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第五章 伝説の大投資家
思わぬ再会
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それから沈黙が続き、しばらく時間が立つと、開店の時間となった。
時計の音が鳴り響くと同時に扉が開き、客たちが一斉に飛び込んで来る。
昨日よりも遥かに数が多い。
「ちょ、ちょっと待って」
「まだ営業は開始できませんので、どうかお待ちいただけませんか!?」
マヤとハンナが慌てて立ち上がった。
押し寄せてきた客たちは、今にもつかみかかりそうな勢いで「金を返せ」と言って来る。
マヤが説得しようとするも、
「そんなこと言って、俺たちの金を持って逃げ出す気じゃないのか!?」
と客たちはヒートアップするばかりだ。
しかしヤマトは絶望のどん底からいまだに立ち直れず、客たちを前にうな垂れたままだ。
アヤはなにも言わず、ヤマトの前に立って客たちの視線から彼をかばった。
「アヤ……」
「ヤマト様は私がお守りしますから」
小さなアヤの背中が、今はとても頼もしく見えた。
だが、もうどうすることもできない。
今はただ、不安に押しつぶされそうな少女たちを解放してやるぐらいしか、ヤマトにはできないのだ。
ヤマトは肩の上で不安そうに鳴くピー助の頭をなでると、ゆっくり立ち上がった。
そしてもういいと言うように、アヤの肩に手を置く。
「アヤ、ありがとう」
「ヤマト様?」
ヤマトは覚悟を決め、目の前に群がる目の血走った客たちを見据える。
「みなさま、申し訳あり――」
「――こりゃなんの騒ぎだい?」
そのとき、凛々しく力強い声がまっすぐに店内へ響いた。
それはヤマトの言葉をかき消し、彼の頭に懐かしく響く。
ざわめいていた客たちも、ただならぬ覇気に気圧され、急に静かになった。
「この声は、まさかっ……」
ヤマトは信じられないと目を見開き、前方から堂々と歩いてくる女性に目を奪われた。
「やれやれ。上手くいってるって言うから、冷やかしに来てみれば、なんの騒ぎだい?」
存在するだけで周囲を圧倒してしまうほどのオーラを纏ったその女性は、長く美しい金髪を後ろへ流した、エルフの美女だった。
白い眼帯で片目を隠し、モデルのように高い身長に、すらりとした体躯。
高級なベージュのロングコートを着こなす様は、上流貴族のような優雅さをたずさえている。
女は、気だるそうにため息を吐くと、鋭い視線をヤマトへ向けた。
彼女の姿が、遠い記憶にあっ思い出に重なり、ヤマトは思わず叫ぶ。
「……し、師匠!?」
「うっさい、黙れ。お前みたいなヘタレ男など、弟子に持った覚えはない」
「えぇ……」
開口一番、キッパリと拒絶されたヤマトは茫然とする。
すると、彼の肩からピー助が飛び立ち、師匠の胸元へ飛び込んだ。
「クェェェッ!」
「ピー助か。元気だったか?」
「クェッ!」
「ふふふっ、お前は相変わらず可愛いなぁ」
師匠はピー助には優しい。
先ほどまでの張り詰めた覇気はなく、今は頬を緩ませながら小鳥の頭をなでている。
ヤマトは頬を引きつらせながら、おそるおそるたずねた。
「し、師匠、僕は?」
「あぁん?」
「ひっ……なんでもないですぅ……」
「クゥンッ!」
突然ピー助がキリッとした顔で鳴くと、ヤマトの肩に戻った。
すると師匠は、「ふむ……」と顎に手を当て思案し始めた。
それまで彼らの様子を黙って見ていた客たちがざめつき始める。
「おい、なんだあの女? ここの店主に師匠って呼ばれてたぞ」
「どっかで見たことが……」
「待て、あの人、まさかケルベム・ロジャーじゃないのか!?」
「え? それって、伝説の大投資家じゃ……」
「嘘だろ? そんな大物がなんでこんなところに……」
さすがは有名人。
彼女の姿を見ただけで正体に気付いた者がいるようだ。
ケルベム・ロジャーといえば、この国イブリスで有名な投資家で、彼女も運用商会を経営している。
その年利は、数十年という長い年数運用していながら、最低でも20パーセントを下回ったことがないというバケモノじみた手腕だ。
ただし、顧客の資産を運用することはしておらず、最近は慈善活動として多額の運用利益を寄付したりしていた。
