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第五章 伝説の大投資家
怪しい噂
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ラミィは商会を出て騎士に戻った。
突然のことだったが、ハンナもシルフィもマヤも、引き止めることはできず、笑顔で送り出した。
しかし彼女の選択が正しかったのかは、誰にも分からない。
それからは店に暗い空気が満ちた。
ラミィの不在は、仲間たちの士気を大きく下げたのだ。
それは彼女の存在がみんなの中で大きいことの証明であり、それを感じることができてヤマトは少し嬉しかった。
しかし状況はいまだ最悪。
顧客の増加も預かり資金の増加もこれ以上望めず、運用も損はしていないものの大きな利回りを期待できる状況でもない。
ヤマトは、マヤたちに店を任せ外へ出ていた。
「今日は遠出するかな」
「…………」
なにげない呟きでは、後ろを歩くアヤは反応しない。
ヤマトはため息を吐き立ち止まった。
「アヤ」
「……はい、ヤマト様」
「なにも良い手が浮かばないんだ」
悲しげに眉尻を下げながら告げる。
それもなにげない言葉だった。
それでももしかすると、アヤならなにか良い案を出してくれるのではないか、そう期待した。
「ヤマト様なら、どんな窮地でも乗り切ることができます」
「……かいかぶりすぎだよ」
「いいえ、あなたは絶望から私を救ってくれました。だから信じています」
「そっか……」
ヤマトは肩を落とすと、再び当てもなく歩き出した。
すると肩の上でピー助が鳴く。
「クェェェ……」
「仕方ないよ。今は、そういう状況なんだから」
ピー助は、なにも有益な情報を持って帰って来れなったことを詫びていた。
いつも元気な彼がしょんぼりしていると、ヤマトも気が滅入る。
「――ヤマトくん!」
突然名を呼ばれ顔を上げると、ハンナが立っていた。
店番をしているはずのハンナが。
肩で息をして焦燥の表情を浮かべており、ヤマトは表情を引きしめた。
「ハンナ?」
「店が大変なの! 早く戻って来て!」
彼女はそう言ってヤマトの手を引き走り出した。
「店にいったいなにが!?」
「話は後!」
「――っ!」
すぐに店へ到着し中へ入ると、数人の男たちが受付のマヤとシルフィへ詰め寄っていた。
よく見ると、中小商会の会長であったり店主であったりと、みんな契約済の顧客だ。
ヤマトはわけが分からず、彼らの後ろから声をかける。
「いったいなにがあったんですか!?」
「あ、あんたは会長の!」
「なぁ頼むよ、金を返してくれ」
「ど、どういうことですか?」
思わぬ言葉に目を丸くしたヤマトは聞き返す。
すると、彼らは困ったように顔を見合わせ、言いずらそうに告げた。
「実は、あんたの商売は高い手数料を取る割にまったく儲からないって聞いたんだ」
「……は?」
「だから、客から金を取るだけの詐欺まがいの商売だって知ったんだよ」
「ちょっ、ちょっと待ってください! それは酷い誤解ですよ!」
「いやぁ、俺たちも金を預けるだけで儲かるなんて、そんなおいしい話があるはずないと本当は気付けたはずなんだけどなぁ……口車に乗っちまった自分の責任だ。手数料の分は支払うから、金を回収させてくれよ」
「俺も頼む!」
「わ、私も!」
「そんなぁっ……」
ヤマトは唖然とした。
いったいなにが起こっているというのか。
しかしこんな人数の預り金を決済してしまえば、現状では収支がマイナス。
それに加えて、ただでさえ少ない手元の営業資金が減ってしまう。
そう簡単に彼らの要望をのむわけにはいかなかった。
「待ってください! いったい誰からそんなことを言われたんですか!?」
「知り合いだよ」
「その方は、実際に損をされたんですか?」
「そんなの知らないよ。ただ、ヤマト運用は怪しいって……」
ヤマトは拳を握った。
この商売は信用がなによりも大事だ。
それを傷つけられてしまえば、商売として成り立たなくなってしまう。
とにかく今は、顧客を説得することと、情報源を断たなければならない。
「信じてください。僕はこれまでにも十分な運用成績を上げてきました。金庫番の融資担当だってそのことは知っています」
「そうは言われてもなぁ……」
「とにかく今は、落ち着いてよく考えて頂きたいです。資産の運用というものは、短期で儲かるものではありません。長期的に運用してやっと効果が出始めるのですから」
「でもそれで毎年の運用手数料をとられて、何年か経った後で失敗しましたなんて言われても困るんだよなぁ」
「今一度ご検討をよろしくお願い致します」
ヤマトはそう言って深く頭を下げ、カウンターのシルフィとマヤも頭を下げた。
客からすれば不安になる姿だが、彼らも鬼ではない。
気まずそうに目をそらして「また来るわ」と言って帰ってくれた。
「はぁ……」
「先生、ありがとうございます。助かりました」
「私、怖くて……」
マヤは疲れたように笑みを作り、シルフィが涙目になりながら唇を震わせる。
「二人とも大丈夫だよ。僕がなんとかするから」
ヤマトはそう言って、返金を求める客の要望は丁重に断るよう指示し、アヤを連れて店を出た。
とにかく噂の出所を断たねばならない。
しばらく駆け回って、噂を流している人たちには辿り着けたものの、彼らはヤマトの悪い噂を広めるよう指示されていただけで、その依頼主は教えてもらえなかった。
