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最終章 激動の最終決戦
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――一方、時は遡る。
領主選当日の朝、ウィルムは領主の館に駆けつけるべく家を出た。
ルークをなんとしても勝たせるため、カエデをギルドの手から救い出すために。
だが、家を出てすぐに足を止める。
「――久しぶりですね、ウィルムさん」
「あ、あなたはっ……フローラの!」
家の扉の前に立っていたのは、フローラ店長のシャームだった。不健康そうな暗くやつれた顔に、痩せ細った体型は以前と変わらず、シミ一つない上質な白衣を纏っている。
ウィルムが今最も情報を聞き出したい相手の一人だ。
しかしなぜ、ギルドの重鎮である彼のほうから訪ねて来たのか分からない。
ウィルムは顔を強張らせ警戒心を強める。
周囲を見回しても他に誰もおらず、シャーム一人のようだ。しかし、ギルドの副会長でもあるため、どこかに護衛が潜んでいる可能性は高い。
シャームは、ウィルムのことなど興味なさそうに視線を後ろへ向けていたが、少し経っても誰も出てこないのを確認すると視線をウィルムへ戻した。
「一人ですか?」
「それはどういう意味です? そもそも、なぜあなたがこんなところにいるんですか!?」
「なに、昨日あなたがうちに来たと聞きましてね。カエデ君を探しているとか。実は我々も探しているのですよ」
シャームは感情の読めない平坦な声で告げ、そのしらじらしい言葉を聞いた途端、ウィルムの頭に血が上る。
いったいなんの演技かと。
カエデを連れ去ったと考えられるは、ギルド以外にはない。
ウィルムはシャームの目を見据えて叫んだ。
「しらばくれるつもりですか!? カエデを連れ去ったのは、あなた方でしょう!?」
「ほぅ? なぜ、そう思うのです?」
「決まっている。領主選でカドル補佐官を勝たせるためですよ。あなた方ギルドは、カドル補佐官と繋がっている。だから、ギルドにとってな不利な情報を知るカエデの身柄を拘束した。それをルークさんが利用しないために。違いますか!?」
ウィルムの声には怒りが滲み、いつの間にか拳を強く握りしめていた。
彼らギルドは、アビスを生み出した元凶。
アクアや兄、大切な仲間たちの仇でもある。
それを目の前にして、冷静でいられるほうが不思議なくらいだ。
それもこれも、竜人の血に宿る高潔さゆえだと、兄のシルバなら言うだろう。
「ふむ……そうなると、リスクは残るか……」
シャームはウィルムの怒気をぶつけられても気にせず、顎に手を当てぶつぶつと呟いていた。
その姿はやはり研究者と思わせるような思慮深さを醸し出している。
「……仕方あるまい。少し付き合ってもらいましょうか」
「なにを企んでいるんですか。そんなことよりも、早くカエデを解放してください!」
「慌てなさんな。そのことで話があるのですよ。まずはついてきなさい」
シャームは奈落の底のように暗い瞳をウィルムへ向けて言った。
まるで影が差しているかのような表情には、感情が見えずなにを考えているのか本当に分からない。
ウィルムが警戒心をあらわにして身構えていると、こちらの返答も聞かずにシャームは背を向け歩き出した。
「ちぃっ……」
ウィルムは忌々しげに顔を歪め、真っ白なその背中を睨む。
ついて行けばカエデに会える、とは限らないし、そうこうしているうちに領主選が始まってしまう。
しかしそれでも、彼にはそうする以外の選択はなかった。
たとえ、ルークの不利になると分かっていたとしても――
領主選当日の朝、ウィルムは領主の館に駆けつけるべく家を出た。
ルークをなんとしても勝たせるため、カエデをギルドの手から救い出すために。
だが、家を出てすぐに足を止める。
「――久しぶりですね、ウィルムさん」
「あ、あなたはっ……フローラの!」
家の扉の前に立っていたのは、フローラ店長のシャームだった。不健康そうな暗くやつれた顔に、痩せ細った体型は以前と変わらず、シミ一つない上質な白衣を纏っている。
ウィルムが今最も情報を聞き出したい相手の一人だ。
しかしなぜ、ギルドの重鎮である彼のほうから訪ねて来たのか分からない。
ウィルムは顔を強張らせ警戒心を強める。
周囲を見回しても他に誰もおらず、シャーム一人のようだ。しかし、ギルドの副会長でもあるため、どこかに護衛が潜んでいる可能性は高い。
シャームは、ウィルムのことなど興味なさそうに視線を後ろへ向けていたが、少し経っても誰も出てこないのを確認すると視線をウィルムへ戻した。
「一人ですか?」
「それはどういう意味です? そもそも、なぜあなたがこんなところにいるんですか!?」
「なに、昨日あなたがうちに来たと聞きましてね。カエデ君を探しているとか。実は我々も探しているのですよ」
シャームは感情の読めない平坦な声で告げ、そのしらじらしい言葉を聞いた途端、ウィルムの頭に血が上る。
いったいなんの演技かと。
カエデを連れ去ったと考えられるは、ギルド以外にはない。
ウィルムはシャームの目を見据えて叫んだ。
「しらばくれるつもりですか!? カエデを連れ去ったのは、あなた方でしょう!?」
「ほぅ? なぜ、そう思うのです?」
「決まっている。領主選でカドル補佐官を勝たせるためですよ。あなた方ギルドは、カドル補佐官と繋がっている。だから、ギルドにとってな不利な情報を知るカエデの身柄を拘束した。それをルークさんが利用しないために。違いますか!?」
ウィルムの声には怒りが滲み、いつの間にか拳を強く握りしめていた。
彼らギルドは、アビスを生み出した元凶。
アクアや兄、大切な仲間たちの仇でもある。
それを目の前にして、冷静でいられるほうが不思議なくらいだ。
それもこれも、竜人の血に宿る高潔さゆえだと、兄のシルバなら言うだろう。
「ふむ……そうなると、リスクは残るか……」
シャームはウィルムの怒気をぶつけられても気にせず、顎に手を当てぶつぶつと呟いていた。
その姿はやはり研究者と思わせるような思慮深さを醸し出している。
「……仕方あるまい。少し付き合ってもらいましょうか」
「なにを企んでいるんですか。そんなことよりも、早くカエデを解放してください!」
「慌てなさんな。そのことで話があるのですよ。まずはついてきなさい」
シャームは奈落の底のように暗い瞳をウィルムへ向けて言った。
まるで影が差しているかのような表情には、感情が見えずなにを考えているのか本当に分からない。
ウィルムが警戒心をあらわにして身構えていると、こちらの返答も聞かずにシャームは背を向け歩き出した。
「ちぃっ……」
ウィルムは忌々しげに顔を歪め、真っ白なその背中を睨む。
ついて行けばカエデに会える、とは限らないし、そうこうしているうちに領主選が始まってしまう。
しかしそれでも、彼にはそうする以外の選択はなかった。
たとえ、ルークの不利になると分かっていたとしても――
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