても、あのドランの雰囲気を考えると想像しがたい。
「僕は間違っていなかったか……」
ドランは印象通りの男だった。
なにかしら裏で悪事でも働いていそうだと直感していたが、まさか女奴隷を買っていたとは。
そうなるとますます、シルフィを彼に近づけさせたくない。
考え込むヤマトへ、アヤは言った。
「ヤマト様、このことは、ハンナには言わないでほしいのです」
「どうして?」
「相手は貴族。たとえ、かつての仲間たちがそこにいたとしても、なにもできはしません。むしろ、今の不安な状況では、精神的な負荷を増やしてしまうだけです」
「……分かった」
ヤマトは悔しげに唇をかみ約束する。
権力を前になにもできない自分の無力がただただ悔しかった。
仲間たちの待つ広場へはもう少しだ。
「しかし振り出しに戻ってしまったなぁ」
「仕方ないよ。パーティの資金繰りのほうはどう?」
「マヤと相談したんだけど、今の装備を売って貯金を切り崩していけば、しばらくは大丈夫」
「そっか。でも、あまりそれはしたくないね」
「ええ」
確かに高ランクの装備を売れば、高く売れるし維持費は浮く。
しかしそれと同時に、ハンターとして復帰するのが厳しくなるということ。
余剰資金を切り崩していけば、高品質な装備や消耗品を買いそろえることは厳しくなって難易度の高いクエストをクリアできなくなり、また底辺ハンターに戻ってしまうのだ。
それではソウルヒートの辿った末路と同じ。
そこでヤマトは、一つの提案をする。
「もし良かったら、うちの商会で働かないか? 今の運用状況ならそれなりの収益が見込めるし、給料だってちゃんと払えるから」
幸い、金庫番からの融資金も十分にある。
ラミィは一瞬目を輝かせたが、すぐに眉尻を下げて目をそらした。
「で、でも迷惑をかけるわけには……」
「大丈夫さ。今回の件だってすぐにカタがつくだろうし」
「……分かった。みんなに相談してみるよ」
「うん」
ヤマトは快く頷いた。
そこでローブの袖を引っ張られていることに気付く。
「ん? アヤ? どうかした?」
「ヤマト様、少しお話が」
そう言って小声でささやいてくるアヤだが、ちらちらとラミィを見て悩むそぶりを見せる。
彼女に聞かれたくない話ということだろう。
「ごめんラミィ。先に戻ってて」
「うん、分かった……ヤマト」
「ん?」
「色々とありがとう。君には本当に世話になりっぱなしだね」
「気にしないで。困ったときはお互いさまだから」
「……本当にありがとう。それじゃ、また後で」
ラミィが早歩きで去って行くと、ヤマトはアヤに向き直った。
「それで、どうしたの?」
「実は先ほどの屋敷でのことなのですが……」
「なにかあった?」
「ドラン・ドグマンの背後に控えていたメイドたち……私、知ってます」
「あのメイドたちを?」
「彼女たちはかつて、奴隷商で一緒にいた奴隷たちです」
「な、なんだって!?」
ヤマトは思わず声を上げ、驚愕に目を見開いた。
同時に怒りと嫌悪感が湧いてくる。
貴族ともあろう者が奴隷を買うだなんて、あっていいわけがない。
奴隷の売買は、この国では違法な商売なのだから、貴族なら見つけた時点で摘発するのが筋というもの。
彼女たちを奴隷の生活から助けるため……というにしても、あのドランの雰囲気を考えると想像しがたい。
「僕は間違っていなかったか……」
ドランは印象通りの男だった。
なにかしら裏で悪事でも働いていそうだと直感していたが、まさか女奴隷を買っていたとは。
そうなるとますます、シルフィを彼に近づけさせたくない。
考え込むヤマトへ、アヤは言った。
「ヤマト様、このことは、ハンナには言わないでほしいのです」
「どうして?」
「相手は貴族。たとえ、かつての仲間たちがそこにいたとしても、なにもできはしません。むしろ、今の不安な状況では、精神的な負荷を増やしてしまうだけです」
「……分かった」
ヤマトは悔しげに唇をかみ約束する。
権力を前になにもできない自分の無力がただただ悔しかった。
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