だが、トリニティスイーツの活動休止といい、考えられる可能性は一つだ。
突然のことだったが、ハンナもシルフィもマヤも、引き止めることはできず、笑顔で送り出した。
しかし彼女の選択が正しかったのかは、誰にも分からない。
それからは店に暗い空気が満ちた。
ラミィの不在は、仲間たちの士気を大きく下げたのだ。
それは彼女の存在がみんなの中で大きいことの証明であり、それを感じることができてヤマトは少し嬉しかった。
しかし状況はいまだ最悪。
顧客の増加も預かり資金の増加もこれ以上望めず、運用も損はしていないものの大きな利回りを期待できる状況でもない。
ヤマトは、マヤたちに店を任せ外へ出ていた。
「今日は遠出するかな」
「…………」
なにげない呟きでは、後ろを歩くアヤは反応しない。
ヤマトはため息を吐き立ち止まった。
「アヤ」
「……はい、ヤマト様」
「なにも良い手が浮かばないんだ」
悲しげに眉尻を下げながら告げる。
それもなにげない言葉だった。
それでももしかすると、アヤならなにか良い案を出してくれるのではないか、そう期待した。
「ヤマト様なら、どんな窮地でも乗り切ることができます」
「……かいかぶりすぎだよ」
「いいえ、あなたは絶望から私を救ってくれました。だから信じています」
「そっか……」
ヤマトは肩を落とすと、再び当てもなく歩き出した。
すると肩の上でピー助が鳴く。
「クェェェ……」
「仕方ないよ。今は、そういう状況なんだから」
ピー助は、なにも有益な情報を持って帰って来れなったことを詫びていた。
いつも元気な彼がしょんぼりしていると、ヤマトも気が滅入る。
「――ヤマトくん!」
突然名を呼ばれ顔を上げると、ハンナが立っていた。
店番をしているはずのハンナが。
肩で息をして焦燥の表情を浮かべており、ヤマトは表情を引きしめた。
「ハンナ?」
「店が大変なの! 早く戻って来て!」
彼女はそう言ってヤマトの手を引き走り出した。
「店にいったいなにが!?」
「話は後!」
「――っ!」
すぐに店へ到着し中へ入ると、数人の男たちが受付のマヤとシルフィへ詰め寄っていた。
よく見ると、中小商会の会長であったり店主であったりと、みんな契約済の顧客だ。
ヤマトはわけが分からず、彼らの後ろから声をかける。
「いったいなにがあったんですか!?」
「あ、あんたは会長の!」
「なぁ頼むよ、金を返してくれ」
「ど、どういうことですか?」
思わぬ言葉に目を丸くしたヤマトは聞き返す。
すると、彼らは困ったように顔を見合わせ、言いずらそうに告げた。
「実は、あんたの商売は高い手数料を取る割にまったく儲からないって聞いたんだ」
「……は?」
「だから、客から金を取るだけの詐欺まがいの商売だって知ったんだよ」
「ちょっ、ちょっと待ってください! それは酷い誤解ですよ!」
「いやぁ、俺たちも金を預けるだけで儲かるなんて、そんなおいしい話があるはずないと本当は気付けたはずなんだけどなぁ……口車に乗っちまった自分の責任だ。手数料の分は支払うから、金を回収させてくれよ」
「俺も頼む!」
「わ、私も!」
「そんなぁっ……」
ヤマトは唖然とした。
いったいなにが起こっているというのか。
しかしこんな人数の預り金を決済してしまえば、現状では収支がマイナス。
それに加えて、ただでさえ少ない手元の営業資金が減ってしまう。
そう簡単に彼らの要望をのむわけにはいかなかった。
「待ってください! いったい誰からそんなことを言われたんですか!?」
「知り合いだよ」
「その方は、実際に損をされたんですか?」
「そんなの知らないよ。ただ、ヤマト運用は怪しいって……」
ヤマトは拳を握った。
この商売は信用がなによりも大事だ。
それを傷つけられてしまえば、商売として成り立たなくなってしまう。
とにかく今は、顧客を説得することと、情報源を断たなければならない。
「信じてください。僕はこれまでにも十分な運用成績を上げてきました。金庫番の融資担当だってそのことは知っています」
「そうは言われてもなぁ……」
「とにかく今は、落ち着いてよく考えて頂きたいです。資産の運用というものは、短期で儲かるものではありません。長期的に運用してやっと効果が出始めるのですから」
「でもそれで毎年の運用手数料をとられて、何年か経った後で失敗しましたなんて言われても困るんだよなぁ」
「今一度ご検討をよろしくお願い致します」
ヤマトはそう言って深く頭を下げ、カウンターのシルフィとマヤも頭を下げた。
客からすれば不安になる姿だが、彼らも鬼ではない。
気まずそうに目をそらして「また来るわ」と言って帰ってくれた。
「はぁ……」
「先生、ありがとうございます。助かりました」
「私、怖くて……」
マヤは疲れたように笑みを作り、シルフィが涙目になりながら唇を震わせる。
「二人とも大丈夫だよ。僕がなんとかするから」
ヤマトはそう言って、返金を求める客の要望は丁重に断るよう指示し、アヤを連れて店を出た。
とにかく噂の出所を断たねばならない。
しばらく駆け回って、噂を流している人たちには辿り着けたものの、彼らはヤマトの悪い噂を広めるよう指示されていただけで、その依頼主は教えてもらえなかった。
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