サクリファイスリベリオン ~冤罪で追いつめられた元凄腕ハンターは、ギルドの陰謀を暴き人脈を駆使して復讐する~

高美濃 四間

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最終章 激動の最終決戦

本能による恐怖

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 そして、時は領主選終盤へ――

「――俺の仲間に手を出すな」

 カエデへと伸ばされた、グレイヴの手首を掴んだ最後の乱入者は――

「ウィルム!?」

「バ、バカなっ!? なぜ、奴がここに!?」

 カエデとホルムスは、それぞれ驚愕に声を上げる。
 突然、疾風のように現れたウィルムの姿は酷いものだった。
 戦争から帰って来た戦士のように全身傷だらけで、服にも血がべったり付着しボロボロだ。
 だが、彼の目は戦う意志を失っていない。
 凄まじい殺気を放つグレイヴを前に、堂々と立ちはだかっている。
 グレイヴは血管が破裂しそうなほどの青筋を額に浮かべ、強引にでもウィルムの手を振りほどこうとするが、ビクともせず額に冷汗を浮かべていた。
 それを見たカドルが忌々しげに眉を寄せ叫ぶ。

「また部外者だ! ルーク殿の画策だ! すぐに引っ張り出せ!」

「待ってください! あれはウィルム・クルセイドです!」

 ルークはカドルの思い通りにさせまいと対抗する。
 ウィルムが来ることは想定外だったが、ここにきてようやくチャンスが巡ってきたのだ。それを逃すわけにはいかない。
 運も実力のうちと言うが、これをものにする実力がないのなら、領主になどなれなくて当然だ。
 しかしカドルも必死で、形勢を変えさせないためにあえて声を張り上げる。

「だからなんだ!? 部外者に採決の邪魔をさせるつもりかっ!?」

「部外者ではありません」

「なんだと? ふざけたことを言うな!」

「ウィルムのありもしない疑惑を争点にしたのは、あなただ! この討論の決着はまだついていません! その答えが自ら現れたのだから、白黒つけるのが筋でしょう!?」

「ルーク、貴様ぁ……」

 揚げ足取りのようなルークの反撃に、カドルは顔を憤怒に染め睨みつける。
 だがルークの言っていることは正論だ。
 ウィルムの疑惑を利用し討論で逃げ切ろうとしたのだから、ウィルムを無関係だと断じることはできない。
 彼の満身創痍の姿を見るに、ギルドに襲われていたことはルークにも分かる。
 だからこそ、彼がここに来れないと知っていて、カドルはすべての元凶に仕立て上げようとしていたのだ。
 カドルは矛先をウィルムへ向ける。

「ウィルム・クルセイド、そなたは部外者だ。そこの薬師を連れてでも構わんから、さっさと出て……っ!?」

 カドルは最後まで言いきらず言葉を詰まらせた。
 その理由は、ウィルムの目を見たから。
 まるで、燃え盛る業火のような熱気を放つ眼光は、カドルに身を焼かれるほどの錯覚を植え付ける。

「な、なんだ、その目は……」

 カドルは声を震わせのけ反る。ウィルムの迫力に圧倒されていた。
 恐怖に膝がガクガクと震え、冷汗が噴き出す。恐れを抱いたが最後、もうなにも言えない。
 ルークも、ウィルムの内に秘める想いに驚きながらも、目の前のカドルへ言い放った。

「ただの人間が竜の相手だなんて、役不足にもほどがある。勘違いしないでください。あなたの相手は私だ」

「くそっ……」

 カドルは屈辱に唇を震わせ、気を落ち着かせるために下を向く。
 人が竜に挑めばどうなるか、その身をもって体験することになった。
 グレイヴは自分から目線を反らし、カドルを威嚇したウィルムの態度に、ますます激昂げきこうする。

「……放せ」

 グレイヴが地獄の底から響くような低い怒声を発した。
 その顔は憤怒に赤く染まり、まさしく野性の獣。
 黄金の髪を逆立て興奮に鼻息を荒くしている。
 ウィルムは再び目線を前へ戻すと、躊躇ちゅうちょなく手を離した。
 その直後、グレイヴはすんでのところで抑えていた怒りを爆発させ、拳を振り上げた。

「貴様ぁぁぁぁぁっ!」

 野獣の如き咆哮に文官たちは肩を震わせ恐怖する。
 カエデが慌てて「ウィルム!」と叫ぶが、ウィルムはその場から一歩も動かない。
 ただ静かに闘気を研ぎ澄まし、グレイヴを見据えるだけだ。

「っ!?」

 ウィルムの顔面めがけて振り下ろされるかに思われた拳は、ピタリと止まっていた。ウィルムの憤怒の形相を見て固まっているのだ。
 静寂が場を包み、まるで時が止まったかのような錯覚すらしてしまう。
 ルークが固唾をのんで見守っていると、しばらくしてグレイヴが後ずさった。
 拳を下ろし、顔が引きつっている。

「お、お前はなんなんだ……」

 グレイヴからは、まるで強風に吹かれたロウソクの火のように、先ほどまでの荒ぶる怒気と殺気が消え失せていた。
 ウィルムから叩きつけられている覇気に、恐れおののいている。
 まるで、蛇に睨まれた蛙……いや、巨大な龍に睨まれた獅子という構図だ。
 たとえ百獣の王であっても、生物の頂点とも言える強大さには敵わない。
 
「グ、グレイヴ殿!?」

 ホルムスが慌てたように呼びかけるが、グレイヴは動けない。
 生存本能で危機を感じているのだ。
 彼は、ウィルムにとって憎き仲間の仇、ギルドのトップ。
 許すに値にしない悪の権化ごんげ
 怒りや憎しみ、悲しみと様々な感情の入り混じった眼差しに覇気を纏わせ、威嚇しながらウィルムは告げる。

「俺は、このときのために生き抜いてきた。決して、あんたたちを許さない。これで終わりだ」

 憤怒に顔を歪ませ拳を握りしめるウィルム。
 これでようやく、すべてが終わる。彼ら竜人族が苦しめられてきた悪夢が。
 すぐにでも、感情に任せてグレイヴを殴りつたいウィルムだったが、なんとか理性で押しとどめる。
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