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第二章 繁栄の生贄
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原生林の生い茂る豊かなフィールド、それはドラチナスのすぐ近くにあった。
ここからさらに北へ行くと、アビスの出没するエリア『深緑の密林』があり、その先へ進めばヴァルファームのイノセントへ、西側へ進めばドルガン中心部に続く整備された街道があり、よく商人が通ってくる。
だが今のウィルムには関係のないことだ。彼はひとまず薬草を探し始めた。
町付近であれば、大したモンスターも出ないから安心して動き回れる。
一応、腰にはミスリル銀製のロングソードをぶら下げてはいるが、今はまともに握れないし抜く気もなかった。
それからしばらく、たくましく生い茂る草木を掻き分け、薬草やキノコ、山菜などを採って袋に詰めていく。
ウィルムにとって久々の採取クエストは、昔に戻ったようで懐かしさがこみ上げてきた。
しかし、ふとした瞬間に兄シルバやアクアたちの顔が脳裏に浮かび、そのたびに胸がズキズキと痛んだ。
「僕は、なにをしてるんだろうな……」
薬草へと伸ばした手を止め、悲しげにまつ毛を伏せ呟く。
そのとき、背後の雑木林でガサガサとなにかが動く気配があった。
ビクッとウィルムの肩が震え、顔が緊張で強張る。
「っ!」
慌てて立ち上がり、そちらを振り向くと、そこにいたのは二匹の鹿だった。
首筋をまっすぐ伸ばしてゆっくり四足で歩き、愛らしいつぶらな瞳をウィルムへ向けている。
「おどかすなよ」
ウィルムはため息を吐いて苦笑した。
そこでふと顎に手を当て思案にふける。
鹿の角は、滋養強壮をはじめとして薬剤に用いれば様々な効能がある。
持ち帰ってフローラか素材専門店にでも売れば、多少の金にはなるのだ。
ウィルムの頬が悔しげに歪む。
剣が抜けないのだ。
「くっ……」
まるで金縛りにでもあったように、ウィルムが無言で立ち尽くしていると、鹿たちは踵を返し歩き去って行く。
もちろん追いはしない。
「ふぅ」
再びため息を吐く。
気を取り直して収納袋を見ると、いつの間にかクエスト達成条件の採取量は超えていた。
ウィルムは神妙な表情で一人頷き、そろそろ引き上げようと、町へ続く草道へ目を向ける。
「……なんだ?」
少し離れた位置に、黒装束を纏った正体不明の人物が三人並んで立っていた。
中央のリーダー格は一人だけ白い鬼の仮面をかぶり、右手には重そうな幅広の片手剣。
左右の二人は、黒のスカーフで顔を隠してダガーを握っており、その風貌に見覚えがあった。
先日、イノセントからの帰り道で襲いかかって来た襲撃者だ。
三人とも静かな殺気を放りながら、足音も立てず近づいて来る。
「な、なんなんだ、あんたたちはっ!?」
ウィルムの叫びを無視し、三人は武器を構え駆け出す。
ウィルムの背筋に怖気が走った。
またもや自分を狙ってきたのだ。どう考えても偶然ではない。彼らの目的は間違いなくウィルム・クルセイドだ。
彼は緊張に顔を強張らせながらも、腰の鞘を左で支え柄を右で握る。
「っ!」
だがやはり、手が震えて汗が吹き出しまともに抜けない。
対する敵はもう目の前。
ウィルムはやむを得ず、背を向け一心不乱に駆け出した。
「くそっ!」
進行方向は深緑の密林。
アビスと遭遇する可能性が高いエリアだ。
それでも襲撃者たちは、逃げるウィルムの後ろにピッタリついて来る。
――ヒュンッ!
