異世界投資家の逆襲 ~冤罪で国を追われた王子は、辺境の地で最強の投資家として成り上がる~

高美濃 四間

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第三章 闇の一族

リスクヘッジ

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「――金額交渉、一切してきませんでしたね」

 ルインは怪訝そうに言う。
 ノベルたちは、商会の屋敷に戻るなりイーリンを加えて会議を開いていた。
 マルベスは先ほど、渡した契約書に軽く目を通してはいたが、そこに書かれていた投資額についてなにも言ってこなかったのだ。
 「もっとつり上げろ」という強引な要望くらいは覚悟していたのに、張り合いがない。

「幹部で話し合ってから交渉するということでしょうか?」

 首を傾げたアルビスは特に気にしてはいないようだった。
 しかし、その「幹部での話し合い」という行為自体に、ノベルは違和感を感じていた。
 最初に情報を寄越せと言ってきたマルベスは、それを有益か決めるのは「自分」だと言っていた。決して「自分たち」ではない。
 だというのに、この案件については幹部で話し合ってから決めるという。

「……こちらも、既に準備は始めておいた方がいいのかもしれません」

「準備、ですか?」

「リスクヘッジです」

 ノベルの言葉に、ルインはなるほどと頷く。
 交渉が失敗したり、予想外な不測事態が起こった際の保険として、対策を打っておくのは当然のことだ。
 それからしばらく話題が途切れ、イーリンが不機嫌そうに頬を膨らませた。

「それにしても、マルベスさんという方は本当に野蛮な方ですわ! ノベルさんに危害を加えようとするなんて!」

「まったくですな」

 アルビスも頷く。
 扉の前に立っていたアリサは、能面のような表情で呟いた。

「ノベル様に手を上げるなんて、決して許せません。ただ……」

「ただ? なんですの?」

「本気で傷つけようとしている感じではありませんでした」

 アリサの言葉にノベルも頷く。
 マルベスは確かに粗暴な男なのかもしれないが、商談においては頭が切れる。
 控えていた部下たちがほとんど口を出してこなかったのも、彼の判断を信じていたからだろう。
 そんな男が感情に流されて交渉相手を傷つけたりするだろうか。
 むしろ、あれがマルベス流の豪快な交渉術なのかもしれない。

「もしかしたら、交渉の流れを変えようとしたのかもしれない。あれは多分、ただの演出で、寸止めでもするつもりだったのかも」

「そうなると、やはり油断ならない男ですね」

「そう思います。マルベス商会の行動は注意して見ておいた方がいいかもしれません」

「承知致しました」

 ルインはアルビスへ目配せし、準備を始めさせた。
 これで会議はお開きとなり、ノベルは椅子に深くもたれかかりため息を吐く。
 ルインたちが部屋を出て行った後、どのようにしてマルベスを味方につけるか、一人で思案するのだった。
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