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39話 久しぶりだな

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 俺とグラ、ヘルラレンの3人は賑わう大勢の人をかき分けながら、ある場所にたどり着いた。
 その場所を見上げながらグラは首を傾げた。

 「ここはどこだ?」
 「ここは俺が住んでいただ」

 ここに久しぶりに来て思ったが、今俺達が住んでいる家とはほとんど真逆の位置にあるようだ。
 どうりで全く見かけないわけだ。
 でもここは王都なんだし、ばったり会った方が奇跡か。

 俺は扉を軽く3回ノックして返事を待った。
 
 「誰だ? もしかしてハーシュか?」

 この声、久しぶりに聞くな。
 扉を挟んでいるせいで少し声がこもっているが、この声は恐らく――。

 ゆっくりと扉が開いていき、向こう側から扉を開けた人物と目があった。

 「……は、え……ライ……?」
 「久しぶりだな。レイン」

 レインの顔を見るのは、俺を殺そうとしてきたあの日以来だな。
 俺にナイフを投げてきやがったことは、いまだ正確に覚えている。 

 「どうして……死んだはずじゃ……」
 「俺を勝手に殺すな。ていうか入らせてもらうぞ」
 「ちょっと勝手に……!」
 「おいなんだうるせぇな」

 俺たちの騒ぎを聞きつけて、奥に部屋から声がした後筋肉で覆われた巨体が顔を出した。
 その後ろにはもう2人ついてきていた。

 「……どうしてお前が生きてやがるんだ……!」
 「久しぶり、ドラウロ。それにウド、リエンも」
 「え、どういうこと……?」
 「何で死んだ奴が生きてるんだ……?」
 
 だから勝手殺すな。
 生きてるっつうの。

 「そろいもそろって酷い奴らだな。本当にこいつらはライと同じ勇者なのか?」

 グラはドラウロ達の顔を順番に見ていきながら、少し呆れ気味にそう言った。

 「あ? なんだと? 俺達を誰だかしらねぇのか?」
 「知っている。だからこそ聞いているのだ。こいつらは本当に勇者なのか、と。自称勇者ではないのか?」
 「この女……!」

 ドラウロは顔に血管を浮かばせて、床に振動を響かせながらグラに向かって腕を伸ばした。
 だがドラウロを一切避けようとせず、その場にいる者を凍りつかせるほど金の瞳で睨みつけた。

 「触るな。人間」
 
 グラは伸ばされた腕を掴むと、そのまま離さず壁に叩きつけた。
 ドラウロの巨体が思い切る壁にぶつかり、壁がメキッと音を立てた。
 どうやら一体自分に何が起こったのか理解してないようで、壁にもたれかかったまま動かないでいる。

 レイン達も同様に呆然としている。
 こんな巨体が1人の女に投げられたとなれば、こんな反応になるにも当然か。

 「勇者ってのはこんなものか。ライ、こんな奴らに負けていたとは相当弱かったんだな」
 「ま、まあね……」

 ルーレルに感謝だな。
 
 「え、ちょっと待って。その言い方だと今の僕たちになら勝てるみたいな言い方だけど」
 「その通りだが、何か余はおかしなことを言ったか?」 
 「……!」

 ていうか、こんなことしてる暇はないんだよ。
 
 「ハーシュはいるか?」
 「……誰が教えるかよ……」
 
 もういいんだよそういうのは……。
 俺達はそんなに暇じゃな――。

 「おいさっさと答えろ。ハーシュはいるのか、いないのか、どっちだ」

 グラはイラついた顔でウドに詰め寄ると、胸ぐらを掴み上げて軽々と持ち上げた。
 どうやら相当頭に来ているらしい。
 神を怒らせてこれだけで済むなんて、ウド達はだいぶ運がいいな。
 今頃ピエロ達は可哀想な事になっているだろうに。

 「わかった言うよ! ハーシュはしばらく帰ってきていない!」
 「本当か? 余の目を見て言え」
 「本当だって! こんな状況で嘘つくほど僕は馬鹿じゃないから!」
  
 おぉ……ウドのこんな慌てる姿初めて見たな。
 いつも僕僕言って余裕ぶっていたが、こいつも慌てたり出来るんだな。

 もう用がないと判断したのか、グラは胸ぐらから手を離して、尻もちをついて痛がるウドを白い目で見た。

 それにしてもハーシュが帰ってきてないとなると……これはまずいな……。
 ハーシュは今相当危険な状態にあるということだ。
 こうなったら今すぐ助けに行かないと!