空を切り、背後からなにかが飛んで来た。
「ぐあっ」
なにかがウィルムの太ももを裂き、バランスを崩して倒れ込む。
しかし腐っても元ハンター。受け身をとってすぐに膝を立て、背後へ目を向ける。
すると、ダガーを持った襲撃者の一人が地を蹴って高く跳躍し、ウィルムの頭上から斬りかかって来た。
ここからさらに北へ行くと、アビスの出没するエリア『深緑の密林』があり、その先へ進めばヴァルファームのイノセントへ、西側へ進めばドルガン中心部に続く整備された街道があり、よく商人が通ってくる。
だが今のウィルムには関係のないことだ。彼はひとまず薬草を探し始めた。
町付近であれば、大したモンスターも出ないから安心して動き回れる。
一応、腰にはミスリル銀製のロングソードをぶら下げてはいるが、今はまともに握れないし抜く気もなかった。
それからしばらく、たくましく生い茂る草木を掻き分け、薬草やキノコ、山菜などを採って袋に詰めていく。
ウィルムにとって久々の採取クエストは、昔に戻ったようで懐かしさがこみ上げてきた。
しかし、ふとした瞬間に兄シルバやアクアたちの顔が脳裏に浮かび、そのたびに胸がズキズキと痛んだ。
「僕は、なにをしてるんだろうな……」
薬草へと伸ばした手を止め、悲しげにまつ毛を伏せ呟く。
そのとき、背後の雑木林でガサガサとなにかが動く気配があった。
ビクッとウィルムの肩が震え、顔が緊張で強張る。
「っ!」
慌てて立ち上がり、そちらを振り向くと、そこにいたのは二匹の鹿だった。
首筋をまっすぐ伸ばしてゆっくり四足で歩き、愛らしいつぶらな瞳をウィルムへ向けている。
「おどかすなよ」
ウィルムはため息を吐いて苦笑した。
そこでふと顎に手を当て思案にふける。
鹿の角は、滋養強壮をはじめとして薬剤に用いれば様々な効能がある。
持ち帰ってフローラか素材専門店にでも売れば、多少の金にはなるのだ。
ウィルムの頬が悔しげに歪む。
剣が抜けないのだ。
「くっ……」
まるで金縛りにでもあったように、ウィルムが無言で立ち尽くしていると、鹿たちは踵を返し歩き去って行く。
もちろん追いはしない。
「ふぅ」
再びため息を吐く。
気を取り直して収納袋を見ると、いつの間にかクエスト達成条件の採取量は超えていた。
ウィルムは神妙な表情で一人頷き、そろそろ引き上げようと、町へ続く草道へ目を向ける。
「……なんだ?」
少し離れた位置に、黒装束を纏った正体不明の人物が三人並んで立っていた。
中央のリーダー格は一人だけ白い鬼の仮面をかぶり、右手には重そうな幅広の片手剣。
左右の二人は、黒のスカーフで顔を隠してダガーを握っており、その風貌に見覚えがあった。
先日、イノセントからの帰り道で襲いかかって来た襲撃者だ。
三人とも静かな殺気を放りながら、足音も立てず近づいて来る。
「な、なんなんだ、あんたたちはっ!?」
ウィルムの叫びを無視し、三人は武器を構え駆け出す。
ウィルムの背筋に怖気が走った。
またもや自分を狙ってきたのだ。どう考えても偶然ではない。彼らの目的は間違いなくウィルム・クルセイドだ。
彼は緊張に顔を強張らせながらも、腰の鞘を左で支え柄を右で握る。
「っ!」
だがやはり、手が震えて汗が吹き出しまともに抜けない。
対する敵はもう目の前。
ウィルムはやむを得ず、背を向け一心不乱に駆け出した。
「くそっ!」
進行方向は深緑の密林。
アビスと遭遇する可能性が高いエリアだ。
それでも襲撃者たちは、逃げるウィルムの後ろにピッタリついて来る。
――ヒュンッ!
空を切り、背後からなにかが飛んで来た。
「ぐあっ」
なにかがウィルムの太ももを裂き、バランスを崩して倒れ込む。
しかし腐っても元ハンター。受け身をとってすぐに膝を立て、背後へ目を向ける。
すると、ダガーを持った襲撃者の一人が地を蹴って高く跳躍し、ウィルムの頭上から斬りかかって来た。
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