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第五章 伝説の大投資家

伝説の大投資家

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 師匠の問いにヤマトは冷や汗を浮かべつつ無言で頷く。
 ケルベム・ロジャーは冷徹で厳しい人だと有名だ。
 それは弟子のヤマトが相手でも、変わらない。
 しかし、困っている人を見捨てるような人でもなかった。

「まったく、手のかかる弟子だ。仕方ない、これからお前のかせを外してやるよ」

「かせ?」

「レイナ!」

「かしこまりました」

 ケルベムが名を呼ぶと、後ろで控えていた美しい黒髪のメイドが前へ出る。
 彼女はひときわ大きい風呂敷を持っており、それをカウンターテーブルの上へ置いた。

「師匠、これはいったい……」

「いいから黙って見てな。おいお前たち!」

「「「は、はい!?」」」

 ケルベムがざわついていた客たちを見回し呼びかける。
 すると、一部の者は声を上げてきちんと姿勢を正した。
 彼女にはそれだけの威厳があるのだ。

「この中に情報屋はいるかい?」

「は、はい」
「私もそうですが……」

「なら、なにボサッとしてんだい!?」

「「へ?」」

「スクープだよ! このケルベム・ロジャーが、弟子の運用する商会に数百億って大金を預けるんだからねぇっ!」

「「「なっ!?」」」

 周囲が一斉にざわついた。
 ケルベム自身の口から聞いたことで、ヤマトが本当に伝説の大投資家ケルベム・ロジャーの弟子と認識しただろう。
 さきほどまでの殺気立った雰囲気は見事に霧散していた。

「さっ、こっちはつもる話があるんでね。今日は店じまいだ。帰った帰った!」

 ケルベムは彼らへしっしっと手を振る。
 それを見てハンナが控えめに声を上げた。

「そんな、勝手に……」

「ハンナ、ここは師匠に任せてくれ」

「う、うん、ヤマトくんがそう言うなら」

 客たちは困惑の表情を浮かべ顔を見合わせながらも、ケルベムに言われるがまま、彼女のメイド『レイナ』に「はいはい、出口はこちらですよー」と誘導されて店を出て行った。

 急に静かになった店内には、ヤマトたち四人とケルベムとレイナの二人。
 ケルベムは、茫然としているヤマトを見ると、ニィッとエスっ気たっぷりに頬をつり上げた。

「久しぶりだな、バカ弟子」

「相変わらずの口の悪さですね、師匠。でも、さっきはありがとうございました」

「よせや。お前に礼を言われると、虫唾むしずが走る」

「……あの、言葉の使い方間違ってません?」

 師弟の感動の再会にしては殺伐とした会話だが、二人はどこか楽しげだった。
 いきなりの師匠登場に戸惑っていたマヤたちは、ゆっくりとヤマトの横へ歩み寄る。
 マヤ、ハンナ、アヤを順番に見回したケルベムは、鼻で笑った。

「ヤマト、あんたバカ弟子からエロ弟子になったのか?」

「なってませんよ!」

 ヤマトが顔を赤くして反論すると、ケルベムはくくくと愉快そうに笑った。
 
「まさか、先生のお師匠様があの伝説の大投資家だったなんて、思いもしませんでした」

「驚かせてごめん、マヤ。言っても信じられないだろうから、黙ってたんだ」

「いいえ。むしろ、これで先生の実力にも納得できますよ」

「お嬢さん、こんなのを先生って呼んでんのかい? こんなヘタレ、悪いことは言わないからやめときな」

「好き勝手言わせておけばぁ……」

 ヤマトは眉をヒクつかせ、肩をプルプルと震わせる。
 しかしさっき自分のしようとしていたことを思うと、ヘタレと言われても否定できない。
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