 「ヘルラレン」
 「何?」
 「ハーシュがここにいないってことは、魔界に連れ去られたって事になるよな?」
 「その可能性が高いね」
 
 「おい、それってどういう事……」とレインは口を挟んできたが、説明すると長くなるから無視しておく。

 「だったら今すぐ魔界に行こう。ハーシュを助け出さないと」
 「その必要はないよ」
 「その必要はないって……どうしてだよ!」
 「ああ、勘違いしないでね。助ける必要がないって意味じゃなくて、魔界に向かう必要がないって事だから」

 魔界に向かう必要がない?
 でも、どっちにしろ行かないと助けられないだろ。
 
 「来てくれてるからね」 
 「来てくれてる?」
 「そう。来てくれてるんだ。ハーシュを連れて」


 ◇◆◇


 俺達は元パーティーハウスを出て、家に向かっていた。

 どうやらヘルラレン曰く、悪魔達はハーシュを連れて移動を続けているようだ。
 ハーシュの魂である、闇の神フネアスの気配を一度感じ取ったことで、いつでも感じることが出来るようになったらしい。

 そして悪魔達の到着地点だが、らしい。
 
 ちなみに、ドラウロ達には「後でどうせ会うことになるから」と伝えておいた。
 多分、もうすぐこの国にも悪魔の情報が入る。
 そうなれば騎士達はもちろん、この国にある全パーティーも招集をかけられるはずだ。
 少なくとも勇者である俺達には、絶対招集をかけられるけどな。
 勇者というのはそういう時こそ見せ場なのだ。

 そしてしばらく歩き、ようやく家が見えてきた。

 そういえば、もうジューザラス達は帰ってきているかな?
 いやでも、流石にそれはないか。
 だって別れてからまだそんなに時間経ってな――。

 「おせーよ。どこで何やってたんだ? あぁ?」
 「お帰り……」
 
 マジか……早すぎじゃね……?
 扉を開けて家に入ってみると、もうすでにジューザラスとルーレルは椅子に座っていた。
 座るといっても、ジューザラスは椅子を3つ使って寝転んでいるが。

 そしてそんな2人の隣には、紐で何重にも巻かれている5人の姿があった。
 めちゃくちゃ汚れている。

 「えっと、誰この人達」
 「みりゃわかんだろ。あのクソピエロ達だ」
 
 なんだ生きていたのか。
 俺はてっきり殺されるものだと思っていたが、勘違いだったようだ。
 
 それにしても、ピエロのマスクを着けていないせいで誰だか分からなかった。
 皆顔を下に向けて動かずにいる。
 おーい、生きてるか?

 誰1人として顔を上げず、声も出さないので近づいて確認してみる事にした。
 すると俺に気付いたのか、俺の正面にいた男が顔を上げた。

 「す……すいませんでした……」
 
 あー、これは結構やられたんだな。
 もう顔が完全に死んでしまっている。
 
 それにしても、どうしてこいつらは俺を殺そうとしたんだろうか。
 この男とも全く面識がないし、このピエロの話を聞いたこともない。
 聞いてみるしかないな……。

 「なあ、どうして俺を殺そうとしたんだ?」
 「それは……言えない……」
 
 そう来るか。
 言い方的に誰かから雇われたとかそんな理由か?
 でもそうなると一体誰に?という疑問が残る。

 「おい、今お前達が殺されていないだけマシと思え。余も邪魔してきたお前達を殺してやりたくて仕方がないのだぞ」
 「ひぃぃぃぃ!」
 「それがわかった話せ」
 「わ、わかりました!」
 
 グラはすごい形相でピエロ達を睨んでいる。
 少しでも変なことを言ったら、関係のない俺まで殺されそうだ。

 「じ、実は……俺達は国王様から勇者ライ・サーベルズを殺すよ命じられました」
 「は? 国王?」 
 「嘘ではありません。俺達は今まで国王様の殺し屋として動いてきました」

 そういうパターンか……。
 これはー……困ったな。

 
 
 

 
 
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