当のケルベムは客たちの視線など気にせず、周囲を見回す。
そして表情をやわらげると弟子へ問うた。
「なんだ、困ってるのか?」
時計の音が鳴り響くと同時に扉が開き、客たちが一斉に飛び込んで来る。
昨日よりも遥かに数が多い。
「ちょ、ちょっと待って」
「まだ営業は開始できませんので、どうかお待ちいただけませんか!?」
マヤとハンナが慌てて立ち上がった。
押し寄せてきた客たちは、今にもつかみかかりそうな勢いで「金を返せ」と言って来る。
マヤが説得しようとするも、
「そんなこと言って、俺たちの金を持って逃げ出す気じゃないのか!?」
と客たちはヒートアップするばかりだ。
しかしヤマトは絶望のどん底からいまだに立ち直れず、客たちを前にうな垂れたままだ。
アヤはなにも言わず、ヤマトの前に立って客たちの視線から彼をかばった。
「アヤ……」
「ヤマト様は私がお守りしますから」
小さなアヤの背中が、今はとても頼もしく見えた。
だが、もうどうすることもできない。
今はただ、不安に押しつぶされそうな少女たちを解放してやるぐらいしか、ヤマトにはできないのだ。
ヤマトは肩の上で不安そうに鳴くピー助の頭をなでると、ゆっくり立ち上がった。
そしてもういいと言うように、アヤの肩に手を置く。
「アヤ、ありがとう」
「ヤマト様?」
ヤマトは覚悟を決め、目の前に群がる目の血走った客たちを見据える。
「みなさま、申し訳あり――」
「――こりゃなんの騒ぎだい?」
そのとき、凛々しく力強い声がまっすぐに店内へ響いた。
それはヤマトの言葉をかき消し、彼の頭に懐かしく響く。
ざわめいていた客たちも、ただならぬ覇気に気圧され、急に静かになった。
「この声は、まさかっ……」
ヤマトは信じられないと目を見開き、前方から堂々と歩いてくる女性に目を奪われた。
「やれやれ。上手くいってるって言うから、冷やかしに来てみれば、なんの騒ぎだい?」
存在するだけで周囲を圧倒してしまうほどのオーラを纏ったその女性は、長く美しい金髪を後ろへ流した、エルフの美女だった。
白い眼帯で片目を隠し、モデルのように高い身長に、すらりとした体躯。
高級なベージュのロングコートを着こなす様は、上流貴族のような優雅さをたずさえている。
女は、気だるそうにため息を吐くと、鋭い視線をヤマトへ向けた。
彼女の姿が、遠い記憶にあっ思い出に重なり、ヤマトは思わず叫ぶ。
「……し、師匠!?」
「うっさい、黙れ。お前みたいなヘタレ男など、弟子に持った覚えはない」
「えぇ……」
開口一番、キッパリと拒絶されたヤマトは茫然とする。
すると、彼の肩からピー助が飛び立ち、師匠の胸元へ飛び込んだ。
「クェェェッ!」
「ピー助か。元気だったか?」
「クェッ!」
「ふふふっ、お前は相変わらず可愛いなぁ」
師匠はピー助には優しい。
先ほどまでの張り詰めた覇気はなく、今は頬を緩ませながら小鳥の頭をなでている。
ヤマトは頬を引きつらせながら、おそるおそるたずねた。
「し、師匠、僕は?」
「あぁん?」
「ひっ……なんでもないですぅ……」
「クゥンッ!」
突然ピー助がキリッとした顔で鳴くと、ヤマトの肩に戻った。
すると師匠は、「ふむ……」と顎に手を当て思案し始めた。
それまで彼らの様子を黙って見ていた客たちがざめつき始める。
「おい、なんだあの女? ここの店主に師匠って呼ばれてたぞ」
「どっかで見たことが……」
「待て、あの人、まさかケルベム・ロジャーじゃないのか!?」
「え? それって、伝説の大投資家じゃ……」
「嘘だろ? そんな大物がなんでこんなところに……」
さすがは有名人。
彼女の姿を見ただけで正体に気付いた者がいるようだ。
ケルベム・ロジャーといえば、この国イブリスで有名な投資家で、彼女も運用商会を経営している。
その年利は、数十年という長い年数運用していながら、最低でも20パーセントを下回ったことがないというバケモノじみた手腕だ。
ただし、顧客の資産を運用することはしておらず、最近は慈善活動として多額の運用利益を寄付したりしていた。
当のケルベムは客たちの視線など気にせず、周囲を見回す。
そして表情をやわらげると弟子へ問うた。
「なんだ、困ってるのか?」
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