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第五章 伝説の大投資家

反撃の決意

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 ケルベムの言葉に対し、マヤは首を横へ振った。

「いいえ、先生は素晴らしい方ですよ」

「そうかい」

 またなにか言ってくると思ったが、ケルベムはそれ以上なにも言わず頬を緩めた。
 どこか嬉しそうだ。
 ハンナとアヤのほうは、話についていけてないようで首を傾げている。

「けるべむ……なに?」

「わかんない……」

「まあ、お嬢ちゃんたちにはまだ早い世界さね。もう少し大人になったら、私の名を知ることになるだろうよ」

「むぅ? お姉さん、なに言ってんのさ、私たち、もう大人だよ!」

「そうです、結婚だってできちゃいます!」

 ハンナとアヤは頬を膨らませ不服そうに言う。
 するとケルベムは、顔をほころばせ、小動物を愛でるように二人の頭をなでた。
 二人が気持ちよさそうに目を細め、ボーっとしだすと、ケルベムはヤマトへ再び向き直った。

「それで、どういう状況だい? いったいなにをやらかしたら、顧客たちに敵意を向けられるのさ?」

「それが――」

 ヤマトはここまでのことをすべてを話した。
 かつてのパーティメンバーの仕返しのことから、ドグマン家による圧力のこと、誰かが妙な噂を流していること……そしていなくなったシルフィのことを。
 シルフィに持ちかけられたであろう話については、マヤとハンナも知らなかったので、少し取り乱した。

「――なるほどねぇ、事情は分かった。なかなか厄介なことに巻き込まれているわけだ」

「師匠、良ければ、手を貸してくれませんか?」

「断る」

「即答!?」

「当たり前だ。私だってヒマじゃない」

「そうですよね……」

「だから、かせを外してやったんだ」

「さっきも言ってましたけど、かせってなんのことですか?」

「おいおい自覚がないとはな。私がそう教育したとはいえ、そこまで無関心だと私も泣いちゃうぞ?」

「またまたご冗談を。師匠が泣くなんて、天地がひっくり返ってもありえな――」

 ――ガツンッ

「痛っ!」

 ヤマトの脳天にゲンコツが落ちてきた。
 とてつもない衝撃にたまらず涙が浮かぶ。
 すると、すかさず横からマヤが頭をさすってきた。

「よしよし」

「マ、マヤっ、恥ずかしいよ……」

「こほんっ。お前が持ちうる究極の武器。それは、ヤマト・スプライドがケルベム・ロジャーの後継者であるという圧倒的な『ブランド力』と『信用』だ」

「っ! そういうことですか」

「さっきのを見ただろう? この国での私という存在の影響力は、それほどまでに強大だ。もしお前のほうがそれを悪用しようものなら、蹴飛ばして奈落の底に落としてやるところだが、今は緊急事態なんだろう? 特別に私の名を使っていい。とういうか、さっきの情報屋が勝手に流すだろう」

「そうでしょうね」

「後は好きにやりな、バカ弟子。だけど、女一人取り返せないなんてヘマしたら、許さないからね」

「もちろんです。シルフィは必ず、救い出してみせます!」

 ヤマトは拳を握り、師匠の目をまっすぐに見て宣言した。
 ケルべムは満足そうに鼻を鳴らすと、マヤの差し出した書類にサインし、正式にヤマト運用の大口顧客となる。
 彼女が「また手紙よこせよ」と言って去って行くと、ヤマトはシルフィを取り戻すべく、本気の攻勢に出ようと決意を固めるのだった。
 
「もう容赦はしない――」
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